Ⅴ 危険(リスク)

しかし、技術は両刃もろはの剣です。

特に、強力な画期技術の使用には注意が必要です。

農耕技術は、不作による飢饉ききんなどの恐れを伴います。

工業技術も、核戦争や気候変動の危険をもたらしました。

情報技術も、ウイルスやデマ拡散などを通じて、

社会に甚大な被害をもたらす恐れがあります。


人工知能でも、将来は人間の知能を超えた汎用AIが、

映画『ターミネーター』のように制御を離れ、

人々に危害を及ぼすのではと心配する識者はいます。

そこまでいかずとも、高度な人工知能が人間に悪用されたり、

命令を誤解したり、重要な判断を誤ったりするだけでも、

大きな危機をもたらしてしまうかもしれません。


『人工知能は楽園も終末ももたらしうる』と言われるように、

用法を誤れば人間の文明や存在意義さえおびやかしうる技術なので、

あくまで最終目的は人が正しく決定し、良い結果を導けるよう、

開発・利用をしっかり管理していくことが不可欠でしょう。


そこで、『勝てぬなら混ざれ』(イーロン・マスク)とばかりに、

人間の脳と電算組織コンピュータシステムの直接的な接続を図り、

さらには人工頭脳への人格転移マインドアップローディングを考えるなど、

人間自身が近づくことで、危険を避ける発想も生まれてきました。


究極的には、人類が各種の量子頭脳や機械・生物的な身体の間で

自由自在に人格を移転できるようになれば、

神や悪魔のような全知全能・永遠不滅に近い存在になれましょう。

私も拙作せっさく『ルシファー』シリーズで、その設定を使いました。


もちろん人格転移マインドアップローディングほど高度な技術は、すぐには実現できないでしょう。

しかしいずれは遅かれ早かれ、『人間は神のようになる』

(レイ・カーツワイル)ともいわれます。

どうせなるなら『責任ある神々にならねばならない』

(Y.N.ハラリ)ということで、

今から安全策を考えておくことも大事でしょう。


安全対策としてはまず、知的生命活動の段階に応じて、

学習内容を管理したり、行動能力を制限したり、

判断過程を可視化・調整したりする実現技術や、

その開発のための研究・開発技術が必要となります。


しかし、こうした強力な画期技術の健全な導入には、

研究・開発や機器製造・利用を行う私達人間自身への、

技術的政策による規制や支援も不可欠です。


また、技術が変える社会の中で、

投資と配分を最適に両立させる経済・社会政策、

社会を営む我々自身の能力を高める人的資源政策、

以上の政策を健全に行う行政管理政策といった、

他政策との連携も求められます。


さらに、そうした政策の実施を助ける

企画支援技術オペレーションズ・リサーチなど、

社会工学的な技術も重要になってきます。


それらができて初めて、AIを中心とする次世代技術が、

今はまだ解決しきれない政策課題の解決を可能とし、

次なる文明段階を導いてくれるのだと思います。

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