第2話 成人の試練

射手の統領

Zu-Y


№2 成人の試練


~~現在~~


 誕生日の数日後、俺は統領代理の叔父貴たちに、表座敷に呼び出された。内容は分かっている。俺の成人の試練のことだ。親父が逝って8年、俺は先日、とうとう15歳=成人となった。

 そしてこの8年間、親父の言い付けを守って、俺は操龍弓での稽古をひたすら重ねて来た。


 親父が最期に俺に課した操龍弓での、的心への百発百中は、10歳のときに会得した。その後、現在に至るまで、親父に言われた通り、百発百中を秘すために、的枠を掠るように狙う稽古をしている。

 すでに、的枠の内側、外側、自在に掠らせることができる。的枠に当てないのは、操龍弓の威力で矢が的枠に深く突き刺さると、矢を抜くのが結構な手間になるからだ。


 また、二の叔父貴からは遠矢、三の叔父貴からは速射、末の叔父貴からは動き的を学んでいる。それぞれ、叔父貴たちの得意な技だ。


「叔父貴どのたち、お待たせした。」


 主の座の中央に二の叔父貴、向かって馬手側の上手に三の叔父貴、弓手側の下手に末の叔父貴が座している。俺は主の座の真正面に座った。


 3人の叔父貴たちを代表して、二の叔父貴が話を切り出した。

「アタルよ、とうとう成人したな。成人の試練は、これなるふたりを介添として、霊峰の樹海に入り、3日でどれだけ獲物を狩れるかだ。まぁ、10体も狩れば上々よな。」


 二の叔父貴が言うふたりとは、主座のすぐ下に控える2歳年上の俺の従姉ふたり。刀部トノベ家と薬師ヤクシ家に嫁いだ双子の伯母御たちの、それぞれ一の姫である。


 トノベに嫁いだ動の伯母御の一の姫がサヤ姉、ヤクシに嫁いだ静の伯母御の一の姫がサジ姉である。刀の鞘に薬匙と言う、まぁなんとも安易な。笑

 …と、的に中る。の俺がとやかく言えた義理ではないがな。


 それから霊峰とは、ユノベの館に近いフジの霊峰、この国の最高峰である。

 霊峰の麓には樹海があり、いろいろな獣が生息している。樹海の中で迷うと非常に厄介だ。

 まぁ成人の試練としては妥当な内容だが、しかし、俺はすでに自分の成人の試練の内容を8年前から決めている。


「叔父貴どの、申し訳ないが、俺の成人の試練は、親父どのの仇を討つことと、8年前から決めている。」

「なんと…。」意表を突かれ、そしてやや呆れた表情になった二の叔父貴。

「よくぞ申した。しかしな…。」三の叔父貴は取り敢えず褒め言葉を口にしたが、ダメ出しの言葉を選んでいる。それを末の叔父貴が引き継ぐ。

「黄金龍討伐は一筋縄ではいかんぞ。わがユノベ一党、総出となろうよ。次期統領の成人の試練とは言え、大掛かり過ぎるな。」


「それにの、この8年、黄金龍は行方がはっきりせぬのだ。おそらくは霊峰のどこぞに巣ごもりしているのだろうて。」と二の叔父貴。

「操龍弓を持つと、彼奴の気配が分かる。霊峰の8合目あたりに新たな巣を作っている。」

「真か。では斥候を出して確かめるか。」と末の叔父貴。

「いや、俺の成人の試練だから俺ひとりで行く。」

「ならん。たとえ操龍弓があっても危険過ぎる。」と三の叔父貴。

「彼奴は寝ているのだ。寝ている黄金龍を仕留めるだけのこと。ぞろぞろと大勢で行けばかえって起こしてしまう。」

「その通りだわ。私たち3人で十分よ。ね?サジ。」

 こくり。

「え?サヤ姉、サジ姉。俺はひとりで行くって言ってるんだぞ。」

「何言ってんのよ。ひとりで樹海を突破できる訳ないじゃない!ね?サジ。」

 こくり。


「いや、実は俺、もう樹海はいつでも飛び越えられるんだが。」

「どうやってよ。そんなに気軽に樹海を抜けられる訳ないでしょ!ね?サジ。」

 こくり。

「まぁ、最初は1日掛けて樹海を抜けたけどな。あとは流邏矢が一手あればいい。甲矢に館を登録しといて、樹海を抜けた先で乙矢を登録して、甲矢で帰館したんだ。」

「では、今は樹海をひとっ飛びと言うことか。」と二の叔父貴。

「うむ。流邏矢の特性を生かした使い方よな。」と三の叔父貴。

「しかし部隊の行動には使えぬな。」と末の叔父貴。

「だから俺がひとりで行くと言っている。」


「ねぇ、アタル。その流邏矢ではひとりしか飛べないの?私たちも一緒に飛ばせないかしら?ね?サジ。」

 こくり。

「うーん、どうだろう。流邏矢は射手を登録地まで飛ばすんだが、結構な荷物を背負ってても一緒に運べるから、行けるかもしれないな。試したことはないけど…。

 途中で離れたらシャレにならないから、しっかり抱き付いてもらって、さらに命綱があるといいかな。」

「抱き付くって…。でもアタルなら弟みたいなもんだし私は平気かな。サジはどう?」

「うーん…。」こくり。

「サヤ姉とサジ姉に両方から抱き付かれるのか…。さすがにそれは照れるからパスだな。」

「あんたねぇ。私たちがいいって言ってるのに何よ!」

 こくり。こくり。


「いや、離れの瞬間に移動して、残身のときはもう着いてるから、俺は抱えてやれないんだよ。やっぱ危ないだろ。やめようぜ。」

「あ、…甲矢で…試せば…いい…のかな…?ここで…。」

「サジ。あなた、天才!」

「う…ばれたか。」

「アタル…気付いて…たの…?」

「あ、いや、その…。」サジ姉、そのジト目、怖い。ごめんなさい。


「あんたねぇ、パーティ単位での移動はこの先、絶対に使えるわよ。早いうちに試しておいた方がいいでしょう?

 それとも何?私たちじゃ不満だとでも言うのかしら?私たちより、叔父様たちに抱き付かれたい訳?ね?サジ。」

 こくり。

「むさ苦しい叔父貴どのたちに抱き付かれるのは嫌だ!サヤ姉とサジ姉の方がいい。でも照れるんだからしょうがないだろ!」


 お袋は早くに亡くしており、記憶にすらほとんどない。俺が3歳のとき、流行病で逝ったと聞いている。

 一方、叔父貴たちは独身を謳歌しており、3人とも、女性とは外でよろしくやっている。

 通いの女中は中年のおばさんだ。

 つまり館には女っ気がない。弓の稽古一筋できた俺には、その手の免疫がないのだ。


「「「アタル、むさ苦しいとは何だ!」」」

 おい、そこでハモるな。…油断した。

 思わず叔父貴たちの方に注意を向けてしまって隙ができた刹那、2人の従姉に襲われた。弓手側からサヤ姉。馬手側からサジ姉。

 しっかりと抱き付いて来ている。

 ふたりともニコニコしている。ふたりの方がいいと言い切ったことで気をよくしたようだが、比べた相手が叔父貴たちだぞ。ふたりとも、ちょろいんじゃないか?


 とはいえ、双丘×2の感触。小振りだが凄ぇぇぇ。ああ、ふたりとも、いい香りだ。…いいもんだな、これ。

「なんだか平気みたいだ。」

「あたり前でしょう。」

 こくり、こくり。

 あー。…マイサンがイキって勝手にマイドラゴンに変身してしまったのは内緒にしておこう。


 それから流邏矢の甲矢で、館から館への超近距離パーティ移動を試したら難なく成功。

 念のためと言いながら、何度か試して安全性をくどいくらいに確認した。

 それほど、小高い4丘の柔らかさと、ほのかに甘美な香りは、俺を虜にしたのであった。


 弓手側がサヤ姉、馬手側がサジ姉の定位置となった。

 前は弓を引くからダメだが、後ろは空いている。もうひとりくらいは行けるな。

 しかし、一瞬で移動できてしまうため、俺がふたりを抱えられないのが残念でしょうがない。ちくしょうめ。


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2作品同時発表です。

「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16816927859461931262


小説家になろう様にも投稿します。

https://ncode.syosetu.com/n2002hk/

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