推しを抱きしめながら家に帰ったら謎の美人が微笑んでいた。
まふ
第1話 美人の目は琥珀色
「おかえり〜!稀子ちゃん!部屋あったまってるよ?」
「ど、どちら様です……??」
家に帰ったら、美人がいた。それもただの美人じゃない。超絶美人(男)だ。真っ白な髪。同色の長いまつ毛。きらきら輝く、蜂蜜を閉じ込めたような琥珀色の瞳。しみ一つない、雪のような肌。そこだけ桜色に色づいた唇は、つやつやと光っている。鮮烈な各パーツの印象だが、浮かべている表情は優しい。
「やだなー!忘れちゃったの?僕だよ僕!」
「えっえっ……ええ〜こんな美人の知り合いいたら絶対忘れないんだけどなあ〜????」
「あはははは〜まあ、稀子ちゃんだしね!仕方ないよ!」
「そ、そうかなあ?」
「うんうん、とりあえず、なかはいんなよ。寒いでしょ?」
「え、あ、うん、おじゃましま〜す。」
「あははははは!自分の家なのに、稀子ちゃん面白すぎるあはははは。」
大爆笑中の美人さんを拝みつつ、ちょっとここで冷静になるために自己紹介をさせて欲しい。
私の名前は、
「稀子ちゃん?ほらほらコート脱いで?」
「あ、うん。」
「ん!かけとくから手、洗ってきな〜。」
「あ、ハイ……。」
この状況、何ぞ??
とは思いつつ、18連勤を終えた疲労で頭が働かない。ぼけーとしたまま手洗いうがいをし、気づいたらこたつに入って美人さんが入れてくれたミルクティーを飲んでいた。
「美味しい?」
「え、うん。美味しい!……………………じゃ、なーい!」
「わー。」
「ここは!私の!家!」
「ウン、ソウダネ。」
ずびし、と美人さんの眉間に指をさす。
行儀が悪い?確かに。でも、でもでもでも!言わなきゃいけないことは、言わなきゃいけないのだ。そうじゃないと、後々大変なことになるというのは、よーくよーく骨身に染みて分かってるんだから!!と、言うことでどこか、きょとんとした様子の美人さんに向かって叫ぶ。
「なに勝手に入ってきてるんですか!坊ちゃん!!」
……はえ?坊ちゃん???坊ちゃんってなに??
頭の中で宇宙に猫が飛んでいる。私の脳味噌どうした…………?
「へえ。」
ずっとにこにこしてた美人さんが、す、と無表情になった。え、美人の真顔怖い。
「うーん、やっぱり……報告にあった通り、
「は、はい??」
ぐい、と美人さんのご尊顔が近づいてくる。
「ち、近いぃぃ」とは、口に出せたのだろうか。美人さんの顔が近すぎて、息ができない。わ、肌のきめが……きめがこまかすぎる…!伏し目がちにこちらを覗いてくる表情が何か真剣なのは分かるのだけれど、あの、その………………あううなんかいい匂いもするし、し、しぬ……!!!
「うん。もっかい、やり直しね!」
にこ、と美人さんが微笑んだ。超至近距離。顔が良い。
「え……?」
暗転
「あ、あれ??」
「はい、稀子ちゃん。」
「え、あ、ドウモ……。」
ええっと、あれ?何が起きていたんだっけ……??あ、そうだ!!家に帰ったら謎の美人が居座っていたんだった!!いや、なんでこんな衝撃的なこと一瞬でも忘れられなかな!?渡されたから条件反射で受け取ったマグカップの中身はカフェオレだった。うん。美味しい。
「……へー、稀子ちゃんってこういうのが趣味なんだ?」
「ってちょっとやめてえええ推しをあさらないでえええええ!!!」
興味津々に私の推し、ミクルくんぬいやフィギュアやアクキーなどを眺めたり、つついたりしている美人さんに羞恥やら怒りやらが溢れ出して感情が忙しい。
「ふーん。推し、ねえ……?」
美人さんはそう言ってミクルぬいのほっぺをつんつんした。や、やめ…………………………可愛いな!!つんつんされてるミクルぬいは、ちょっと顔が不恰好になっている。片腕は膝に頬杖を突きながら、半眼でつんつんしてる美人さんに、なぞのトキメキを感じにゃあああああああああ!!!!
「えっ、何?……こわいんだけど。」
「………………気にしないで。」
こたつの天板に額を打ちつける私のはどこからどうみても変人だ。美人さんの視線が冷たい、気がする。
「あの……ほんとに……どちら様ですか……?私、警察に電話した方がいいですか……?」
「あは、それ僕に聞いちゃうの?面白すぎるんだけど。よく言われない?」
「くっそ!美人だからっていって何でも許されるわけじゃないんだからなあああ!!」
でも顔を上げられない。顔見たら何でも許せちゃいそうで怖い。私は、昔から美人に弱い。男でも女でも、美しい人に弱いのだ。笑った顔が見たくて、なんでもしてあげたくなっちゃうのだ。そんなわけで友人からは「貢ぎ型面食い」という残念なあだ名をもらってしまっている。
「はあ、稀子ちゃんが呼んだんでしょ〜?」
「は、はいい?いやいや、そんなわけないでしょうが!」
つい、がばり!と顔を上げると、美人さんが不満そうな顔でこちらを見ていた。くっ顔が良い……!!
「えー、ほら。見覚えない?」
そう言って美人さんは、一枚のチラシをこたつの上に広げた。うわあ、超絶美人は指まで美しいのか……。
「…………えー
美人さんを見るとにっこりと笑っている。ぐう、顔が……やめやめい!気を確かに!私!
「いやいやいや、ひらがな表記にするといきなりほのぼのしちゃうような怪しげな心霊……探偵事務所??そんなところに連絡したおぼえなんて…………………………………………あ、」
数日前の記憶が蘇る。あれは、そう……友人に誘われて行った……心霊スポットでの出来事。
「………………。」
「思い出した?」
「ええと、うん。でも、、あれから何ともないし。」
「あはは、アフターサービスってやつだよ。」
「ええ……え……でも、本当に何ともないよ?」
「まあ、稀子ちゃんはね。何ともないだろうね。でもね、」
美人さんはミクルぬいをこたつに置くと、胸の部分に人差し指をずぶりと刺し、妖しげに微笑んだ。
「お友達の方は、死んじゃうよ?」
「……えっ…………??」
死、という単語にあまりにも馴染みがなく。美人さんが何を言っているのか、全然…………分からない。
「ま、今すぐってわけじゃないし。とりあえず…話を聞かせてよ?」
美人さんは、そういって優しく微笑んだ。私は何故か、その表情に、泣きたくなるよう気持ちになる。……どうしてだろう。何か大切なことを忘れている。そんな気になってくる…………。
「……あれは、二週間前のくらいのことなんだけど…………。」
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