第63話 母の味

 結婚したてのある晩、おくさん手作りのカレーが出た。


「美味しい?」

「うん、とても美味しい」

「口に合う?」

「やけに気にするなぁ」


詳しく聞いてみると、どうやら


『どうしてもカレーは育った母の味じゃないと』


みたいな、話にはよく聞く夫婦喧嘩の元を気にしているらしい。


「確かに舌に馴染んだ味はあるけど、君のカレーは美味しいし何より、これが僕の馴染んだ味に変わるんだからさ」


つまりこれは、僕の舌がおくさんの作る味に染まるほど長く一緒にいようということで。


嬉しそうに微笑むおくさんを見て、僕は内心「決まった!」と思った。


が。



「早く染まれ」


翌日からしばらく毎日カレーになった。

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