絶対に勘違いしないマン~ぼっち系youtuberの俺が大学の美女達にモテるわけがない~

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第1話 美女をお持ち帰りしてしまった件

夜9時。静まり返った住宅街を俺は必死に走っていた。


「おいコラぁ、西谷出てこいやぁ!!」


「コソコソ逃げとるんちゃうぞ!おい陰キャ、早よ出てこんと知らんぞぉ」


俺の逃げてきた方向から、男達の怒鳴り声が聞こえてくる。


「はぁはぁ……はぁ……」


息が苦しい。酸素が足りない。もう限界だ……。


「走れ、走れ、走れ!!」


ガクガクと震える両足に力を入れ、前へと踏み出す。

あいつらに見つかったらタダでは済まないだろう。俺も、俺が今背負っている美しい女性も。


「ぐっ、うぉあっ!」


道路の石ころに躓いて転んでしまった。

おんぶをしている状態で満足に受け身も取れず、顔面から地面に激突する。


「いってぇ……げほっげほっ」


鼻から出てくる血を手で拭い、眠っている女性を背中に乗せて再び走り出す。酸欠で薄っすらとした意識の中、ぼんやりと考える。

あれ、なんで俺、こんなことになってるんだっけ……?






「それでは、ナオヤの誕生日を祝って~~。かんぱーい!!」


「「「かんぱーい!!」」」


ここは東都大学、東野キャンパスの最寄り駅から徒歩5分にある居酒屋『蜂屋はちや』。

座敷タイプの部屋。細長いテーブル越しに30人前後の若者たちが向かい合い、楽しそうにコップを突き合わせている。


今日は俺の所属しているテニスサークル『アップルスカッシュ』の飲み会が貸し切りで行われていた。


音頭を取ったのは俺、西谷にしや 浩太こうた――ではなくサークルのムードメーカーの金髪チャラ男。


名前は……確かそう、須藤俊也しゅんや。法学部の2年生の人だ。全体的にチャラい奴が多いこのサークルでも、頭1つ抜けたチャラさだ。

耳につけた髑髏どくろピアス、ジャラジャラとした金色のネックレス。

俺のようなテーブルの端っこでちびちびとサワーを飲んでいる日陰者とは正反対のタイプだ。


ちなみに俺が飲んでいるのは蜂屋名物、蜂サワー。はちみつと半分のレモンを豪快に使ったサワーで、これがかなり癖になる。というかもうこれしか飲んでいない。


そんなことを心の中で言えるくらい暇を持て余している俺とは対照的に、人口密度が密になっている場所へ目をやる。


「ねぇ、真由ちゃんって彼氏とかいたりするの?」


「何か欲しいものとかある?俺に何でも言っていいよ」


「真由ちゃんは趣味とかあったりする?というか何が好きな感じ?」


「えー、彼氏とかはいないですよ。趣味は喫茶店巡りとかですねー。あ、唐揚げ欲しいです」


サークル内でもイケてる男達がこぞって話しかけているのは我がサークルのマドンナ、牧野まきの 真由まゆさん。外国語学部フランス専攻の2年生。


さらさらとした栗色のロングヘアーにはっきりとした目鼻立ち。ガーリーな服と薄めの化粧、唇に塗った薄桃色の口紅がその可愛さを引き立たせている。


その際立った容姿から、彼女の知名度は大学内ではかなり高い。ミスコンの優勝候補筆頭だという噂がまことしやかに囁かれているほどだ。まさに高嶺の花。


俺みたいな奴があんな美人と付き合いたいなんて大それたことは考えていないが、こうして遠目に見つめていられるだけで幸せだ。


ほろ酔い気分でぽーっとその方向を眺めていると、牧野さんと目が合う。

すると、牧野さんは天使のような笑顔でニコッと微笑んでくれた。


え、嘘だろ?


あまりのことに動揺した俺はグラスをテーブルに置き、ぺこぺこと頭を下げる。

思わず昇天しそうになった。マジで可愛すぎる、反則だろこれは……。


赤の他人ですらあんな笑顔を向けてくれるのだ、牧野さんの彼氏になった奴は毎日が天国だろう。まあ、俺には到底無理な話。

その後は何事もなく、俺は黙々と蜂サワーを飲みながらシーザーサラダとポテトを食べるルーティーンをこなしていた。


ふとスマホの電源をつけると、時刻は9時を指している。

2時間の飲み放題コースで飲み始めたのが7時半だから、そろそろラストオーダーか。

先にトイレに行こうと思って立ち上がると、足元がふらついた。


「おっと。さすがに飲みすぎたか……」


よく考えたら今日の飲み会で喋ったのは最初の「かんぱーい!」だけ。そりゃあ酒が進むわけだ。


我ながら情けない気持ちで男子トイレの入り口ドアの取っ手を握ろうとしたら、中から複数人の会話が聞こえてくる。


聞き覚えがあるこの声は……須藤さんと後藤さん、あと矢田さんだっけ?

よく3人でつるんでいるので、チャラ男3人組と俺が勝手に呼んでいる。俺が1番苦手な人達だ。


「例の件、上手くいってるだろうな?」


「ああ、今回もバッチリだぜ。なんせ今日はあの真由ちゃんだからな。今から楽しみで仕方ないぜ!」


「うをっ、考えただけでチンコ勃ってきた。真由ちゃんの高級マンコにぶち込みてぇー!」


「おい、俺が一番最初だぞ?分かってるよな」


「分かってるって!処女は駿也にやるよ。おこぼれはもらうけどな!」


そう言って、ゲラゲラと下品な笑い声を響かせている。


「あいつらぁ……」


頭に血が上っていくのが自分でもわかる。


女の子のことを何だと思ってやがる……。


ドアを開けて1発ぶん殴ってやろうと思ったが、ギリギリのところで思いとどまる。

落ち着け。冷静になれ、西谷浩太。

ここで俺が鈴木達を殴ったところで、何になる?俺が濡れ衣を着せられてあいつらが余計調子に乗るだけだろう。


じゃあどうする。部屋に戻ってみんなにこの話を言う?

いや、それもだめだ。証拠が無さすぎる。

おそらく、俺の言うことより須藤たちのでっち上げた嘘をみんな信じるだろう。

証拠が見つかればまだ勝ち目はあるが……。

刻一刻と時間が過ぎていく。


「くそっ!」


あいつらが牧野さんをお持ち帰りしてレイプするのを、指をくわえて見るしかないのか?

いや、絶対に何か手があるはずだ。牧野さんがお持ち帰りされるのを防ぐ……


「あ、そうか!これならいける……のか?」


頭がスーッと冷えて酔いが覚めてくる。手段はあるにはある。しかし、一歩間違えば俺の立場が危うい。

いや、何を躊躇しているんだ。やるしかないだろ西谷浩太20才!

俺は踵を返し、早歩きで部屋に戻り財布から1万円札をとりだす。


「すいません、これ2人分のお金です!」


「え、ああ、了解。2人分って誰の分?」


「牧野さんです。じゃあ失礼します!」


「え、牧野さん?ってかおい、お釣り――」


「いらないです!それでは」


幹事の人のポカンとした顔を尻目に、俺は部屋を出た。

あいつらが牧野さんをお持ち帰りするつもりであれば入口の近くに寝かせておくはず。


「あ、いたっ!」


予想通り、玄関の靴箱の裏側にあるスペースに寝かされていた。


「おーい、起きてください。牧野さん。聞こえてますか?」


声をかけて、肩をゆすったり顔の前で手を振ったりしたけど全く反応がない。寝ているというより泥酔している感じだ。


「ごめん、牧野さん。財布見させてもらうよ」


罪悪感はあるが今は非常事態だ。

仕方ないと言い聞かせて財布から彼女の住所が書いてあるものを探す。

保険証、運転免許証、学生証etc。全て見たが実家の住所しか載っていない。


「はぁ……」


口からため息が漏れる。こうなったら、もう俺の下宿先に連れていくしかない。

目を閉じて、ゆっくりと息を吐く。


「ふぅー。よしっ」


牧野さんの上半身を起こし背中におぶると、肩先に垂れかかったライトブラウンの髪からふんわりとラベンダーの香りが匂ってくる。そして背中越しに感じる2つの柔らかい感触。


「……って、何を考えてるんだ俺は!」


今はそんなことを考えている場合じゃない。


「ういーっす。みんな戻ったぜー」


「お前ら3人揃って連れションとか仲良すぎだろ!」


「いやー、俺らマブダチだから息ピッタリなんだよな」


誰かの的確なツッコミでみんな爆笑しているのが聞こえる。


「じゃあ明日提出のレポートがあるからそろそろ抜けるわ。みんなおつかれー」


須藤たちが帰り支度をする音が聞こえる。もう行かないと。


「じゃあ、ご馳走様でした」


「はーい!可愛い彼女さんをしっかり送ってあげてね」


「ははっ、頑張ります……」


店員さんの生暖かい視線が痛い。彼女どころか喋ったことすらないんだよな……。


店を出て駅まで続く通りを反対側に歩く。

俺の下宿先は電車で1駅のところにあるにあるので電車で行きたいのだが、駅までは1本道だ。すぐに追いつかれるのは目に見えている。ここから1.5キロほどあるが歩くしかないだろう。


「おいっ、西谷ってやつを探せ!まだ近くにいるはずだ」


「ああ。くそっ、見つけたらボコす!」


「ったく、陰キャのくせに調子乗ってんじゃねえぞ!」


店のほうから声が聞こえてくる。

思っていたより早い。走るしかなさそうだ。


「牧野さん、ちゃんと捕まっててくださいよ!」


俺は寝ている牧野さんを背負って走り出したのだった。





5分ほど走ると周りは閑静な住宅街になっていた。

須藤達の声も聞こえない。もう諦めたのだろう。


「はぁ……はぁ……。おうぇっ。さすがに疲れたな……」


足がガクガクと震えている。酒を飲んでいたのもあって吐き気もひどい。人を背負ってこれだけ全力疾走したのは人生で初めてだ。


休み休み歩いて、ようやく下宿先の築70年になるボロアパートにたどり着いた。


なかなか年季が入っていて設備もボロいが、大家さんは年配の夫婦ですごくいい人達だ。なにより家賃が月3万円と安い。バイトで生活費を賄っている身としては魅力的だ。

そんなわけで、俺はこのボロアパートを気に入っていたりする。


201号室のドアを開けて4畳半の我が家に帰り、牧野さんを降ろした瞬間に全身の力が抜けバタンと床に転がる。


やばい、動けねぇ……。


安心した途端に疲労が全身に回ってきた。もう指一本も動かせそうにない。


「あ、これダメなやつ――」


突如、目の前が真っ白になり俺は意識を手放した。


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初めまして、タマと申します。

こちらは以前投稿していた作品のリメイク版になります。


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