第3話 新しい構想、新しい戦力
コルネーにいると、一番気になるのはナイヴァルとフォクゼーレの情報である。
コルネーという国家にとってより重要度が高いのは敵対関係が維持されているフォクゼーレ帝国のものである。もっとも、レミリアはつい先日までフォクゼーレ帝都ヨン・パオで最前線に近い場所にいたので、フォクゼーレについての情報を鮮度の古いコルネーで確認する必要はない。必然、ナイヴァルの情報収集という方向性になる。
「一時期はシェラビー・カルーグが乱心のあまり、総主教一味も含めて皆殺しにして政権に就くという話もあったけれど、それは回避された、と」
「そうですな」
フェザートと茶飲み話をしながら、ナイヴァルの状況を確認する。
「レファールが次期王妃メリスフェールを抱え込んで、総主教側についたことでシェラビーも迂闊に手を出せなくなったという状況らしい。シェラビー対レファールという状況が続くのだろうな」
もちろん、コルネーにいるフェザート含め、正確なレファールの心境を知るものはいない。しかし、第三国から見る状況としてはレファールがシェラビーを止めている状況のように見えるのもまた事実であった。もちろん、ナイヴァルと少し離れたソセロンがユマド神信仰の形において影響度があるという情報もない。
「レファールは、元々はコルネーの生まれです。ほんの一時期だけですが、私の下にいたこともあります。ナイヴァルとの同盟も永遠に約束されたものではないことからすれば、レファールをより取り込んでおくことは損ではないと思うのですが、レミリア王女はどうお考えでしょうか?」
「それは今後の主敵をフォクゼーレとナイヴァル、どちらにするかにもよるのではないでしょうか?」
「なるほど……」
現状、コルネーにとって主敵はフォクゼーレである。となると、ナイヴァルの一派と結びつきを強くすることは望ましくない。残る勢力が不満を持つからである。レファールの一派に食い込むのは、レファールを通じてナイヴァル国内にコルネーの力を浸透させるのであれば意味がある。
(しかし、従来コルネーはそんなことをしていない。今回に限って、というのは準備もできていないし適当ではない)
レミリアの率直な思いである。
「私はフォクゼーレを見限って外に出たわけですが、短期的にはフォクゼーレ軍は強化されると思います。ビルライフはこれまで全く形のなかったフォクゼーレ軍を形にしようとしております。あまりにも優先しているので最終的には行き詰まると思いますが、短期的にはかなりの結果をあげるものと思います」
「ということは、コルネーがフォクゼーレと単独で当たるのはまずいということですな」
「はい。できればイルーゼン・ホスフェを巡る対立にフェルディスを巻き込ませて、コルネーは最後の最後で動くのがいいかと思います」
「なるほど。距離的にも離れておりますしね」
フェザートがレミリアの案に頷いている。
「できればフォクゼーレとの関係も多少は良くしておいた方がいいと思います」
「関係改善と言いましても、乗ってきますかな?」
「フォクゼーレ帝室は乗らないでしょうが、ビルライフを含めた軍は乗ってくると思います。ビルライフをはじめとして、フォクゼーレ軍には長期的展望のある者がおりません。強いて言うなら、ジュスト・ヴァンランと学生のジウェィシーやチリッロということになりますが、彼らにしても参謀や軍師というタイプではなく発言力は弱いものと思います。目先の利益に簡単に乗っかかってくるでしょう。三年程度の不戦条約を締結すれば、二年目以降にはイルーゼンに首を突っ込むのではないかと思います」
「なるほど。三年ですか」
「首を突っ込んで長期化すれば、向こうの方から延期を望むしかなくなってきます。今回、出した分はその時には戻ってくるでしょう」
レミリアはそう説明するのであるが、実現性に関しては半信半疑である。
「もっとも、ワー・シプラスで前王を殺されたコルネーが、先に妥協することができるかどうかという部分がございますが」
「……レミリア王女、陛下にもその説明をしていただけないでしょうか?」
「陛下にですか?」
「……他の者には、我々海軍スタッフが利害を説くことにいたします」
「えっ!?」
レミリアは思わず絶句した。
レミリアが提案する構想:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16817139556891727352
海軍事務所を出ると、エレワに溜息をつく。
「話半分で言っていたのに、まさか本当にやるつもりとは……?」
エレワは「何を今さら」という、呆れたような顔で主人を見つめている。
「ですが、与太や適当で言った話ではないんですよね?」
「もちろん与太話ではないけどね」
「だったらいいんじゃないですか? フォクゼーレでも政変起こさせたんですし、コルネーの方針変えたとしても別に問題ないじゃないですか」
「いや、あの政変は学生達が起こしたものでしょ。私がやったんじゃないわよ」
「他の人はそう思ってはいないはずですが……」
「嘘でしょ。そうなると、私があちこちで暗躍して、何かやっているみたいじゃない?」
エレワが小声で何を言った。レミリアの耳には「いや、事実やっているじゃないですか」と聞こえたのであるが、聞こえないふりをした。
王宮でクンファに説明をした後、レミリアは帰り際に陸軍事務所の近くを寄った。
海軍大臣事務所と比較すると、活気がないように見える。チラッと中を見ると人数が決定的に少ないというのがあるらしい。
(実績があって学校にも顔を出しているらしいフェザートと、大臣自体がまだ学生みたいなムーノ・アークとでは、違いも出るということかしらねぇ)
と、同時にフェザートの戦略の難点も理解する。
(フェザート大臣は優秀な人ではあるのだけど、どうしても海軍に没頭してしまっている。それなのにコルネー自体は陸戦が多いし、今後も陸戦になるはず。ここを改善しないと決定的に主導権を握るのは難しそうよねぇ)
思い浮かぶ顔はジュストである。
(正直、ジュストも自分がいない間に、軍があそこまで強権的になっているとは思っていないだろうし、居づらい思いをしていそうよね。嫁さんもいるのだから、政変に巻き込まれるようなこともしたくないと思っているだろうし)
条件次第では来るのではないか。
彼がコルネーに来れば、陸軍では一番のホープとなれるはずである。
ただし、彼が率いた部隊が前国王アダワルを戦死させた事実があるので、コルネーが受け入れてくれるかというと微妙であった。また、ジュスト自身は身軽な立場であるが、嫁さんはというと軍幹部の一族であるから、かえって足かせとなる可能性もある。
どうやらジュストを連れてくるのは難しそうだ。そう結論づける。
事務所から少し離れたところには、陸軍が使用しているらしい運動場があった。そこで数十人の面々が訓練をしている。何の気なく眺めているうちに、一人の動きに目を見開く。
(ちょっとあの小さいの、すごくない?)
小柄な一人が、数人を引きずるようにしながら前進している。苦労して前進という様子でもない。ひたすらに前進している。ものすごい馬力だ。レミリアは感心して、すぐに海軍事務所へと戻る。
「フェザート大臣、先程陸軍の運動場にいたのですが、物凄い馬力のある小さい候補生がおりました」
「ほう?」
「私は軍については知識が乏しいので、はっきりとしたことは言えませんが、ヨン・パオでもあれだけ物凄い者は見たことがありません。ご存じでしょうか?」
「いや、分からないですね。ちょっと見に行ってみましょう」
フェザートも乗り気になり、二人で運動場へと向かう。
幸いにして、まだ訓練をしていた。
「ああ、あれですね」
依然として小さな男が周囲を引きずりながら前進していた。
「確かに物凄い馬力ですな。あんな者が我が軍にいたとは……」
フェザートもしばらくの間、強い関心をもつ顔つきで小男を眺めていた。
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