第10話 Critical Point②
ブローブ・リザーニの前進を見て、ノルベルファールンは「よし!」と叫んだ。
すぐに台を降りて、馬に乗るとキャンプの外へと向かう。闇の幕が下りている中に、馬のいななき、武器の金属音などが微かに、そこに三千の騎兵がいることを示している。
「ホスフェの勇敢な騎兵隊諸君!」
ノルベルファールンが語り掛ける。
「よそ者で若輩の私を信じて、皆さんよく動いてくれました! 今や勝機はすぐそばにあります!」
一斉に雄叫びがあがる。
ノルベルファールンは剣を抜いて高く掲げた。
「目指すは敵総大将ブローブ・リザーニ! ついでに途中でバフラジー隊にもちょっかいをかけて、コルソン隊の支援もしましょう! 出撃!」
満を持して、ノルベルファールン指揮下の騎兵三千が陣地を出て、堀の南を回り、前進しているブローブ隊の側面を狙うべく進みだした。
北側で交戦を続けていたレビェーデは、休憩のために後ろに回っていた。
時々弓矢を打ちつつも南側を見ていたため、ノルベルファールンが出撃するという状況も遠くにありながら察知できる。
「おぉ、いよいよ最終局面か」
全体の様子は分からない。しかし、両軍ともほぼ全軍の出方が出そろった様子は見えている。ノルベルファールンが最後の一手として出撃したということは間違いない。そうであるならば、彼の部隊が決定的な活躍をしてくれるだろうことも。
「スメドアの旦那もびっくりするだろうな。あんな若造がレファールよりもすごいかもしれないと知れば」
そう言って、背中を大きく伸ばして、再度弓を取る。
「あと少しの踏ん張りだ! みんな、気合入れてかかれよ!」
疲れが見える味方を鼓舞し、再び、激戦の中に身を投じていった。
「動いたか!」
ラドリエルも思わず表情が緩んだ。
「ノルンが敵本隊を攻撃するはずだ! 我々もしっかりサポートするぞ!」
ラドリエルの言葉が味方に次第に伝播していく。
波が広がるように、ホスフェ軍の間に「勝てる」という空気が広がっていった。
しかし、その動きを待っていた者が一人だけ、フェルディス側にもいた。
「動いた……」
ルヴィナがポツリと言った。
「……やはり前進した大将軍がターゲット。間違いない」
ルヴィナはクリスティーヌに言い聞かせるという風でもなく、下へ降りていく。
「行くのね?」
「行く」
下にはグッジェン・ベルウッダと、五人のシンバルを携えた兵士がいた。
「出撃するわ。全員を集めて」
「分かりました!」
グッジェンは自分より三回りは小さい少女の指示に従い、すぐに馬を連れてきた。ルヴィナはヒラリと軽やかに乗ると、腰に差してあった銀の棒を取り出した。
程なくして、二千人の騎兵が整列して集まってくる。全員の視線がルヴィナに集まった。
「今夜は誰も眠らない夜となる!」
ルヴィナが大声で語る。日頃の暗い様子からは想像もつかない大音声に驚きの表情を浮かべる者も少なからずいた。
そんな中、クリスティーヌとグッジェンが「そうだ!」と叫ぶ。
「戦の神ザヴィスも死者を称える宮殿で、この戦いの推移、そして私達の運命を見守っていることだろう!」
そうだ! スーテル・ヴィルシュハーゼも続いた。
「だが、我々の運命は我々の中のみにある! 神も知らぬであろう我々の強さのみが運命を切り開く!」
そうだ! 部隊のまとめ役らが続くようになる。
「今こそ真価を見せる時だ! このリヒラテラの闇の中に! 朝の光が戦場を照らすまでの数時間のうちに!」
そうだ! 声は次第に広がっていた。
「私達のみが、扉を開くことができる! 勝利への重い扉を!」
そうだ! ほとんどの者が続いた。
「神に示すのだ! 星々に示すのだ! 夜が明けるまでに、我が軍が勝つ様を! 我々の強さを!」
そうだ! 全員が声をあげる。
「勝つのは私達だ!」
ルヴィナは左から右に二千人の兵を一瞥して、両手を大きく広げた。
「勝つのは、私達だ!!」
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