ヴァーミナル・オンライン
@YA07
第1話 終わりと始まり
私の目の前から、大きな建物が一瞬にして消え去った。
これだけ聞くといったいどんな怪奇現象なのかと疑いたくなる話だが、これは別に怪奇現象でもなんでもない。なぜならそれは、ゲームの中での話だからだ。
ヴァーミナル・オンライン(通称VO)。三か月ほど前にリリースされた本ゲームは、今もなお熱狂的な盛り上がりを見せていた。
というのも当然の話で、次世代VRMMOと大々的に宣伝されているVOは、多彩なジョブやスキル。広大なマップ。重厚なストーリー。ゲームで第二の人生を。なんてよく使われている謳い文句を全て文句の出ないレベルで体現しており、なんと今でも新規加入者の勢いが止まらないなんて言われているくらいだった。
しかし、中にはそんなことを言われてもよくわからないという人もいるだろう。だが安心してほしい。何を隠そう、私もそういう人だからだ。
友人に誘われて始めたこのゲーム。元々ゲーム自体は好きだったが、『MMOなんて廃人や出〇い厨がやるゲームでしょ』という凝り固まった偏見を持っていた私は、この手のジャンルは全くの素人だった。それこそVOはやってみたら面白かったが、他のVRMMOと何が違うのかと聞かれればわからないと答える他ない。とはいえVOで満足しているので、他のVRMMOに手を出す気も興味もないのだが。
と、前置きはこのくらいにしておいて、本題に戻ろう。
今私の目の前から消え去った大きな建物。これはギルドホームと呼ばれるもので、ギルドという集団に属している人が集まれる家のような場所のことだった。
そのギルドホームが消えた……いや、ギルドホームを消したということは、当然そのギルドという集団がなくなった。つまりは解散したということである。
ここまで言えば、察して頂けただろうか。元々友人に誘われてVOを始めた私が、そのギルドの管理人などやっているはずもない。最初は私を含め一緒に遊ぶ人たちに声を掛けた人がギルドのトップとして君臨していたわけだが、その人がリアルの都合で突然の引退を発表。そこからずるずると人がいなくなっていき…………遂には私一人となってしまったというわけだ。
別に一人だけのギルドでもよかったのだが、我ながら存外にはまってしまったこのゲーム。せっかくなら誰かと遊びたいし、かといって私を誘った友人もやめてしまったので、ギルドを未所属にすることで何か新しい出会いでもあればなと思い切ったというわけだ。
ギルドを解散させた私は、早速一人で狩りをしにアリアン砂漠というところまでやってきていた。
普通に考えれば野良でパーティーを募集するべきなのかもしれないが、それは今の私にはあまりにもハードルが高かった。なぜなら、私は今まで一人でやるか知り合いとやるかの二パターンでしかゲームをプレイしたことがなく、知らない人と一緒にゲームをするということにどうしても壁を感じてしまっていたのだ。それで少し悩んだ結果、ひとまずは一人で狩りに出てきたわけである。
とはいえ、このゲームもそこまで鬼畜ではない。ソロで楽しんでいる人もいるわけだし、そう考えると一人で狩りというのも不可能ではないのである。
「……よし、始めよっかな」
アリアン砂漠を進むこと数分。とある目的の地点まで到達した私は、そう呟きながら私の相棒であるゴルゴーンの弓という武器を構えた。
弓を構えたことからも察せる通り、私の職業はアーチャーという上級職だ。VRゲームというのはやはり爽快感というのが人気らしく、みんな剣や槍といった前衛武器を使いたがる。当初はあまり乗り気じゃなくて「武器?なんでもいいよー」とか言ってしまったことから押し付けられた弓という武器だったが、今では結構気に入っているというのもまた事実であった。
「…………『アイスショット』!」
広大な砂漠の中でも、丘の頂点となっている場所。そこでゴルゴ―ンの弓を構えた私は、アーチャーのスキルの中でもかなりお世話になっている『アイスショット』をエビルスコーピオンというモンスターに向かって発動させた。
私がこのアリアン砂漠を選んだのは、二つ理由がある。そのうちの一つは、アーチャーは障害物が一番の厄介な敵でもあるため、障害物が何もない砂漠であるという点。もう一つは、このエビルスコーピオンの存在だ。
エビルスコーピオンのレベルは43であり、私の現在のレベルは46。VOではレベル差5以内なら適正と言われてドロップ率にマイナス補正が掛からない設定となっているので、まずは最低限度のレベル的な狩りの条件は満たしている。その中でもエビルスコーピオンを狙った理由は、体力と氷耐性の低さが随一であることからだ。
エビルスコーピオンというのはもちろんサソリ型のモンスターで、想像通り物理と魔法両方の防御力と炎耐性がかなり高い。その分先程の通り弱点はあり、更にこの高い防御力という点に関しては、アーチャーの貫通という一定の割合の防御力を無視した攻撃をしてくれるパッシブスキルのおかげでほとんど無力化できる。更に言えば、このゴルゴ―ンの弓は、私が小柄ということも一つの理由になるが、私の身長よりも大きな大弓というカテゴリーの武器となっている。その効果は、火力が上がる分移動速度が大幅に落ちるというまさに脳筋性能。これらが合わされば───
「よし、ワンパン」
不快な機械音を上げながら消滅するエビルスコーピオンを見て、私は不敵な笑みを浮かべた。
ワンパン。つまりは一撃。狩りと言えば、やはりこれに限るだろう。
本来ならアイスショットは相手を凍らせるという追加効果もある優秀なスキルなのだが、まあ今回はそれにも及ばないということで。
「それじゃあ今日も、サソリの猛毒尾100までやりますかー」
実は周囲にエビルスコーピオンの湧きポイントしかないというこの丘。実は以前から日課のように一人通っていた私は、ひとまず日課のサソリの猛毒尾100個ドロップを目標に脳死でアイスショットを放ち続けるのだった。
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