第2話 レベルと装備
それから小一時間ほどかけてサソリの猛毒尾を100個ドロップさせた私は、ゴルゴ―ンの弓をしまってメニュー画面を開いた。
「ショップショップ…………お、昨日の分も完売してるね」
私がそう呟きながら開いたのは、プレイヤーショップというプレイヤー一人一人が持っているショップのページだった。そこでは各プレイヤーが余った素材や装備を売りに出すことができ、他のプレイヤーはアイテム名で検索を掛けることでそのアイテムを売っているプレイヤーのショップがヒットし、買うことができるというわけだ。
そこで私が売り出しているのは、もちろんサソリの猛毒尾だ。どうやらエビルスコーピオンはアーチャー以外のほとんどのジョブにとっては狩りづらいモンスターらしく、そのドロップ品であるサソリの猛毒尾はかなり高い需要を誇っている。そのためサソリの猛毒尾はかなり強気の値段でも捌くことができ、いい稼ぎにさせてもらっているというわけだ。
とはいえ、アーチャーなんて私以外にもいることにはいるだろう。だが、毎日ここへ来て狩りをしている私は、他にエビルスコーピオンを狩っている人を目撃することがほとんどなかった。その理由となっているのが、エビルスコーピオンのレベルの高さ。根本的には、VOでのレベルという概念の影響だった。
VOでは、RPGでよくある敵を倒して経験値を貰ってレベルアップという方式は採用されていない。ではどうやってレベルアップをするのかと言うと、無限の塔という四人パーティー推奨のダンジョンがあり、その階層を一つ突破すると一つレベルが上がるというシステムだった。
つまり、エビルスコーピオンのレベルが43なので、少なくともレベル38のプレイヤーでないとドロップ率が大幅に下がってしまう。私はVOのことに関してはあまりネットで調べないようにしているのでわからないのだが、恐らくアーチャーを選ぶ人は気ままにやっている人が多く、そこまでレベルを上げている人が少ないのだろう。それこそ、もしかしたらアーチャーの中では私が最高レベルなんじゃないかと思うくらいだ。
「いやー、でもそっか。これからは野良でレベル上げなきゃいけないのかー……」
野良と固定パーティーでは、やはり固定パーティーの方が安定した強さがある。野良は野良の楽しさがあるというのもわかるが、その分嫌な人を引く可能性もあるので一長一短というところだろう。私的には野良にあまりいい印象はないが……それでもこれまで頑張ってきたからにはこれからも頑張ってレベルは上げていきたいところだ。無論レベルを上げなくても楽しめるコンテンツはいっぱいあるので、無理してまで上げる必要はないのだが。
「なんてグチグチ言っててもしょうがないか。とりあえずは装備集めがんばろ」
無事に今日の分のサソリの猛毒尾が出品できたことを確認した私は、気合いを入れ直すように呟いて装備集めに移ることにした。
VOでの装備品というのは、全てがモンスターからドロップするものとなっている。そこからさらに強化しようとすると今度はモンスターの素材が必要となってくるわけだが、ここで私のレベルが46で止まっている大きな理由を説明しよう。
VOでは装備品ごとに装備可能レベルというものが設定されており、低レベルで強い装備を使うことは不可能となっている。そしてこの装備可能レベルなのだが、1,6,11,16…………のように、5n+1の形で段階づけられて設定されている。更にそれを意識してなのか、無限の塔でも5n+1の階層でモンスターが格段に強くなる傾向があり、故に私も46レべ───つまり46層で攻略が止まっているというわけだ。
「46レべの装備、なんて言ってたっけなあ……ゴルゴ―ンの弓は強化済みなんだけど」
装備の強化というのも、一回するごとに装備可能レベルが5ずつ増えていく。強化は元となる武器さえあればあとは素材でできるので、プレイヤーショップで買ってしまえばいい。ゲーム内通貨のゴールドには余裕があった私は、ゴールドに物を言わせて46レべに到達した瞬間にぱっぱと強化を済ませたというわけである。
とはいえ、基本的には強化して装備可能レベルを引き上げるよりも元からその装備可能レベルである装備の方が強く設定されている。更には実際に戦闘をしないとスキルの熟練度が上がらないので、スキルの熟練度を上げつつ装備を集めるのが基本的なルーティーンとなっており、強化というのはあくまで繋ぎのような役割であるのだ。
だが、私が愛用しているゴルゴ―ンの弓。もとい、大弓という武器のカテゴリー。実はこれが結構厄介で、よく言えばレア、悪く言えばあまり数が実装されていないマイナーな武器であったのだ。いや、それどころか、私は未だに大弓の武器はこのゴルゴ―ンの弓しか知らないというほどだった。
リリースされて三か月。かなり重厚な作りとなっているVOでは検証が進めづらく、攻略サイトなんかでも人気ジョブや人気武器の詳細は結構進んでいても、不人気なそれらはなかなか発展していなかった。さすがに気になって大弓のことを調べてみたこともあったが、そこには私が知っているよりも少ないくらいの情報しか載っておらず、私はそっと調べるのを諦めてしまった。
というわけで、現状46レべの大弓武器が誰からドロップするのか、むしろ存在するのかすらわかっていない状況なので、ひとまずはこのゴルゴ―ンの弓でやり過ごす予定である。……なんてことを31レべの時から続けているので、さすがにもう誤魔化しがきかないくらいまで来てしまっている気もしているが。
「まあでもとにかくまずはアクセかな。アクセでも火力は上がるし、オプティスリングっていうのが私にいいって話だったし」
ひとまずの狙いをオプティスリングに定めた私は、同じくオプティスリングを狙う野良のパーティーを探すべく街へと戻ることにしたのだった。
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