第10話 サマダ進軍

サイとサルは、第2番隊と第4番隊をそれぞれ率いて、サイは右、サルは左に分かれて森に入っていった。

 20キロほど進むと、サイは、「ここでいいだろう。」と呟き、煙弾を打ち上げた。サルの部下がそれを確認すると、すぐサルに報告した。

 第4番隊は、進軍をやめ、少し開けた場所に移動すると、サルは、全員を立ち止まらせ、口を開いた。「我々、第4番隊はここを起点とする。各自、連絡通り、5人は右に展開、他は左に展開するように。」

 兵士たちは、ハッと敬礼して、数人を残し、ゾロゾロと横に広がっていった。遠い左から煙幕が上がると、展開完了の合図、サルと残った数名は、合図があがるまでに今立っているところにテントを張ることにした。左の空を眺めていると、煙幕が見えたので、サルは近くに残った兵士に馬を貸し、ヒョウへ報告しに行かせた。

 しばらくすると、「サイ隊長から、こちら展開終わりました。」と、第2番隊の兵士が報告しにきたので、サルは、「こちらも終わりました。と伝えておいてください。」と丁寧に返した。

 日が暮れる前に、サルは、食糧班に夜ご飯を展開した兵士に配らせると、(気ー張って、体力減らすのも勿体無いな)と思い、さっさとテントに入り、目をつぶった。

 記憶を飛ばしていると、テントを外から叩く音がした。サルは、サッとテントを開き、外を覗くと、兵士が一人息を切らして立っている。彼は、「左に展開した12番兵士がサマダらしき人物と遭遇したらしいです。」と苦しそうに言った。サルは、命令し、すぐに光弾を打ち上げさせると、一人左の展開した方へ走っていった。

 サマダは、分身していた。彼は、魔王の力の中で分身の能力を特に鍛錬していた。一人で戦う分、必要不可欠になるからだ。

 サマダの分身は、魔法などは使えないが、体術は彼の実力通りで、並の兵士の10人分くらいはある。今回は本体含め10人に分かれていて、5人川、5人森を通ることになっている。その5人は均等に分散し、進軍していた。

 そして、たった今、サマダ本人は敵国の兵士と対峙している。

 ニンジン国のメチャクチャな剣術と比べ、綺麗なフォームをした彼らに、サマダは感心していた。しかし、それでも弱い。一人ずつ左右から時間を置いてやってきては、どんどん斬られていく。サマダは、木々の隙間から、色んな空に光弾が打ち上げられたのを見た。(俺の分身も対峙しているのか。)と思い、道を急ぐことにした。

 しばらく、歩いていたが、誰かにつけられている気がする。サマダは、立ち止まり、(追尾隊か?俺を誘導して、はめるつもりだろう。)と思ったが、そう思わせ、焦らせることが目的だろうと考えを改めると、何事もなかったように城へ歩みを進めた。

 川原と急な坂道になるまでの荒野、ここがウマの戦地だった。先祖代々伝わるエクスカリバー剣を振り回し、サマダの分身、2体と対峙していた。この隊のリーダーだと気づいた分身達が集まってきたのだ。

 三人は、数合やり合ったが、決着が付かなそうなので、さっさとウマは「宝魔法」を発動し、2体の分身を消滅させた。敵の報告がないので、一息つくと、ウマは近くの部下に、ツルのいる川の戦況を確かめに行かせた。

 ツルも交戦していた。水得意な彼は、一人一人を相手にし、剣術だけで倒していった。彼の率いる第3番隊は、被害も0と好調の成績を収めた。

 サイも、好調だった。木の術を使う彼は、分身を木の根っこで囲み、ハルバードで心臓部分をぶっ刺した。合計3体倒しきり、サルの戦況を気にしていた。

 サルはというと、分身相手に苦戦していた。如意棒は、剣の達人相手だと弱い。伸び縮みするも、木製のそれはあっさり切断させられることも多い。

 サルの突きに、分身はひらりとかわすと、回転しながら、如意棒を乱切りしていった。早い剣捌きに苦戦するも、サルは、サッと近くの大木に隠れた。分身が、大木を渾身の居合斬りで切り落とすも、サルの姿はない。大木の先端か?と思ったのか、分身はそっちの方を見るもサルはいない。すると、ぷ〜んとハエが、分身の目の前を通り、いきなりボン!とサルが姿を現した。びっくりした分身は、後ろに後退りするもサルは、逃がさない。如意棒で、分身の顔を吹っ飛ばした。光を当たると、もげた首の断面が紫になっていたので、サルはそれが分身だと気付いた。

(かー、これで分身かー。魔王を倒しただけのことはある。俺にはできないわけだ。)そう、サマダへ尊敬を示し、テントへ帰還した。

 サマダ本体は、兵士の追撃を何度も返り討ちにし、遂に、森を出た。しかし、遠くの先に、火の集団が見える。(あいつらとは、戦わなくちゃいけないな。)と思い、早速バハムートに変身した。

 サマダの分身が前線を混乱させていることは、ヒョウの耳にも届いていた。彼は、城から10キロ手前に陣をはり、前列に第7番隊、第8番隊を置き、中列に第6番隊、そして、自身の周りには第一番隊を並べていた。全隊にサマダの襲来があったことを告げ、分身が囮となり、本体が近くまで攻めてきてると、気を引き締めさせた。

 一瞬、風が強くなったと思ったら、前方から、火を吹いたドラゴンが突進してきた。前列の2隊は待ってましたと言わんばかりか、「氷護壁」と「絶対防御壁」の二層の壁を形成し、ドラゴンを弾き返した。しかし、それと同時にドラゴンの片手は変色し、伸びて、壁の上を掴んでいた。その手で、壁をさっと超えると人型に戻っていたサマダは、再びバハムートに変身し、空から火玉を下にぶち撒けた。咄嗟のことで、壁魔法は発動が遅れ、陣形が乱れ出した。サマダは、動きから中列の集団が回復班だと察知すると、次は、リヴァイアサンに変身し、「ツナミ」を引き起こし、第6番隊を横に押し流した。

 ヒョウら、第一番隊は背中に翼を生やし、一斉に襲い掛かった。サマダは、それを見て人型に戻り、彼もまた翼を生やすと、隻眼を使い後ろに飛びながら、一人一人を正確に剣で斬り落とした。しかし、ヒョウの重みのある剣とサマダの剣が交じりあった時、サマダは危機を感じ、バハムートになり、サーっと遠くへに逃げ出した。見えないところまで来ると、バハムートが加速する前にヒョウが与えた傷を抑え、森の中へ下降していった。

 ヒョウは、前列と中列の救助を命じ、各隊の報告を待つのだった。

 

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