第15話

 楽しかったなー

 今まで、遊びに行こーって誘われなかったのに。


 私はいつもより軽い足取りで家に帰る。

 7月の暑さも、いつもは辛いこの上り坂も、気分が良いとここまで違うんだな。


 カラオケで早坂さんと一緒に歌ったのも楽しかったし、みんなにうまーいっていっぱい言われて結構本気で歌っちゃった。

 プロみたいって言われた時は、

 まあプロですから?

 と、言いたくなるくらい楽しかった。

 そんな冗談を言えるような自信はどこにもないんだけどね。



 そんな、楽しい気分になっているのは私は恋する乙女だからだ。

 私がアイドルだって知っても今まで通り友達でいてくれるのが嬉しかったり、

 レッスンをした後の帰り道も一緒に帰るってだけで元気が出てきたり、

 大変な仕事があっても愚痴を聞いてくれて、面白い事があると山本くんに話したくなって…

 恋をするだけでこんなにも変わるんだな。


 公園に差し掛かった時、小学生が楽しそうに遊んでるその奥のベンチで自分の好きな人と恋のライバルが一緒に話しているのを見つけてしまう。


 脳の中に悪魔がやってくる。

 話を聞こうぜ。

 天使もやってくる。

 ダメだよ。でも、聞きたいね。今回はいいんじゃないかな?


 あれ、両方悪魔のような…


 じゃなくて、ごめんなさい。

 聞いたらダメだと思うけど、怖いよ。

 あんな誰が見ても綺麗で人気な人と私なんかじゃ…


 不安になってしまい、謝りながら近くに寄る。


「今日買ってもらった服、大事に着ますね」


「響くんのファッション残念だからなぁー。センスがほんの少しもないじゃん。」


「そんな事ないっすよ。めっちゃ才能あると思いますよ。」


「お姉ぇさんがこれから選んであげるね。

 私、君の事好きになっちゃったから。」


 美希さん、告白してる…

 山本くんも楽しそう。

 自分の好きな人の幸せそうな顔を見て辛いって感じるなんて。

 私は嫌な人だなあ。

 そして、私はすぐにその場を去った。

 だって、胸がズキズキして山本君のことを見ていられないから。


 恋って幸せなだけでなくて辛いなあ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る