第1話

 俺は全てにおいて普通だ。

 陽キャとも喋ることは可能だが、業務連絡くらい。

 女子とも喋るが知り合いくらい。LINEも持ってねぇ。

 特に打ち込む事がないため勉強はしている。だから、成績もそこそこ。


 そんな俺にも夢がある。

 五つ子の家庭教師になることだ。

 いや、俺成績普通だわ。


 と、アホな事を考えながら3年間を過ごすであろう市立七星高校に足を踏み入れた。

 校門に入った所で思わず足を止めさせる満開とはいえない少しピークを過ぎた桜。

 ひらひらと舞い、古い校舎とのアンバランスさが随分と不協和音だ。

 そこにたたずむのは俺一人。

 だって、遅刻寸前だから。

 やっべー。



 入学式は昨日行い、今日はガイダンス的なやつ。

 だから、一応自分の教室は分かっている。

 分かってとは言っても、下駄箱からどう行けばいいかまじでわかんねぇーな。

 右を見たらすぐ近くに階段。左を見ると突き当たりに階段。

 階段、多すぎん?

 昨日は確か、右の階段で4階に上がってたような気がする。知らんけど。


 そうして、とぼとぼと階段を上る。やばい、めっちゃしんどい。4階まで行ける気がしないのだが。


 そして、なんとか4階まで上り切ると感じる静かで少し冷たい廊下の空気。そこに、パタパタという俺の足音のみが響く。

 手前から1組、2組、3組、4組。

 俺は1組だから階段を上ってすぐ横。

 前のドアから入ろうとしてやっぱりやめて、廊下を少し歩いて後ろのドアにまわる。

 はぁはぁぜぇぜぇしてる息を整え、横開きのドアを静かに開ける。

 シーンとした静まった教室にガラガラというドアの開く音が響く。

 そして、ただ前を向いて座っている僕の未来のお友達達が一斉にこっちを見る。

 気まず。

 下を向き、早足で自分の席に向かう。

 席に着くとその隣には美少女が!

 なんて事はなくいたって普通の女の子が座っていた。

 知ってたけどね。

 昨日、残念だったからね!

 隣の美少女とラブコメしたかったもんね!

 それでも、自分から声をかけるべきか?

 いや、待っておこう!

 いやいや、高校生になったんだから自分から動こう!

 と、思い俺は勇気を振り絞り話しかけた。


「えっーとーー、えーー、よよろしく」


 めっちゃ空ぶってるやんけ。アカン。やらかしたわ…


「あたしこそよろしくね!」


 めっちゃ、良い子だ。

 良かった。


 クラス全体が静かなせいで会話が教室に響く。

 喋りづら。

 でも、一応女子と会話ができた。嬉し。


 その後、先生が教室に入ってきてみんなで列になって体育館に行く。

 そこで、ガイダンスがあるらしい。こういうの、長いんだよなぁ。




 学年主任やら生活指導の先生やら長い長いお話を聞いてお疲れの俺は大好きなおうちに帰ってきた。

 おうちは、学校から歩いて20分くらいでめちゃ近だ。山を崩し、そこにマンションが何棟もたって、その近くにはスーパーがあるまあまあ便利な所だ。お値段が高いわけでも安いわけでもない、そんな普通のマンションに住んでいる。

 ドアの前でカバンをガサガサゴソゴソしてる俺は周りの人から見ると不審者かもしれない。


 やべぇ、鍵がねぇよ。まあ、鍵は良い。いやよくないけどね!

 それより、俺の愛しの久保みかんちゃんの限定キーホルダーがねぇよ。


 ずっと、カバンに入れいた。カバンは学校でしか開けていない。なるほど、みかんちゃんのキーホルダー(鍵付き)は学校で落とした。

 と、脳内名探偵ヒビキが推理する。


 そして、俺は走って学校にもどる。




 校門に入った所で思わず足を止めさせる満開とはいえない少しピークを過ぎた桜。

 ひらひらと舞い、古い校舎とのアンバランスさが随分と不協和音だ。

 そこにたたずむのは俺一人。

 だって、みんな下校したから。

 やっべー。

 みかんちゃん待ってろよーー!


 下駄箱で靴を上靴に変えて、階段で4階まで2段飛ばしで上る。俺、2段飛ばしできんわ。

 1段飛ばしで上る。俺、4階まで上れんわ。

 はーはーゼーゼーしながら1組の教室に入る。


「みかんちゃーん。みかんちゃんはどこー。」


 すると、目の前にみかんちゃんのキーホルダー(鍵付き)が差し出される。


「みかんちゃーん。会いたかったよ!」


 どうして、キーホルダーが差し出されたのか。それは人が持っているからだ。人。人?


「ええっとー。そそその、落ちてましたよ。」


 キーホルダーを持っている女の子が引いている。

 はい、俺の高校生活詰みました。

 目の前の三つ編みの地味系めがね女子に引かれた。

 明日には山本響、ドルオタなんだってとクラスのみんなにいじめられるんだな。

 ドルオタの席ねぇーから。

 キモいキモいと言われるのか。

 そーかそーか。つまり、俺はそういう奴なんだな。


「フルセブ、好きなんですか?」


「おい、君、知っているのか?」


 この子は良い子だ。本当に良い子だ。フルセブのファンに悪い子はいないんだよ!


「桃田怜の事ってどう思いますか?」


 桃田怜は黒髪ロングの姫カット的で低身長とオタクの欲望が詰まったような子だ。

 ダンスや歌は上手いのだが、トークが絶望的なコミ障な所すらも人気の秘訣になっている。

 ちなみに我が推し久保みかんちゃんは明るいギャルって感じの子です!


「トークは苦手なのに頑張ってファンの人を喜ばせようと頑張ってるのも分かるし、ダンスや歌も陰で努力をしっかりしてるんだろうな。さらにな……」


「えっとーー、もういいです!」


「あー、すまん。好きすぎて熱くなってしまった。

 申し訳ないのですが、ドルオタなのは隠して欲しいのです…」


「別に広めないですよー」


 と、その子は笑う。


 良かったー。弱味を握られてあんなことやこんなことなどエッチな命令をされるのかと思っちゃったよ!てへぺろ。



 何故か、この目の前の、真昼間の強い日差しに照らされている女の子、地味子ちゃんは、少しほっぺたが赤くなって、少し笑みを浮かべ、嬉しそうにしてるように感じた。

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