14:ヤマカガシ

佐久間の部屋

食い入るようにテレビを見入る佐久間。画面には良く見る女性キャスターと佐久間が取材した事がある爬虫類学者が映っている。「環境庁は今日、国内におけるヤマカガシが絶滅したことを確認したと発表しましたが、この件について教授はどのようにお考えですか?。」「そうですね、都市部はここ10年で大きく変わりました。人間本位の都市設計で、高層ビルによって自然の風・大気の流れが変わり、そして照明によって明るい夜など、これらが野鳥や昆虫などの生態系に根深い問題を起こしています。」「はい。」「それによって地上の生態系にも深刻な問題を起こしていましたが、このヤマカガシが絶滅したという事については、私はもっと別の憂慮すべき問題を感じています。」「なるほど、それは環境破壊とは別の問題という事でしょうか?。」「はい、ヤマカガシは以前より絶滅危惧1類とされていましたが、数年前に小学校で噛まれた児童が死亡した事故、これを境に害獣として駆除すべきという声がSNSを中心に高まり、悪戯半分に捕獲し殺すという問題が多発しました。このような問題が駆除することが正しいという同調圧力を起こした、、、。私は世論がヤマカガシという種を絶滅させたと思っています。」佐久間はヤマカガシを自身に重ねた。(おれも絶滅させられるんだろうな、きっと、、、。)と消したテレビの黒い画面に感情を亡くした自分の顔が映っている。「続きやるか。」とPCのディスプレイに表示されている、まだ書き始めたばかりの取材レポを見るが、PCの前に座る気になれない。体を動かす事で気持ちが変わる事はあるが、体を動かしたくないという気持ちには勝てなかった。



2月18日 午後

佐久間の部屋

昨日からヤマカガシの事が頭から離れない。不快で不安になる事が分かっているのに検索をしてしまう。動画共有系では多くが‘’この動画は視聴できません。‘’と閲覧出来ないが、監視を搔い潜ったのか閲覧可能な物も残っている、その残った動画をいくつも見てしまった。釘を打たれ動かぬ頭部と激しくうねる長い胴、ぐにゅぐにゅとゆっくり動く袋を火が上がる一斗缶に投げ込み騒いでいる若者、皮を剥ぎ焼いて飼い犬に食べさせる顔を見せない飼い主、、、。心が脳にあるなら爬虫類にも心がある、生きたまま焼かれたり、頭部に釘を打たれるヤマカガシから目が離せなかった。(きっと自分も歪んだ正義で殺されるんだ、、、。)と根深く全身の細胞を浸食するようなどす黒いコールタールの中に沈んで行く妄想が脳内で視覚化された。僅かに残る理性で安定剤を多く飲む、起きている事を拒否することが唯一の救いであった。

意識が飛んでいたらしい、気が付くと夜になっている。(11時か、、、。)安定剤のお蔭か気持ちは安定している。もう帰宅して2週間経つ、食料の事が気になりキッチンに行くと冷蔵庫やパントリーを確認する、(そろそろ食料を買わないと、、、。)と少し気が重くなるが、前に行った一駅離れた深夜の業務用スーパーを思い出す。前に行った時も知った顔は居なかった、結構楽しかった筈だと自分を説得し行くことにした。(この時間だから、隣のババアは居ないよな、、、。)と思いながら玄関を出る、隣人のドアの前を通る時は指先が少し固くなった。セーフティゾーンであるエレベーターの中で一息付けた。(この一週間誰とも話して居ないな、誰からも連絡もない、、、。)と自分が表面的な人間関係しか作って居なかった事を思い知らされる。一階に着きドアが開くと玄関のガラスから見える夜の路上にチラチラと光の粒が落ちる、「雪か、、、。」雪が気持ちを沈めてくれた。(明日は通院だ、人に会える。)病院が楽しみに思った事など今まで無かった、得意ではない村上ですら会いたいと思った。そしてスーパーに向かった。


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