アンドロギュヌスの望

朱鷺

0:プロローグ



『アンドロギュヌスの望〜生者の再生〜』


道の左には合理的に整然としたタワーマンションが連なり、

道の右には古く朽ちたような建物が静かに佇んでいる。

道の中央には暮れる陽が朱から赤に、そして鮮やかな紫をまとって左右の景色に滲んでいる。

その背景を受けキスをする2人の影。

「へたくそ。」と悪戯っぽく笑う女。

「慣れてないので、、、。」苦笑いの男。

「まぁ、いいんじゃない。」と微笑む女。



2031年10月13日

「女優の瀬野未羽さん32歳が、今日未明、東京都内の自宅で死亡しました。自殺と見られています。警視庁などが経緯などを詳しく調べています。」無表情に読み上げるアナウンサー。

‘’死は希望‘’と墨の流麗な文字が書かれた着物を羽織った女優、瀬野未羽の遺体が発見された。SNSで彼女が行った感染告白は、その勇気とは真逆にネットでの中傷誹謗、CMの契約解除や作品の降板、それに伴う損害賠償と公でもプライベートでも居場所は奪われ、彼女は世間のストレスの捌け口となった。この自死のニュースを境に、政府が情報統制していた事も世に晒され、感染症の恐怖と政府への不信感でパニックが始まった。



2036年2月1日 早朝

佐久間の部屋

窓から射す日が顔を照らしている、眩しそうに目を細めながらPCに向かって文字を綴る、‘’我々は動物との共存について考えを改める最後の扉の前に立っているのだ。‘’と打ち終えると小さく息を吐き、両手で顔を擦りながら「ふぁー。」と欠伸が漏れた。両手で鼻と口を覆いながら画面を眺め「出来た、、、。」と安堵の声。同じ姿勢を続けていたので、少し動くとあちこちが痛い。右肩をすくめながら腕を回すと肩の付け根辺りがゴキゴキと音を立てる、思わず「ングー、、、。」と声が漏れる。PCの横にある冷めたコーヒーを口に運ぶ、手間がかかった記事なので久々に達成感が強く冷めていてもコーヒーが美味く感じた。仕上げた記事を再読し、数か所の誤字を直すと編集部にメールで送る。「終了!。」と立ち上がる、(んっ、、、?。)視線が揺れる、立ち眩みで傾く体を支えようと反射的にデスクに手をついた。(疲れたかな、、、寒気がする。風邪かな、、、寝るか、、、。)少し体に違和感を感じながらベッドに行く、抜け出た状態の掛け布団をバサバサと振り空気を含ませた。「ふぁぁ、、ふぁーー。」っと長い欠伸、(明日は久々に外で飯にしよう、あっ病院も行こうかな、、、)と考えてながら冷たい布団に潜り込む、(後はレビスの記事だな。取材、時間掛かったな、、、。)と体温で温まる前の布団の中で次を考える、その内に寝息を立てていた。


※夢※

ゴッ、、、ゴッ、、、ゴッ、、、

薄暗い中で鈍い音と体が振動で揺れる。

(ごめん、ごめん、、、)顔や肩、手が見え隠れする。見える手足と声は別人のようだ。

止まらない音と振動

ゴッ、、、ゴツ、ゴツ

(許して、、、)これは俺の声?、声が少し高い、子供の頃の声か?

ドロっとした感触と温い粘る臭いが脳を刺激する。

(わかってんだろ)

(大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、大丈夫?、、、)

※※※

聞き覚えある声、誰かに抱きしめられているのか?、顎に肩の感覚、しかし暗さは増し、視界は真っ黒に近い。段々と呼吸が荒くなる、痛みのような快楽のような感覚のみになる息は更に荒くなる。(はぁー はぁー はぁーはぁー)夢うつつの状態、視界に室内が映りだす。「はぁーはぁーはぁー、、、。」耳に反響する気道の摩擦音で目が覚めた。頭がガンガンする、、、起き上がろうとすると、あちこちに痛みが走る、「くっ、、、っつ!。」と眉間に力が入る。皮膚がヒリヒリするような感覚、関節も伸ばせない、、、「っーーーー。」っと痛みを堪え吸う息が歯の間を擦れる音、ベッドの脇にあるサイドテーブルの引き出しを漁る、(体温計、、、ここだよな?。)(あった)。体温計の後の小さなボタンを押すピッっと音がする、ぼんやりする目を細めながら0.00と表示されたのを確認し脇に挟んだ。痛みや体の熱さが危機感を感じる位になる、「うー。」と喉が響き痛い関節をガクガクと動かし枕の下に挟まっていたスマホを見つけた。開いた口に溜まる唾液を飲み下し、1、1、9をタップする、熱でぼんやりし、フラフラと揺れる上半身、「火事ですか?救急ですか?」という声に少し呼吸が楽になった。「データ送れますか?」「いえ、、、センサー持ってないので。」「ではご住所と電話を、、、。」。その後の事はあまり覚えていないが、暫くするとサイレンの音が聞こえて来た。(救急隊員が何か言ってる、何か体に取り付けられている、感染したんじゃないよな、、、。)搬送中の車内、脳裏に取材した感染者の姿が浮かぶ。


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