異世界恋愛はなろうを滅ぼすのか
どうも、熊ノ翁です。
異世界恋愛の人気、凄いですね。
これを書いている2021年11月28日時点では小説家になろうさんの総合ランキング50位以内に異世界恋愛は32作品がランクインされていました。
なろうの代名詞とも言えるハイファンタジーを追い抜いての人気っぷりを見るに、その勢いは目覚ましい物があります。
「悪役令嬢」や「婚約破棄」といったワードは、ネット小説を読まれる方ならば一度ならずと目にした事があるでしょう。
異世界恋愛を代表する作品である「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」は2021年現在で累計発行部数500万部突破、アニメも第二期まで放映されており映画化も決定と正に破竹の快進撃です。
いやあ、凄い!
名実ともに「異世界恋愛」はなろうの看板ジャンルとなりつつある状態です。
ただ、そんな順風満帆な「異世界恋愛」について、ここ最近こんな話がTwitterで流れています。
「なろうのランキングが異世界恋愛ばかりで男性読者が読むもん無い。そうなっと、なろうから読者も書き手も他所に移るやろ。このままだとなろう衰退すんじゃね?」
これには「いやそんなことねーよ」という方や「確かにそうかも。読むもん無いなら他所で探すだけだしどうでもいいけど」という方、賛否両論賛同否定様々な見解を皆さん述べられていました。
なので、今回はこの「異世界恋愛はなろうを滅ぼすのか」について考えていきたいと思います。
皆様、お付き合い頂ければ幸いです!
さて、まずは状況の把握です。
「異世界恋愛が人気でハイファンを始めとした他のジャンルがランキングから追いやられつつある!」とは言われていますが、そもそもまず本当に追いやられているのか、また本当だとしたらどの程度追いやられているのかを実際のデータを見て確認してみましょう。
なろうファンDBの管理をなされている新大宮さん作成の「なろうの総合ランキング表紙入り集計表」で2018~2021年度のハイファンタジー及び異世界恋愛の日間ランキング表紙入り件数を比較してみると、このような感じになっているようです。
ちなみに補足しておくと、表紙入りとはランキングのTOP5に入る事を言います。
2018年度
異世界恋愛 88件
現実世界恋愛 14件
ハイファンタジー 207件
ローファンタジー 23件
2019年度
異世界恋愛 133件
現実世界恋愛 22件
ハイファンタジー 144件
ローファンタジー 19件
2020年度
異世界恋愛 215件
現実世界恋愛 35件
ハイファンタジー 148件
ローファンタジー 15件
2021年度
異世界恋愛 506件
現実世界恋愛 25件
ハイファンタジー 76件
ローファンタジー 8件
一応、参考がてら現実世界恋愛とローファンタジーも抜粋して載せておきました。
新大宮さん、データ提供有難うございます。
新大宮さんTwitterアカウント「@narou_fun_db」
なろうアカウント「https://mypage.syosetu.com/1364127/」
なろうファンDBサイトアドレス「https://db.narou.fun/」
さて。
この数字を見れば分かる通り、確かに異世界恋愛の勢いの強さが際立っていますね。
4年前の88作から比べて見ると、表紙入りしている作品数が506作と五倍以上増えています。
現実世界恋愛の方も、4年前の14作から比べると表紙入り作品数は約二倍の25作に増えています。
なろうは今まさに大恋愛時代ですね。
それに比べてハイファン部門を見てみると、表紙入り作品数は4年前の207作と比較すると今は約三分の一、76作にまで落ち込んでいます。
ローファンタジーの方も4年前は23作でしたが、今年は数を減らして8作品にとどまっています。
この数値を見るに「異世界恋愛」が表紙入りする回数を増やしていて「ハイファンタジー」が表紙入りする回数を減らしているというのは、ひとまず本当のようです。
では次に「男性読者の読むものが無くなったらなろうの人気が衰える」という意見について考えていくために、先にまず小説家になろうさんのユーザー男女比がどうなっているのかについて見てみましょう。
「個人発サイトがエンタメ/出版業界を席巻する理由」
https://premium.kai-you.net/article/53
こちらの小説家になろうを運営するヒナプロジェクトの取締役である平井幸さんと同社企画部長の山崎翔子さんのインタビュー記事によると、2019年時点でのなろうユーザー男女比は男6:女3:無回答1との事だそうです。
2021年現在どの程度この比率が変わっているかはわかりませんが、元々は小説家になろうのメインユーザーは男性の占める比率は高い物ではあるみたいですね。
小説家になろうの今までの人気はこのユーザー比率で成り立っていたというのはまず認識しておいた方が良いでしょう。
さて、次にこの状況を踏まえた上で「異世界恋愛作品が増えると男性読者は読み物が無くなる」というのは果たして本当かを考えていきたいと思います。
Twitterで上がっている皆様の意見には「いや、異世界恋愛や悪役令嬢、結構男性読者いるよ」という物がありました。
これが本当なら「異世界恋愛」の隆盛は今までのなろうであった単なるトレンドの移り変わりに過ぎず、したがって男女比も特に変わらないため人気や影響度に既定路線から外れた大きな変化を与えることは無いはずです。
で、この異世界恋愛を読まれる方の男女比のデータなんですが、そのものズバリなろうさんからのデータというものは見つけられませんでした。
ただ、参考になりそうなものとして「女性が主人公の人気WEB小説」を中心にコミカライズされているFLOS COMICSさんや本を販売されている大阪清風堂さんらの答えたこのようなインタビューがありました。
小説投稿サイト、マンガ編集部、書店に悪役令嬢ブームについて聞いてみた
https://natalie.mu/comic/column/427521
インタビューの参加者は先ほど挙げた記事でも答えられていたなろうの運営元ヒナプロジェクト取締役の平井幸さんも参加されていて、その他にも上記した通りFLOS COMICS編集部より松井さん、山川さん、石戸さん、そして大阪清風堂書店の久保さんが答えられています。
こちらのインタビューによると「異世界コミックは男女比が7対3だったんですが、FLOS COMICではだいたい3対7。3割は男性なんです」との事。
確かに男性の読者も少なからずいらっしゃいますが、その割合は小説家になろうのユーザー男女比に比べると違いがあるようです。
また「異世界恋愛作品が増えると男性読者は読み物が無くなる」という可能性を示唆する物として、少年漫画と少女漫画の読者男女比があります。
NTTレゾナントが運営するgooリサーチが15~44才の定期的にコミック誌を読む方を対象に行ったマンガに関するインターネット調査ではこのような結果でした。
定期的に読んでいるコミック誌(少年漫画)
「週刊少年ジャンプ」
男性 66.0%
女性 55.7%
「週間少年マガジン」
男性 44.6%
女性 15.5%
「週刊少年サンデー」
男性 29.8%
女性 16.2%
定期的に読んでいるコミック誌(少女漫画)
「別冊マーガレット」
男性 0.9%
女性 17.7%
「花とゆめ」
男性 0.3%
女性 13.3%
「りぼん」
男性 0.3%
女性 7.4%
参考サイト ガベージニュース様
http://www.garbagenews.net/archives/1937808.html
こちらの調査結果を見るに「少年漫画は男女ともに読むが、少女漫画は男子諸君はほぼ読まない」という事がわかります。
先ほどの「女性が主人公の人気WEB小説」を中心にコミカライズされているFLOS COMICSさん達のインタビューと合わせて見るに、異世界恋愛や女性向けの作品は男性読者もいるにせよ、その読者比率はやはり女性の方が多い可能性が高いです。
もちろん漫画の事例をそのままWEB小説に当てはめる事は出来ませんし、少年少女漫画の比較についてはデータが2012年と10年前の物なので今の時代とはある程度のズレはあるでしょうが。
ただ、もしも小説家になろうの異世界恋愛というジャンルが女性ユーザー比率がなろうユーザーの男女比に比べて高く、女性向けの作品ばかりがランキングを席巻したならば、少年少女漫画と同じ顧客動向を示す可能性はあります。
そうなった場合、なろうが滅ぶ事は無いにせよ男性ユーザーは他のサイトへ流れ、かつてとは違う文化や空気感には「小説家になろう」がなっているかもしれませんね。
まあ何にせよ、小説家になろうさんで何がトレンドとなりランキングに入るかは、全て神様読者様の見えざる手に委ねられています。
そして、その見えざる手によって「小説家になろう」は月間数十億PVを誇るまでに発展してきたのもまた事実です。
その「見えざる手」により「異世界恋愛」というジャンルが選ばれている以上、もし無理にその流れを変えたなら、それこそ小説家になろうを滅ぼしかねない要因になるのではないかとも思えます。
「次のトレンドは何か。そしてどこか」というのは、書き手としては常日頃から気になるところではありますが、ぶっちゃけた話別にWEB小説サイトを運営しているわけでも無い以上書き手も読み手もその場所が気に入らなければ移る事はいつでもできるわけで。
そんな事に頭を悩ますくらいなら、今書いてる作品をどう仕上げるかに頭使った方が良いのではないかと思います。
え?
「じゃあなんでお前はこんなエッセイ書いてんだよ」ですか?
いやぁ。
やっぱ気になるじゃん!
異世界恋愛はなろうを滅ぼすのか……END
執筆日、11月30日
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