ビキニアーマーなんかでマトモに戦えるわけねーだろ


 下着同然とも言える露出度の高い鎧を着込み、颯爽と戦場を駆け抜けて敵やモンスターをなぎ倒す女戦士。

 漫画やラノベ等のファンタジー作品では定番のキャラクターであり、その見栄えのする恰好からか本の表紙も良く飾っていますね。


 彼女たちの凛々しくも美しい御姿に魅了され、剣を構えた半裸のねーちゃんが描かれた本を手にフラフラとレジまで足を運んだ紳士諸君もいらっしゃることかと思います。

 もちろんこのエッセイを書いている熊も、その一人です。


 さて、そんな我らがヒロインの着ているこの鎧。

 乳と尻を申し訳程度に隠しているだけの金属板……というか最早金属片としか呼べないようなこの鎧は、一般的には「ビキニアーマー」と呼ばれているものです。

 有名どころですと、ドラクエ3の女戦士さんとかが着てますね。

 現代では、リオのカーニバルでサンバ踊ってるねーちゃん達やグラビアアイドルの皆様方に主に愛用されてます。


 零れる双丘、弾ける太もも。

 紳士諸君も思わずにっこりな優れたデザインのビキニアーマーなわけですが、こと剣と魔法のファンタジー世界で出すとこのような批判が投げつけられたりします。


「ビキニアーマーなんかでマトモに戦えるわけねーだろ」


 今回のタイトルとしても使わせて頂いたこの言葉。

 この批判が実際に正しいかどうかを検証していきたいと思います。


 かつては勇者ロトと共に戦い、大魔王を倒し、アレフガルドに光をもたらした女戦士の戦装束でもあるビキニアーマー。

 彼女を始めとしてビキニアーマーを着込んだ戦士達の武勇は果たしてフィクションだからこそ成り立つ虚仮に過ぎないのでしょうか。

 どうか、ご笑覧いただければ幸いです。


 まずはビキニアーマーが一般的にどのような物なのかをざっくり紹介します。

 ビキニアーマーは大きく二つのパーツで構成されており、上部は乳房を隠すように胸部を二枚の金属板で覆い、下部は局部を守るように……って要はアレです。ビキニです。


 ええと、鉄板入りのビキニです。

 そのままだと多分肌切ったり痛めたりするでしょうから裏地に皮でも張ってんじゃないすかね。

 以上。


 ではこのビキニアーマーが一体どの部分を守っているかというと、まず腹部はガラ空き、胸部も乳房こそ守れても肩も腋も丸出しで、背中に至っちゃブラジャーの紐程度の範囲しか覆われておらず敵に心臓でも捧げてんのかという調査兵団式ノーガードスタイルです。

 無抵抗で知られるシュールなヒーロー無防備マンですら「君、もう少し防備を固めた方が良いかと思うよ?」と心配されかねないほどの無防備っぷりですね。


 こんな鎧で守れるのはかろうじてポルノ規定くらいの物で、一般人女性がこれを着込んで街中を歩いたならば羞恥心すら守れない事でしょう。

「アーマー」と名前についているならば、着る者の尊厳くらいはせめて守って頂きたい所です。


 さて、ビキニアーマーの鎧としてのスペックについて語った所で、次に実際の戦場で使われていた鎧にはどのような物があったのか、代表的な物を見ていきましょう。


・リネンキュラッサ

 古代ギリシャ時代に軽装歩兵、軽騎兵の間で良く使われていた鎧で、麻布に獣脂を塗りこんで固めて作られたもの。


・チェーンメイル

 リング状の鎖を編んで作ったいわゆる鎖かたびらで、剣による斬撃に強く、矢にも一定の防御効果が見込めた。メイス等の打撃武器にはその柔軟性が逆に災いして弱かったと言われている。

 この鎧の最大の利点は何と言っても安価である事、そして針金さえあれば修復が可能である事、鎖を継ぎ足すことでサイズの変更まで可能と実に利便性が高い事。

 紀元前から近世までと長い期間戦場で使われ続けた、正に兵士のお供。

 何気に現代まで生き残って使われてたり。

 海に潜るダイバーさん達が着るウェットスーツに、サメの歯を防ぐ目的で鎖が編みこまれていたりするそうです。


・プレートメイル

 一般的に「ナイト様が着込んでる鎧」と言って連想される物。

 板金を組み合わせて作られる全身甲冑。

 とにかく堅い。

 剣で切りつけられても物ともしないし、槍で突かれても結構な防御性能を誇る。

 メイス等の打撃武器は衝撃を通すのでプレートアーマーには有効と言われているが、それでも他の鎧に比べれば遥かに防御性能は高い。

 矢で射られてもショートボウ位なら刺さりもしない、鎧の花形とも言うべき物。

 欠点は、重くて暑くて金がかかる事。


 物凄くザックリ紹介ですが、とりあえず三種類ほどご紹介しました。

 他にもスケイルアーマーやらブリガンダインやら色々あるのですが、語り始めたらキリが無いのでこの辺にしておきます。


 で、こんな感じの鎧に身を包み、騎士や兵士の皆様は戦場でぶっ殺し合いをしていたわけですが。

 我らがビキニアーマーは果たして血も涙も身も蓋も無い戦場において活躍できるのでしょうか?


 まあ無理だと思いますよね。


 ビキニで剣が防げるかと。

 ビキニが矢の雨に耐えきれんのかと。

 耐えられるのは水しぶき位のものなんじゃねーかと。


 鎧に求められる主な性能は、これはもう当然の如く敵の攻撃から身を護る事です。

 剣から、槍から、弓矢から、あらゆる武器から我が身を守る、その為の「鎧」です。

 ビキニアーマーの防御性能は、はっきり言って無いに等しいです。


 そりゃそーです。

 だって8割強が素肌だし。

 弓矢どころか蚊に刺されるのすら防げません。

 虫刺されまで考慮するなら防御力はムヒ以下です。


 ですが、逆に考えてみたならばどうでしょうか。

 つまり……




「鎧なんて無くたっていいさ」と。




 いや、違います。

 別に酒呑んで酔っぱらってるわけではありません。

 あ、やめて!?

 ブラウザバックはもうちょっと待って!?


 ええとですね。

 これ鎧の歴史とも関係あるんですけども板金鎧のプレートアーマーですら、最終的には廃れてしまったんですよ。

 そして、戦の歴史において高い防御力が高い機動力の前に敗れ去った事例が数多くあるのもまた事実なわけでして。

 その点で考えるとわりかしビキニアーマーという選択肢ってそう捨てたの物でも無いんですよね。なにせビキニアーマーは身軽ですし。


 今度はその、重装甲を機動力が打ち破った事例を見ていきましょう。

 実例を上げるならば、重装歩兵として名を馳せたスパルタの破れた戦についてとかが好例ですね。


 スパルタ。

 古代ギリシャ時代に活躍した最強の重装歩兵を持つ軍事国家です。

 どれくらい強いかというと、ペルシア軍20万人に大してスパルタ連合軍7000人(内スパルタ兵は300人だけ)という超絶望的な戦いで、ペルシア軍をギッタギタにしたくらい強いです。


 スパルタ兵のハチャメチャっぷりは「テルモピュライの戦い」とか「スパルタ ヤバい」とかで検索すれば死ぬほど出てくるので、気になる方は調べてみると良いかもです。

 本当にブッ飛んでて面白いですよ。マジで人間辞めてます。

 実は彼らには尻尾が生えてて月を見たら大猿になる性質を持っていたと言われても「まあ、そうかもな」と納得してしまいそうな、そんな感じの戦闘民族です。


 で、ギリシャ時代に最強を誇った戦闘民族国家スパルタの重装歩兵なわけですが、それを破ったのがアテナイの将軍イピクラテスです。

 スパルタはファランクスという密集陣形を組み、青銅の鎧に大盾と槍で武装した重装歩兵で襲い掛かる戦法を取っていました。


 相対するイピクラテスがそれに対抗するべく取った手段は、小盾と投げやりを手にした軽装歩兵で機動力を生かして徹底的にヒットアンドアウェイ戦術を取る、というものです。

 これが功を奏して、結果的に「あの」戦闘民族スパルタ兵達を敗走させる事に成功します。

 余談ですが、オリンピック種目で「やり投げ」が入ってるのもこの辺りの歴史からきているみたいですね。


 この「機動力」を重視する戦い方でユーラシア大陸を散々に蹂躙し、13世紀の世界において覇を唱えた国家があります。

 馬にまたがり、弓をつがえ、驚異的な速度で東ヨーロッパから朝鮮半島までを瞬く間に制圧した恐るべき国家。それがモンゴル帝国です。

 そんな彼らが着ていた鎧は綿襖甲と言いまして、これ主に布と綿で出来てます。


 つまりアレです。

 防寒具ですね。


 彼ら1274年と1281年に我が国日本にも攻めてきてまして当時の様子が絵に描かれたりもしてるんですが、描かれてる服装見るとその綿づくりの鎧すら着てなくて、布の服なんですよね。恰好が。

 兜は被ってましたけども。


 で、そんな彼らがチェーンメイルやら金属片組み合わせた鎧やらを着込んだ当時の方々相手に無双しまくった要因が「馬」と「弓」を組み合わせた高機動と長射程にあるわけです。

 高機動戦を行う上で重要なのは何よりもその身軽さであり、遠くから矢を射掛ける、真正面からの直接戦闘を避けてかく乱、ヒットアンドアウェイに徹するのであれば重たい鎧はむしろ無い方が都合が良い場合も少なくないのです。

 軽騎兵で主に構成された彼らが身にまとう物が鎧では無く衣服であったそう言った事情から来るものなのでしょう。


 そして繰り返しになりますが、最強の防御力を誇るプレートアーマーですら最終的には廃れました。

 理由は、結局人間が着込む事の出来る限界の重さまで装甲を厚くしてさえ、銃を防ぐことは出来なかったからです。


「ファンタジーの話で銃を持ち出すのは違くね?」とお思いの方もいるかもしれませんが、ファンタジーには魔法がつきものです。

 火の矢を放ったり、火縄銃と同程度の火力を持つ魔法なんてものはごくありふれて存在している方が普通なんじゃないでしょうか?


 また、ビキニアーマーには他の重装甲の鎧には無い優れた利点があります。

 それが「暑さに強い」という事です。

 夏の日差しに照りつけられたプレートアーマーの熱さは、それこそ火傷するレベルのもので、当然そんな物を着込むのは恐ろしい体力の消耗を招きます。

 あの鎧の上に付けているマントも、単なる飾りとしてではなく鎧が日光で熱を持つのを防ぐためといった意味合いがあるようで。


 その点水着同然のビキニアーマーは実に熱に強い。

 太陽がいっぱいな真夏のビーチでも問題なく活動が可能ですし、ビーチバレーだって出来ちゃいます。

 プレートアーマー着込んだ重装歩兵に同じ事しろと言ったら死人が出てもおかしくありません。

 死因がビーチバレーとあっては、亡くなった騎士様も浮かばれない事でしょう。


 ビキニアーマーのもう一つの大きな利点としては、戦場で目立つ事です。

 これは戦装束として実はかなり重要で、大将が戦場で華美な衣装に身を包むのも目立つことにより兵士たちの戦意を鼓舞する為だったりもします。

 日本の武将ででっかい「愛」の一文字を兜に飾っていた直江兼続さんとか有名ですよね。

 己を味方を鼓舞するために特別な奇抜な服装をするというのは命を張る戦場では珍しい事では無いのです。


 その点についてはビキニアーマーは実に優秀です。

 考えてもみてください。

 見目麗しくも凛々しい女戦士がビキニアーマーに身を包み、勇猛果敢に敵に打ちかかるのを。

 共に戦う戦士たちはその姿に神々しさすら感じ、戦乙女さながらの敬意を抱いたとしても不思議ではありません。


 それがどのような感じかと言ったら服が破れ乳房を零しながらも国旗を手に民衆を鼓舞する乙女の姿が描かれた「民衆を導く自由の女神」の絵画の如くなのではないでしょうか。

 もちろんビキニアーマーを身に帯びる者の器量に左右はされるでしょうが。 


 結局の所、最強の鎧「プレートアーマー」は銃の前に姿を消し、鎧が無くとも人はその歴史の中で戦ってきたのです。

 ビキニ姿で戦場に立ったとしても、人類の戦の歴史を省みるに槍働きは十分可能かと思われます。


「いやいや、ファンタジー世界じゃ敵は人間だけじゃねーし。モンスター相手にそんな装備で勝てるわけねーだろ」

 という反論もあるかもしれません。

 確かに同じ身体能力をしている相手ならともかく、自分よりも遥かに力があり、素早く、大きな存在を相手にビキニ姿で立ち向かえとなると、無茶な話に思えます。


 が、その無茶な事を実際にやってのけている民族がいます。

 現代においてもその身体能力と豪胆さで知られる民族、マサイ族の皆さんです。

 伝統的に赤い布に身を包み家畜を放牧して暮らす彼らですが、その家畜をある獣から守るために彼らは槍を手に取り戦います。


 その獣とはネコ科最大級の肉食獣にしてサバンナの頂点捕食者、百獣の王の二つ名で知られる「ライオン」です。

 メスは体長170センチ体重180キロ程度、オスに至っては体長2メートル体重200キロを優に超える体躯を誇る正真正銘の猛獣で、しかも10頭前後の群れで行動します。

 はっきり言ってファンタジーに出てくる下手なモンスターよりよっぽど強い事でしょう。

 モンハンのイャンクック先生位までならワンチャン狩れるんじゃねーかと思えるような、ナチュラルボーンキラーな凶悪猫ちゃんズです。


 鋭い爪と牙は言うに及ばず、時速80キロという驚異的な脚力で狩りを行う彼らに対して、マサイ族は伝統衣装の赤い布と槍を手に立ち向かいます。

 ドラクエの装備で言うなら「布の服」と「竹やり」とかでしょうか。


 思わず「そんな装備で大丈夫か?」と聞いてしまいたくなるような格好ですが、実際に彼らはそんな装備でライオン達をボッコボコにし、結果としてライオン達は彼らマサイ族の姿を見たら逃げるまでになっています。


 サバンナにおける百獣王は、実質マサイ族の皆様と言っても過言ではありません。

 というか当のライオン達がそれを認めています。


 現実世界においてもビキニアーマーレベルの超軽装で体重200キロ超え、時速80キロで疾駆する能力を持つモンスターを叩きのめすことは実際に可能なのです。


 さて、長くなりましたがここまでで人と人とが殺し合う実際の合戦場や、驚異的身体能力を持つ猛獣を相手にした場合においてもビキニアーマーレベルの軽装備で人は戦う事が可能だという事例をご紹介してきたわけですが。


 いかがでしょうか。


 彼女たちはフィクションにしか存在できない非現実的な者では無く、実際に戦いの場で活躍することが十分可能な現実味を帯びた存在であることをご納得いただけたでしょうか。


 最後に。

 もしもまだ「いいや、あんなビキニ姿でマトモに戦う事なんてできるわけがない!」とお考えの方は、今一度思い出して頂きたい。


 かつて我々の祖先は粗末な毛皮に石オノ一つ手に持って巨大なマンモスに挑みかかり、絶滅するまで狩りつくしたG級ハンター達だったのだという事を。


 そして、我々はその末裔なのだという事を。


ビキニアーマーなんかでマトモに戦えるわけねーだろ……END

執筆日、2021年8月8日


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