まいにち遺書
街河風火
一頁 書き出し
いつ死んでもいいように、まいにち遺書を書こうと思う。
いや、去年、つまりは一時間前まではそれも悪くない発想だと思ったのだが、冷静に考えたら毎日遺書を書いていたらそのうち遺書に書くことがなくなって、書くのがめんどくさくなって、結局死ぬ時には旧式の遺書(旧式の遺書ってなんだ?)になってしまいそうだ。
てなわけで、僕は遺書を分割払いすることにした。章分けして細かく書いていけばネタ切れは死ぬよりは先になる気がするし。ただ当初の目的──つまるところいつ死んでもいいように、というものとは少しズレてしまう。本末転倒もいいところだが、そこは末期を本に仕立てるのだから問題ないだろう。
さてそうなると問題となるのは何から書き始めるかだ。個人的に書きたいことはあんまりないので、ここは先人の知恵に縋りたいと思う。先立つ人々が遺した定型に沿って書くとすれば、遺産の話だったり、死体の処理だったり、自殺だったら死ぬ理由も書いたりがまあぱっと思いつくところだ。
今の俺に(一人称がブレるのは申し訳ない、手癖なんだ)遺産なんかないので、相続については遺産が出来てから書けばいいだろう。自殺かはまだ分からないので死ぬ理由も書けない。未来がわかったら毎日遺書を書くなんてしなくて済むんだから愚問だ。となると消去法で、最初に考えるべきは死体の処理についてだろう。
これはなかなか面白そうだ。火葬した灰の処理場所から、そもそもどんな葬儀にするかまで色々と考えられる。なにせ遺書を書くのにワクワクしている奇妙な人間だし、葬儀の仕方にも拘ってしまうことは十分考えられる。
……ちょっと眠くなってきた。遺書を書くために不摂生をして死んでしまっても面白くないし、そろそろ眠ろうと思う。筆をおくには早すぎるかも知れないけど、まあ、遺書なんてそんな長々書くものでもない。なんて、これから毎日書く奴が言うセリフでもないが。
あ、そうだ。もう一つだけ遺書の定型があったのを忘れていた。ただ書き出しとして使うものだったから、時すでに遅し、か? なんでもいいか。今回のこれは丸ごと書き出しということにしてしまえば、定型的な書き出しで〆ても怒られないだろう。ということで。今日はここまでにして、最後に一つ、最期の最初に、最初で最後の言葉を残す。
こんにちは、或いは初めまして。あなたがこの文章を読んでいる時、私はたぶんこの世にいないでしょう。
そう仮定して、毎日書いて生きます。
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