第5話 何か忘れてるような
生徒達が怪我してないといいけど。
そう思いながら、胃の痛い時間を過ごす事……数十分。
窓の向こう、学校の外では、駆け付けた治安組織が様子を窺っていた。
物々しい様子で離れているのに、ピリピリしてるのが伝わってくる。
この世界にも警察みたいなのがいるんだよな。
お疲れ様です。
でも、俺達が関わる事件は大体ヒロイン達が解決するんで。
そう肩ひじはらずにいてください。
ちゃんと……解決、するよね?
どうだろう。
そんな事を考えていたら唐突に、どっかで爆発が起きた。
ずしん、と衝撃がきて、天井からほこりがパラパラ。
ややあって、愛の教徒達が武装解除して、周囲で事を見守っていた治安組織に捕まった。
確か原作では、ヒロイン達がリーダーを捕まえて、皆を脅したんだっけ。
自分達のクラスにやってきたリーダーを、攻略対象達と協力して、ばっとやってがって。
幸いな事にそれ以上抵抗する奴はいなかったようだ。やってる事はおかしいけど、あいつら妙に仲間意識が強いから、リーダーの命を捨ててまで行動したりはしないんだよな。
その愛を、他の種族にも向けろよって思うけど。
しかし、フレオンがいなかったのに、何とかなったのか。
すごいな。
原作と同じように攻略対象達は病んでるのに、原作以上の力を出したって事か?
全部が全部運命通りになるってわけじゃない?
そうだって、思っていいのかな。
「うーん、肩がこりそうだったよ。これでやっと自由に動ける」
微妙な顔でいると、フレオンが自分の手足をしばっていた縄をさくっとほどいていた。
一般的な獣人より力がないとっても、それくらいは簡単らしい。
俺のもほどいてくれる。
「さんきゅー」
あんがとさん。
ほっとした心地で、しばられた縄の後が残る手首をさすっていると、妙なひっかかりを覚えた。
何か、忘れてるような。
原作イベント、まだなかった?
乙女ゲーム情報もうちょっと思い出してみる?
よっこらしょ。
「あっ」
その情報を思い出した瞬間。
俺は、慌てて屋上に走る事になった。
その後を、フレオンが追いかけてくる。
「えっ、ちょっととさか君! いきなりどこに行くのさ」
「爆弾!」
「ええっ?」
「屋上に爆弾があるかもしれないんだ!」
原作での愛の教徒達は、ここを占拠した後、どこかへ移動しようとしていた。
その際に、自分達がいなくなった後で生徒達を殺すために爆弾をしかけていたのだ。
それが屋上なんだ。
もし、そのままになっていたとしたら、大惨事だ。
すると、フレオンがスピードアップ。
「分かった! 任せて!」
獣人の脚力を活かして校内を疾走。
ぐんんぐん遠くへ。
あっという間に先に行ってしまった。
遅れて屋上にたどりつくと、空で爆発が起こるまさにその瞬間だった。
どうやら爆弾を見つけたフレオンは、残り時間が少ない事に気が付いて空に投げたらしい。
爆風に備えるために、屋上に放置されていた荷物箱の陰にかくれていたフレオンが「うわ、間に合って良かったー」という顔で出てくる。
ほんとによかった。
こっちも同じだよ。
でも、これで分かった。
すべてが原作通りになるわけじゃないって事を。
修正されない点もあるって事を。
足を引っ張る事にもなりかねないけど、俺がやった事が、必ずしも無駄になるわけじゃないって事が分かった。
それは大収穫かな。
そう考えると、少しだけ元気が出てくるような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます