第2話 とさか頭のとさか君



 俺の学園生活が始まった。


 けれど、色味がない。


 だって、しょっぱなからつまずいちゃったし、楽しめる気がしないんだよ。


 学生としての勉強もがんばらなきゃいけないんだけど、そっちも危ないかも。


 そんなこんなでがっくり落ち込んでいると、声をかけられた。


 うん?


 いつの間に俺登校してたんだ。


 クラスの机に着席してた。


 教科書もしっかり引き出しに入ってる。


 朝起きて身支度してたのは覚えてるけれど、ここまで自動モードだったのか。


 ちょっと怖い。


 で。

 俺に話しかけてきたのは攻略対象の一人、フレオン。


「ねーねー」


 ムードメーカーの少年だ。


 明るくて良い奴なんだけど、時々目にハイライトがなくなる。


 原作通り、病んだ少年だ。


「ねぇ、君……なんでそんなに落ち込んだ顔してるの?」


 気のせいじゃないかい?


「何か悩みでもあるの?」


 ないよー。別に何もないよー(棒読み)。


「よかったら、相談にのるけど」


 もしあったとしても、どうにかできるはずがないので、遠慮させてもらいます。


 だって、なあ。


 俺、けっこう頑張ったのに、原作通りの流れになっちゃってるし。もう何やってもだめなんじゃねって。

 そう思っちゃうわけよ。


 はぁ、つらみ。


「恋煩い?」


 それははっきり違う。


「あ、違うんだ」


 おや、なぜかそこだけはっきり顔色から内心を読み取られてしまった。


 解せぬ。


 フレオンは何が面白いのか、じゃっかん楽しそうだった。


「ねー、とさか。とさか、とーさーかーくん」


 おい、攻略対象。なんだその呼び方。


 俺はそんな名前じゃないぞ。


 目を合わせてどういう事だと問いただす。


「その呼び名はなんぞ」

「やっと目が合った。だって、頭がニワトリの頭みたいだし」


 なぬ!

 ぬわんだって!


 俺はあわてて、頭をさわる。


 うおっ、寝癖でぼさぼさだっ。


 こんな状態でここまで歩いてきたんかい。


 そりゃ、とさか野郎と言いたくなるわな。

 憎き養鶏場の鳥畜生と同じとは。


 うわーはずかしい。


 慌てて寝癖を手櫛でなおすけど、色々とて遅れなような気がした。


「あーあ、鳥の巣でも作れそうだったのに」


 作らんでええわい。

 もう喋りかけないでっ。


 攻略対象に喋りかけられるたびに、自分の無力さを思い知らされるんだからっ。

 今、静かに一人で泣きたいのっ。


 男の子だから泣かないけどっ。


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