第177話 それでも来ました

「おー着いた着いた」


「わたし、砦に入るのって初めて」


「ん。同じく」


「砦というより要塞だな、これは」


 王都を離れて約一週間。


 アインハルト王国とドライデン連合商国との国境。ブルーリンク辺境伯領にある要塞に到着した。カラーヌ子爵に警告はされたがそれでも来た。というか、情報が本当なら尚更行かないわけには行かない。いろんな理由で。


「あたいら以外にもチラホラと冒険者が見えるな」


「でも聞いてた通り殆どがCランク以下みたい」


 要塞内には俺達と同じように依頼を受けたのだろう冒険者達がチラホラ。


「で、着いたはいいけどよ。何処行けばいいんだよ」


「さあ?」


 アッサリと要塞内に入れてもらえはしたが、この後はどうすればいいのやら。


「ノワ……んんっ。君達、こちらへ来てくれ」


 と、思っていたら案内役が来た。見た事のある顔…ああ、ブルーリンク辺境伯の護衛の騎士さんだ。


 街道脇で昼食を食べてた時に一緒していいかと尋ねて来た人。


「こちらでお待ち下さい。まもなく当主様方が来られます」


「…方?」


 ブルーリンク辺境伯本人が居るのはわかるけれど、他に誰が居るっての?妹のカミーユさんか?


 最前線になりかねない場所に姉妹そろってとか…何考えてるんだか。


「やぁ、待たせたね」


「お久しぶりです、ジュン様」


「失礼する」


 …カミーユさんは予想通りだがもう一人は誰?


 なんか嫌悪感を全面に出したような眼で睨まれてますけど。


「いやいやぁ…まさか本当にノワール侯爵が来てくれるとは。王都でも依頼を出した甲斐があったよ」


「ふん。此処は子供の遊び場ではないのだがね。邪魔になる前に…いやノワール侯爵は確実に邪魔になるから帰ってもらいたいな」


 おぉ…ここまでストレートな敵意を向けられたのはいつ以来だろう。


 もしかしたらマイケル以来か?ドミニーさんはなんだかんだで味方だし例外として。


 こういう人っつ新鮮だわ…なんでもかんでも全肯定じゃないだけでまともな人に見えちゃう。


「失礼だぞ、アズゥ子爵。女装しているが彼は間違い無くノワール侯爵で―――」


「ふん。私は信じません。男が…一人で厄災級のドラゴンゾンビを倒したりタイラントバジリスクを仕留めたなど。大方白薔薇騎士団や、そちらの冒険者殿らの功績を奪っただけでしょう」


 おぉ…本当に新鮮。普通なら怒るべきなんだろうが、こういう他とは違う意見を言う人って大事だよね。


「だからアム。怒らない怒らない」


「いや怒れよ!」


「あなた失礼です!」


「燃やすぞ」


「……」


「わふ!」


 まぁ、アム達は怒るわけだが…俺が気にしてないんだからいいのよ。


「ふん。女を誑かすのは上手いと見える。白薔薇騎士団を手中に収めて何をするつもりか?反乱でも起こすか」


「アズゥ子爵!いい加減にしないか!」


 …そんな意見は初めてだなぁ。そういう見方もあるのなぁ。


 的外れもいいとこなんだが。


『反乱を起こすっちゅうのも野望の為やろ。マスターの俺Tueeeeeをしたいって野望の為に利用してるって考えたら…的外れでもないんちゃう?』


 …お前に利用してるとか言われると心に来るからやめなさい。


「…そろそろ御名前を伺ってもよろしいですか。私はジュン・レイ・ノワール侯爵」


「ふん…シーニィ・マーヴィ・アズゥ子爵だ。青薔薇騎士団副団長を担っている。ドライデンの動きが活発化しているという情報を受け応援に来た次第だ」


 青薔薇騎士団副団長?へぇ…見た所ソフィアさんやクライネさんと同世代。


 体格は女性ボディビルダーかってくらいにムキムキ。首も太いし…胸も筋肉に変わってそう。


「はぁ…これでも母上が信頼する副団長。頼りになる人物なのだがな…」


 あぁ、そう言えば先代のブルーリンク辺境伯が現青薔薇騎士団の団長だったっけ。


 その繋がりで青薔薇騎士団が派遣されたのか。


 あ、だから帝国に行く際の護衛から外されて代わりに黄薔薇騎士団が行くわけか。


「いいかノワール侯爵」


「はぁ」


「貴方が普段どんな遊びをしようと私は関知しない。だが此処に来た以上好き勝手は許されない。男に期待などしていないが、せめて邪魔にならないようにしてもらおう」


「アズゥ子爵!」


 おうおう…男を護るのが主任務な青薔薇騎士団の副団長にしては随分な態度。


 でも不思議な事に安心するわぁ、本当に。


「ふん。ここまで言われても尚笑うか。プライドは無いのか?情けない」


「てめぇ…もう我慢ならねぇ!ぶっ殺――ふにゃあ…」


「はーい、よーしよしよしよし」


 アムは顎を撫でれば大人しくなるから楽でいいなぁ。


 ほらほらカウラとファウも。武器を下げて大人しくしなさい。


「アズゥ子爵!貴女には退室してもらおう!」


「この事はお母様に報告させていただきます」


「ご自由に。ですがノワール侯爵。もしも貴方に一欠片でもプライドがあるならば。後で中庭へ来たまえ。そこで貴方の腕前を見せてもらおう」


「腕前?」


「アズゥ子爵!」


 ……それってもしかして…青薔薇騎士団と模擬戦とか?


 それか溶剤内にいる騎士や兵士と総当たり戦?


 パラン子爵との一騎打ちの線もあるか?


 何にせよ…俺Tueeeeeの予感!


「怖気付いたか?やはり所詮は―――」


「受けて立ちましょう!早速やりましょう!今からやりましょう!」


「お、おお…ど、度胸はあるようだな」


 フハハハハハ!降って湧いたこのチャンス!逃してなるものか!

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