第153話 御呼ばれしました
「来たか。そこに座れ」
「はっ…」
屋敷に帰ろうとした所を陛下が呼んでいるとの事で捕まった俺。
案内された先は以前と同じく陛下の執務室。今回は書類仕事をせずに俺を待っていたらしい。直ぐに用件に入るらしい。
「今回、お前を呼んだ理由だが…っと、その前に。ローエングリーン伯爵とレーンベルク団長はどうした。どうせ付いて来てるんだろう」
「あ、はい。扉の前で待ってますが…」
「なら入れろ。あの二人にも関わって来る話だ」
というわけでアニエスさんとソフィアさんも入室。本当はカタリナとイーナ、イザベラ達も待機してるのだが、彼女達は引き続き外で待機だ。
「さて、用件だが…二つある。先ず一つ目。ノワール侯爵、お前パーティーを開け」
「……はい?」
パーティー?俺が?……どしーて?ほわーい?
余りに予想外で突然過ぎると思うのですが?
「あの、陛下…それはどういう事で?」
「お前なら言わなくてもわかるだろう、ローエングリーン伯爵。レーンベルク団長も考えればわかる筈だ」
「…貴族としての付き合いをしてなさすぎる、という事ですか」
「簡単に言えばそうなる。お前達が頑張り過ぎた結果だな」
どういう事かと尋ねれば。
貴族というのは定期的にお茶会やパーティーを開いて自分の人脈、財力を識らしめるのと同時に新たな人脈作りや、交渉の場を用意する。お金を使って怪経済を回す意味もあるし政治的な側面もある。
上級貴族ならば年に数回は開くのが普通。しかし俺は未だに開いていない。
侯爵になった際にパーティーをしたが、アレは身内しか呼んでいない。貴族的な意味合いなど皆無だった。
しかしお茶会やパーティーを開催する事は別に義務というわけでもない。
開催しなければ罰則があるわけでもない。女王陛下がわざわざ命令する必要もないはずなんだが。
「この手紙と書類の山を見ろ」
「…これが何か?」
「全てお前と接触する機会を作って欲しいという嘆願だ」
……手紙だけで五百枚はあるか?書類の山の方は城内で働く文官や武官、騎士達からの嘆願書か。
書類の方は高さ30cm程度はありそう。…それって何千枚?
皆、暇なのかな…それとも陛下に対する新手の嫌がらせ?
「以前にも同じような事があった。ジークに会わせろ、ジークを我が家のパーティーに招きたい、ジークと娘が会う機会を作って欲しい、とかな。我が子の為、それらは全て闇から闇へ消し去って来たが…いくらアイの婚約者とはいえこれ以上はやってられん!早急になんとかしろ!」
ああ、はい。そりゃ自分の子供でもないのにあんな数の手紙や書類の処理なんてやってらんないわな、うん。
アニエスさんやソフィアさんが完璧にブロックした結果の皺寄せが陛下に行ったんだな。
…女王陛下なんていう最高権力者に縋ってまで会いたいかねぇ…それなら直接会いに来るとかすりゃいいのに。
レッドフィールド公爵やイエローレイダー伯爵みたいに。
「侯爵相手にそんな非常識な真似する奴は……まぁ何人か居るが大多数は手順を踏んで会おうとするんだ。だが、それらは全て断ってるだろう、お前達は」
「だって必要性を感じないんですもん」
なーぜ顔と名前が一致していない、よく知りもしない人物を屋敷に招いたり、お呼ばれに応じなければならんのだ。
領地も無かったから関わる必要がある貴族も少なかったし。本当に必要性が無いんだし。
という不満を顔に出してみた。
「…あざとい奴。そうやってイザベラ達も口説いたのか?だが我には通用しないぞ。…クッキー、食べるか?」
「…いただきます」
なに、その飴玉くれる近所のオバちゃんみたいな対応。
陛下の対応にジト目を送るアニエスさんとソフィアさんに気付いた陛下は咳払いの後、懐から三通の手紙を取り出した。
「陛下、それは?」
「内容はアレらと同じだ。だがこれらは少々厄介な相手だ。断るべきか受け入れるべきか。お前達の意見が欲しい」
「…拝見しても?」
「必要無い。中身はアレらと同じだと言ったろう。差出人は封蝋に施された印を見ればわかるだろう」
いえ全く。さっぱりポックリです。
というわけで、教えてください。
「…右のはエロース教教皇だな」
「…うわぁ」
思わず拒絶反応の声が出る。なんでエロース教のトップがいきなり接触して来るんだよ…先ずは司祭様…ジーニさんに連絡して伝言させるとかじゃないの?
「左のはツヴァイドルフ帝国皇家ですね…」
「うわっはぁ…」
ツヴァイドルフ帝国皇家が何の用だよ…いや、俺に用があるんだろうけどさ。
敗戦国が戦勝国に要求とか許されるのか?
『個人に会いたいって要求くらい許されるやろ。なんぼ敗戦国でも国家やからな』
そんなもんなのか…
「真ん中の封蝋は…わかるか、レーンベルク伯爵」
「いえ…見た事のない印です」
「わからんか。それはドライデン連合商国の都市ガリアの代表エスカロンの印だ」
…ドライデンかぁ。廃鉱山での魔草栽培の件と男性拉致誘拐事件の首謀者と目される国。そこの代表の一人が俺に会いたいって?そんなん碌な用じゃないべ。
「どいつも回りくどい言い方してるが本題はお前に会いたい、だ。我を招待するついで、という体ではあるがな」
招待…つまりは陛下と一緒に各国へ来いって?そんなカモネギな御招待遠慮します。
「…その顔からして答えは見えてるが、一応聞こう。返事は?」
「御断りします」
ノータイムで御断り!拒否一択でぇす!
「…ま、そうだろうな。我とて敗戦国の帝国に行きたくはないし仮想敵国の商国も同じだ。エロース教本部は行くには遠すぎる。一番行きたくない。しかし、だ」
「しかし、なんです?何か懸念でも?」
「向こうから来た場合はどうする。その場合は断る事は難しいぞ」
「……」
他国の重鎮が会いたいと言えば…会わないとダメなのか?いや、でも…そういうのを回避するために俺を護る会があるのでは?
『そりゃそうやねんけど、ただ会って話をするってだけの相手を全て防ぐんは難しいやろ。教皇や皇家相手にして力尽くでどうこうされんだけの状況が作られてるんは確かやねんし。それは大したもんやねんで?』
…それもそうか。
で、向こうから来るって状況は、もしかしたらこちらから行くよりも面倒な事態になるかもしれないが、どうするって話か。
『そうやな。それでも選択肢は一つやろ。何も自分から相手の手の内に飛び込む事はないわ』
だな。何より他国に行くとなると拘束時間が長すぎる。
それも貴族として行くとなると…窮屈で仕方ないだろう。
「やはり御断りします」
「…わかった。我もそれで構わん。ならばこの三通に関しては断りの手紙を出す。だがアレらは諦めよ。近い内にパーティーを開くように」
「陛下、しかし…」
「ローエングリーン伯爵、レーンベルク団長。さっきも言ったが、アレらはお前達が頑張り過ぎた結果だ。お前達がノワール侯爵を連れて適当な貴族の招待に応じたり、自分達が開いたパーティーに連れて行くなりすれば我が動かずに済んだ。何事もやり過ぎは良くないという事だ。次回に活かせ」
……やり過ぎは良くない、か。何故かな、耳が痛いな。
「アレら全てを招待する必要は無い。誰を呼ぶかは好きに選べ。アイの手前、我も行ってやるから安心しろ」
女王陛下自らが来るって…喜ぶべきなのか緊張するべきなのか。
アホな事する連中は減りそうだけどさぁ…
『マスター、そんなんで緊張とかするん?そんなやわな心臓してへん癖に』
その心臓が言うと重みが違いますなぁ。そりゃメーティスはそんなんで緊張しないよなぁ。
『なにおう!乙女なわてのハートは繊細に決まっとるやろ!』
ハートが繊細な乙女は性処理とか言わないんだよなぁ…
「これで一つ目の話は終わりだ。次の話だが……受け取れ」
「…これは?」
女王陛下が新たに取り出したのは…お茶会の招待状?
さっきの話の続きじゃないのか?
「違う。招待状の送り主を見ろ」
「…ガウル様?」
「「え?」」
ガウル様が何故俺を?一度も会話した事もないし、叙爵の時に顔合わせしたくらいだが。
「知ってると思うがガウルはノワール侯爵家縁の人間。だからかお前の事が気になって仕方ないらしい。アイにも頻繁にお前の事を尋ねているようだ。だから…お茶会、参加するよな?」
「……はい」
これは断るなよ、という圧力を感じる中で。陛下相手にNOと言える心臓じゃありませんでした。
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