第95話 呪う事にしました

『いらっしゃい。欲しい物があったら値札にある代金をカウンターに置けば持って帰れるわ。代金を置かずに持ち帰ろうとした場合、命の保障はしないわ。それじゃごゆっくり』


「「「「……」」」」


 魔法道具店『エリザベス』に入ると音声が流れた。


 以前、俺達が指摘した事を改善しようとしたらしいが…どうしても店番をするつもりは無いらしい。


「物騒なお店ですね」


「ほんとにな。これで食っていけんのか?」


 並んでる商品は高額だし腕は確からしいから大丈夫だと思うが…今回は魔法道具に用はないんだ。


「エリザベスさーん!いませんかー?」


「なんだよ、ジュン。店主に直接用があんのか?」


「魔法道具を買いに来たのではないのですか?」


 そう、今回はエリザベスさんの呪い…いやおまじない?に用がある。


 サラッと聞いただけで、本当にそんな呪いや御呪いがあるのかわからないが、あるならフランのお父さんを見つける事が出来るかもしれない。


「エリザベスさーん!……居ないのかな」


「また寝てるんじゃねぇ?おーい!」


「……御留守みたいですね」


「……ううん、奥から声が聞こえるよ。凄いか細くて、何て言ってるのかはわかんないけど」


 居るのは確かなのか。


 なら出て来るのを待つか。


「……いや遅いな!」


 三十分は待ったが出て来る気配なし。


 どうする…入っちゃうか?


「良いんじゃね?おーい邪魔するぞー」


「カウラ、どっち?」


「えっとね、多分下」


 店の奥に入ると扉が三つと上に上がる階段と下に降りる階段があり、カウラは下だと言う。


 下に降りると扉があり、灯りが漏れてる。


 扉を開けると…


「お邪魔します。エリザベスさん、居ますか…って、エリザベスさん!」


 部屋ではエリザベスさんがうつ伏せで倒れていた。


 部屋の中には何に使うのかわからない、怪しげな物で溢れているが、争った形跡は無い。


「一体何が……エリザベスさん、無事ですかって、裸ぁ?!」


 倒れているエリザベスさんを抱き起こしたらローブがはだけた。


 ローブの下は全裸で、どうやらマントみたい覆ってるだけらしい。


 ローブの下には主張の激しい二つのサクランボ付プリンが……って、それどころじゃなく!


「エリザベスさん!生きてますか!一体何があったんです!」


「…お、おなかすいた…」


「「「「……」」」」


 ただ空腹で倒れてただけかーい!


 紛らわしい真似すんじゃない!漫画か!


「…カウラ。馬車から野菜と肉、取って来て」


「えー…もう、仕方ないなぁ」


「しゃあねぇな。あたいは肉焼いてやるよ」


「ん。手伝う」


「ワタシもお手伝いします」


 あ、それよりも先にエリザベスさんを上に運んで…行っちゃったか。


 ……仕方ない。このまま此処で寝かせとくわけに行かないし、上に運ぶか。


 ……ローブが完全に落ちて全部見えてるけど、文句言わないでくださいよ!


 くっそ!ダークエルフって皆エロボディって決まりでもあんのかな!


 同じダークエルフのクオンさんもスタイル抜群の美人さんだったし!


『そんなん今更やんか。ゴブリンやオークでさえ美人しかおらん世界で、何を今更』


 そういやそうだったわ、ちくしょうめ!


「おーい、ジュン。こっちだ、こっち」


「此処が食堂っぽい」


 台所があり、テーブルと椅子がある。此処が食堂で良さそうだ。


「お待たせ。はい、エリザベスさん。取り敢えずトマトでも食べて…きゃあ!」


「ハグハグ!おかわり!」


 カウラの手に乗ったままのトマトに齧り付き、二口で食べてしまうエリザベスさん。


 代償にカウラの手はベトベトだ。


「うぇぇぇ…わたしの手がぁ…」


「…お気の毒。ほれ、今から肉焼いてやっから。大人しく待ってろ」


「ん、ワインでも飲んでて」


「わーい。お肉早くしてね」


「それより服着てください」


 鹿肉の串焼きと生野菜サラダを用意するはしから平らげて行くエリザベスさん。


 台所にはワインと調味料しかなく、暫く調理した形跡もなかった。


 一体何日食べて無かったんだか。


「料理は前からあんまりやらないのよね…ふぅ、ごちそうさま。助かったわ」


「おう。…鹿肉、半分以上食っちまったな」


「お野菜は全部…うぅ…」


「どんまい」


 鹿肉も野菜もキロ単位で食べてるけど、大丈夫かね。


 ワインもボトルで3本開けてるし。


「…それで、何があって倒れてたんです」


「ん?えっと…そうそう!空腹を三日三晩感じない呪いを新開発したの。それを試しに自分にかけて。んで、今日が四日目、というわけね」


 そしてその間、研究に没頭。呪いが切れて、一気に空腹感が襲って来て倒れた、という事らしい。


 つまり…自滅やん。


「あたいらが来なきゃそのまま餓死…変死体の出来上がりだな」


「殆ど自殺だよね」


「バカ?」


「バカとは失礼ね…」


 いやバカだろう。アムの言う通り、俺達が発見しなきゃどうなってた事か。


「それで貴女達は何の用?助けてくれた御礼に…………」


「寝るな!」


「……痛いじゃない」


 前にもあったな、このやりとり。満腹になって眠気が来たか。


「用件はエリザベスさんに呪いをかけて欲しくて。以前、お父さんのパンツの紐が大きな音を立てて切れる呪いがあるって言ってましたよね」


「え…」


「ええ、あるわよ」


「それって父親の顔も名前も、居場所すら知らなくても問題無いですか?」


「呪いをかける事自体は問題ないわよ。ただ発動するには呪いを受けた人物が対象の200メートル以内に入る必要があるけれど」


 それは好都合。広い王都を練り歩く必要があるが範囲が狭ければ限定しやすい。


 何処に居るのかわかりやすいと言うもの。


「…その呪いをかけて欲しいの?」


「ええ。この子に」


「え、ワタシですか?…あ」


「あ、あー!そっかそっか!」


「なるほどぉ!それなら!」


「流石ジュン」


 アム達も理解出来たらしい。そう!この呪いならフランのお父さんを範囲200メートル以内に捉える事が出来る!


 カウラが一緒なら音を聞き取る事も可能な筈。当てずっぽうに聞いて周るよりは効率も良い。


「…良いわ。助けて貰ったし、事情は聞かないであげる。でも必要な材料はそっちで集めてもらうわよ」


「わかりました。何が必要か教えてください」


「沢山あるからメモを取りなさい。…言うわよ?牛の睾丸、豚の睾丸、鹿の睾丸、馬の睾丸、山羊の――」


 ……睾丸縛りなの?

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