第93話 出世する事になりました
「というわけで、ジュン君には何か手柄を立ててもらう事になったわ」
「はぁ」
アイと面会してから二日後の朝。朝食時に来たソフィアさんとクライネさんがいきなりそんな事を言う。
というわけでと言われてもな。もう少し詳しく説明を。
「つまりですね、ジュン君をスムーズにノワール侯爵にするのに手柄を立ててくれるとやりやすい、と。そういうわけです」
「そう、そういう事ね」
既に根回しは始めていているそうだ。
しかし、本当に俺が侯爵になるのかぁ。
「屋敷は此処で大丈夫よ。大きさも申し分無し」
「大き目に作ったからね」
デカいよね、この屋敷。流石に城とは呼べないが数百人はゆうに生活出来る巨大な屋敷だもの。
「ジュン君にどんな手柄を立ててもらうかは私達も考えるけれど、ジュン君も考えてね」
「考えて、と言われても…例えばどんな?」
「そうね…アインハルト王国が大きく発展する発明、発見をするとか」
「王族の命を救うとか、危険で巨大な魔獣を討伐…は危ないから却下ですね」
どっちもそんな都合よく起きてくれませんしね。
…起きてくれたら理由無しでもやっちゃうんだけどさ。
「そんなの…アレだ、ミスリルドラゴンをやっちまえばいいんじゃねぇの?」
「ダメだよアム、ミスリルドラゴンは狩っちゃダメって話になったじゃない」
「そして箝口令が敷かれてる。口にするのも拙い」
「おっと、やべっ」
ミスリルドラゴンが居着いて、まだそれほど時間は経ってないが、もうミスリルが採掘出来るらしい。
安定供給出来るミスリル鉱山なんて国としてはなんとしても確保したい。
故にミスリルドラゴンと敵対なんて以ての外。
討伐しようものなら逆に犯罪者に転落だ。いや、処刑されるだろうな。
「ふむ…私も考えておくよ。それじゃ仕事に行って来る。ジュン。ほらほら」
「あ、はい…」
俺の意志でアイと婚約した事を知った皆は、これまで以上にスキンシップとアピールが激しくなり…こうやって仕事に出る時やキスを求めるようになった。
そして一人にキスすると…
「寝坊してしまったな、おはよう…あ、こら!ズルいぞ、クリスチーナ!」
「フフッ…今日も一日頑張れそうだよ。じゃあね」
「くっ…ジュン!次は私だぞ!」
「何言ってんだ。次はあたいだ」
「その次はわたしぃ」
「カウラの次はファウ」
「そして私とクライネが続くわ」
「寝坊助のカタリナ殿は最後です」
「ぬっくっ…」
このように、その場に居る全員が続く。
俺としても出会ったばかりのアイと婚約した事に罪悪感が少なからずあったので受け入れるしかなく。
此処最近はずっとこんな調子だ。
「んで、今日ジュンはどうすんだ?」
「今日も冒険者の仕事する?」
「うん。もう少しでランクも上がるし」
「ん。なら行こう」
「ま、待て!まだ私は朝食が済んでない!」
喚くカタリナを待ってから冒険者ギルドへ。
冒険者ギルドが以前よりも遠くになってしまった為に最近ではクリスチーナが用意してくれた馬車で移動している。
カタリナが一緒に暮らし始めた事で護衛のゼブラさんとファリダさんも来ているのだが馬車までは貰えなかったそうで。
王都から出る際も利用しているので重宝している……つうか、まるでひも男だな。
『何を今更って思わなくもないけども。マスターはクリスチーナに特許譲ってるし気にせんでええやろ。何回も言うけど、この世界の男は働かんのが普通。皆ひも男やから、気にしな気にしな』
そりゃそうなんだろうけど……お?
「フランだ」
「あ?あぁ、白薔薇騎士団から来たメイドか」
「何してるんだろね?」
馬車で流れる街並を見ていたらフランの姿が。
フランは確か今日は休みだが……そう言えば以前にもこんな光景を見たな。
以前みたいに店に入って話をしては出てを繰り返しているのだろうか。
何をしてるのか、今度聞いてみようか。
「着いた」
「おう、ご苦労さん」
「帰りはわたしが操車するね」
「ん」
御者をしていたファウはそのまま馬車に残ってくれるそうだ。
カタリナもファウに付き合って残った。
俺達は冒険者ギルドに入って依頼を探しに―――
「来たか。よし私の部屋に行こう。そして今後の話をしよう」
「毎度毎度、飽きませんかギルドマスター」
廃鉱山の一件が終わってからもステラさんのアピールは終わらない。
最近では冒険者ギルドに行くたびにこれだ。
「周りに怪しまれる事すんじゃねぇよ」
「最近冒険者の間じゃついにギルドマスターは女色に走ったのかって噂になりつつありますよぉ」
「私はそんなもの気にしないさ。言わせておけ」
「あんたは良くてもあたいらは良くねぇの!ジュンを巻き込むんじゃねえよ」
「チッ…」
全くである。さ、何かめぼしい依頼は……お?
「行方不明者の捜索?」
「ん?何々…おいおい、男が誘拐されてんのかよ。穏やかじゃねぇな」
男は何処でも大事にされてるし、狙われている。
当然、護衛が付いたりしてるものだが…それなのに誘拐されたという事は組織的かつ計画的な犯行だという事。
「ああ、それか。王都では無く、他の街や村での話だが、確かに行方不明者が出ているそうだ。お前達も気を付けろ」
最後の気を付けろの部分だけは小声でステラさんに忠告される。
男を狙った誘拐事件…気になるけど冒険者ランクがB以上からしか受けれないようだ。
俺はまだ最低ランクだし、アム達もまだ受ける事が出来ない。
しかし、何で冒険者ギルドにこんな依頼が?
こういうのは騎士団の仕事だと思うが。
「依頼主は誘拐された男の妻や母親だが、騎士団に期待してない…のもあるだろうが高ランクの冒険者にも動いて欲しいんだろうさ」
そりゃまぁそうか。日本でも行方不明者を探すのに探偵を雇ったりしてるもんな。
「ま、あたいらには受けれないんだし、仕方ねぇよ。別のにしようぜ」
「これなんか良いんじゃないかな。畑を荒らす害獣の駆除。上手くいけば今夜のご飯にお肉が増えるよ」
「カウラは御礼に野菜が貰える事期待してんだろ」
「えへへ…バレた?」
という事で俺達は害獣駆除へ。
誘拐事件…やっぱり気になるなぁ。
ソフィアさんにも聞いてみようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます