第75話 ダメでした
~~ソフィア~~
「ジュン君が…ユーバー商会に潜入するですって?」
クライネとハエッタの報告を聞いた私は内容を理解するのに少し時間掛かった。
ジュン君が何故?
「ですからユウさんが潜入を決めて、それにジュン君も付きあう、という形です」
…クライネが主導でユーバー商会を調査してるのは知っていた。でも何処か怪しいものの証拠は見つからないままだった。
だからユウが潜入調査する、というのはわかるのだけど…最初の交渉の時から思っていたけど、あの子は本当に何者なのだろうか。
「それは私も気になりますけど、今すべき事は違います」
「そうね。今、考えるべきは…」
ジュン君を今度こそ護る事。
ジュン君がイーナ殿を助けようと一緒に崖から落ちた時、心臓が止まるかと思った。
あんな想いはもう二度としたくない。なのに、危険な潜入調査を認めるなんて出来ない。
「あと二週間あります。その間に――」
ユーバー商会の悪事を暴く。それしかない。
まだ疑惑段階だけど…ユーバー商会が何も問題の無い真っ当な商会だとわかれば、それはそれでいい。
ジュン君が職場体験?とやらに行っても安心………いやいやいや、待って。
そんなのジュン君が男だってバレるリスクが増すだけじゃ?
ダメだわ、やっぱりなんとかしなくちゃ!
「…クライネ!」
「ええ。全力で調査しましょう」
翌日から調査を開始。
白薔薇騎士団の半数以上を動員。
しかし、それでも大した事はわからない。
わかったのはユウの言ってたように王都以外の街の孤児院からも子供を雇っているという事。
そして雇った孤児達が何処で働いているのか、誰も知らないという事。
此処まで調べるのに一週間。残り一週間でどこまで出来るか…くっ、時間が、時間が足りない!
「このままじゃ拙いっスよ、団長」
「此処は私達だけでやる事に拘っても仕方ないです。ローエングリーン家にも協力を要請しては?」
…ナヴィとハエッタの言う通りね。
ジュン君の為に、此処はローエングリーン家…そうね、レンドン家のイーナ殿にも協力を要請しましょう。
「クライネ、ローエングリーン伯爵とレンドン伯爵家のイーナ殿に連絡を取って」
「了解です」
借りを作る事に…いえ、同じジュン君を護る会の仲間なのだから協力を要請するのはおかしな事ではないわ。
そうね、司祭様とクリスチーナも呼びましょう。
エロース教は言わずもがな、エチゴヤ商会の情報網もバカに出来ない。
今は全て使わせてもらいましょう。
「という訳です。皆さんの御協力をお願いします」
「当然ですわ!ジュン様を護る会一員として協力しますわ!」
「「「…………」」」
ローエングリーン家の屋敷の一室を借りて話合いをする事になったのだけど…イーナ殿以外は何か言いたげね。
いや、何を言いたいのかはわかるけど。
「先ず、聞きたいのだけど。この人は誰だい?何故、そのジュン様を護る会とやらに何故知らない人間がいるんだい?」
「わたくしのこと?」
「ジュンから聞いていないのか?そいつはレンドン伯爵家のイーナだ」
「…ああ、ジュンの入浴を覗いて男だと知った不埒者か」
「そ、そうですけど、もう少し言い方を…」
「そんな事よりもだ。何故一週間前なんて切羽詰まった時期に協力を打診した?」
「そうですよ、二週間前にわかってたなら何故その時に伝えてくれないのです?」
「「うっ…」」
それは私達だけでジュン君を護れると思ってたからで…とは言えず。
でも素直に謝るしかないわけで…
「申し訳ない。我々だけで調べられると思ったのですが、思った以上にガードが固く」
「フン…まぁいい。ジュンを護る為に協力する事に躊躇する理由はない」
「ですね。どのように調査するか、話合いましょう」
それから六日後。明日にはジュン君とユウが職場体験とやらに行く。
今日、再びローエングリーン家屋敷に集まって全員が持ち寄った情報を交換する。
その結果わかった事は…
「全員、何も掴めてない、だと…?」
「どういう事だい?うちの…エチゴヤ商会の情報網だけで何も掴めないのならまだしも、ローエングリーン家、レンドン家、白薔薇騎士団、エロース教…それらが力を合わせて調査したのに、何も掴めないなんて」
正確に言えば何もわからなかったわけじゃない。
今までユーバー商会では取り扱っていなかった薬草や毒草の類、食料品等を大量に購入している事。
それとフラスコやビーカーといった実験器具の購入。
それらをわざわざ外国から購入している事、がわかった。
だけど、それらは正規の手段で購入している為、犯罪性はない。
ユーバー商会はここ数年で新しい事業に手を出しては失敗しているので、今回もそれだと言われたらそれ以上の追及は出来ない。
そしてもう一つ。
「ユーバー商会には強力な後ろ盾が居るな」
「…ですね。かなりの大物…少なくとも公爵クラスの強力な後ろ盾が。それも複数の」
そうでなくては私達が調査してこの程度しか掴めないなんて考えられない。
勿論、ユーバー商会が真っ当な組織だから何も掴めないという事も考えられるけど…
「せめてもう二週間あればな…」
「時間が無さすぎでしたわね…」
こうなればジュン君に何かあったらすぐ動けるように万全の態勢を敷くしかない。
後はユーバー商会が真っ当な商会であるという事を祈るくらい。
どうか、何事も起きませんように…
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