第Ⅱ章 第9話 ~明らかにあの超高位秘術は、禁忌の術です~
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手
ヨハネス……リステラ王国の大神官であり、メイ術士学院の校長。術士。男性。
「丁度良かった。ノイシュ君、君にも見て頂きましょう」
布一枚を身体にあてがい、ほぼ全身の素肌を
「ヨ、ヨハネス様、これは一体……ッ」
状況が読み込めず。思わずノイシュは声を
大神官は静かに義妹から離れていき、近くの
「ミネア君、頼むよ」
「はい……っ」
不意に義妹の表情が変わった。顔を強ばらせると強く眼をつむり、術の
やがて彼女の身体からゆっくりと暗紅の光彩が発せられた。塗り重ねられた血の様な色を
不意にノイシュは視線を下に向けると自分の
「ノイシュ君……君は彼女のこの様な姿を、今まで見たことがあるかい」
「……はい。さきの戦いの時に一度だけ……でも、ここまではっきりと見たのは初めてで……っ」
思わずノイシュは強く眼を閉じてかぶりを振った。つい先程まではあれほど義妹の身に起こった事を知りたいと思っていたのに、胸から
「ノイシュ……ッ」
義妹の声がしてノイシュは顔を向けた。彼女の眼差しは恐怖と不安、そして深い憂いに満ちていた――
「ミネア君、有り難う。術を解いて結構です」
大神官の声を聞きながらも義妹は未だこちらにまなざしを向けていたが、やがてその
――ミネア……ッ
ノイシュはただ奥歯を
「……ミネア君から相談を受けた時、正直に申し上げて初めは信じられませんでした」
不意にヨハネスの言葉を聞いてノイシュが顔を向けると、大神官が深いため息とともに俯いていくのが見えた。
「……いえ、僕もまだ信じられないくらいです。ヨハネス先生、あれは一体……ッ」
ノイシュは大神官に一歩詰め寄ると、そこで彼の言葉を待った。沈黙が周囲を覆い、不意にこれ以上あの現象に関わってはいけないという考えが脳裏を掠めた――
「ノイシュ君、そもそも
突然の問いに対してノイシュはとっさに答えることができず、しばし言葉を探す。
「……人の身体に宿る、霊的な力の源……学院ではそう教えられました」
ゆっくりとヨハネスが顔を上げていく。ノイシュは視線が重なる。
「正確に言うと、
そして大神官がこちらを見据えながら、眼を細めた。
「……一般の人々さえ、
ヨハネスが額を手に当てると言葉を切った。ノイシュは大神官を見据え続けた。静かに言葉の続きを促す為に――
「――特に私たち大神官は、他の人々よりも大きな
ヨハネスが額から手を下ろし、言葉を絞り出す様に告げていく――
「――例えば先ほどミネア君が発現させた、あの超高位秘術の様に……」
「超高位、秘術……――」
すぐ隣で聞こえる少女の声にノイシュが振り向くと、そこには着替えを終えた義妹が
「――
そう告げる大神官の声に、ノイシュはそっと眼を細めた。確かにエスガルの放つ術は霊力を操るという域を超え、人の
「ミネア君の身体に刻まれたあの模様も、おそらく超高位秘術を発現させた際にみられる現象の一種なのでしょう……ミネア君、君はエスガル殿の術を見て、自分も出来ると思ったんだね……」
ミネアが大神官に向け、静かに頷いた。
「……はい、敵神官ははっきりと『私と同じ類術の使い手か』と申しておりました。だから、
そう言って義妹がこちらに視線を向けてくる。
「でもっ、私、あの時はただ夢中で……ッ」
そこで義妹は唇を震わせると、静かに
――……そう、あの時僕はエスガルの超高位秘術である
「……エスガル殿がいつ、あの術を修得したのかは分かりません。しかし他者の
ヨハネスの握る杖から
「ミネア君」
大神官の声が耳に届き、ノイシュが視線を向けると義妹もまたヨハネスに向かって顔を上げていた。その表情は硬く、瞳には不安と恐怖が
「今しがた述べました様に、まだ
「……はい」
そっとミネアが自らの両肩を抱き、
――ミネア……ッ
思わずノイシュは彼女のもとに近寄ると、その手の甲に自らのものを重ねる。そして顔をこちらに向ける義妹に対し、そっと
「……お二人はご存じですか。
ノイシュが振り向くと、目を細めてこちらを見る大神官の姿があった。
「それは
「完全なる状態……?」
思わずノイシュが口ずさむと、ヨハネスは大きく頷いた。
「はい。人の誕生とともに
――確か以前、義妹も同じ事を言っていた……
ノイシュはそっと彼女を見やった。義妹はただ大神官の方に眼差しを向けている――
「それでも殆どの場合、両者の
そこまで言うと、不意に大神官は背中をこちらに向けた。
「ヨハネス様……?」
義妹が不安げな表情で大神官に声をかけた。ヨハネスの後ろ姿がどこか力なく、何かやり切れないものを抱いている様にノイシュは感じた。
「……残念ながら、その後にどうなるかは分かりません。本当の
ヨハネスの言葉を聞き、ノイシュは俯いた。神の代理人である彼等でさえ、
「私の話は以上です。
そう言葉を切ると、ヨハネスは疲れた様に目頭を押さえたまま動かなくなった。ノイシュはそれでも助言を乞うべきか
「
ノイシュは大神官に向けて礼法を取ると、隣にいる少女も同じ所作をとるのが分かった。そっと目をやると、義妹の翠眼はいつもの
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