第Ⅰ章 第20話 ~胸が張り裂けそうな勝利~
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……本編の主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手
マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援部隊の指揮官。男性。術士
「ミネア……ッ」
ノイシュはそこで言葉を吐く自分に気づいた。視界の先では彼女の身体が光芒に包まれており、その右腕をエスガルへと向けていくのが見えた。次の瞬間、青い波動が放射されていく――
――あれはっ、霊力吸収術ッ……
刹那の後、激しい波動の衝突音が周囲に響き渡った。敵神官と少女の吸収術が互いを取り込むべく激しく絡まり合い、周囲に術の残滓を飛散させる――
「ほほぉ、面白いっ……私と術比べをしようというのか」
エスガルが口を開け、頬を吊上げて笑う。
「ダメだっ、ミネアッ……」
思わずノイシュは声を上げた。自然と瞼が熱くなる――
――君がどれだけ霊力を引き出そうと、相手は魂をも呑み込む秘術を使うんだっ……君の魂が吸収されてしまう……ッ――
ノイシュは目頭を袖で拭った。眼前でエスガルの秘術が、義妹の放つ光芒を少しずつ浸食していく――
「ううぅゥッ……」
ミネアが顔を歪め、強く目をつむる。その間にも赤黒い悪魔は容赦なく迫ってくる。そして遂に彼女の手元へと――
「ああぁッぁッああぁッ……」
ミネアが絶叫した瞬間、突如としてミネアを包む光芒が変化する。不気味な赤褐色の燐光、蛇の様にうごめく帯状の放出物、義妹の顔や肌を黒い幾何学模様が染めていく――
「なっ、なにぃっ……」
敵神官が大きく口を開き、初めて驚愕する姿を見せた。
「ノイシュ……ッ」
義妹の苦悶した声を聞き、ノイシュは眼を見開いた。
――そうだっ、今、僕がやるべき事……ッ
思わず唇を引き締めると剣の柄を強く握り直す。そして小刻みに揺れる脚に力を込めて数歩脇へと地を踏み締めた――
――父さん、ミネアッ、お願いだっ……あと一振りだけ、僕に力をッ――
「うっ、ぁあぁっぁッ……」
ノイシュは再び大きく剣を振り上げた。途端に傷口から血が噴き溢れ、臓物から激痛が踊った。脱力感とともに全身が震えて狙いが定まらない。が、それでも眼前だけは強く見据える。既に義妹が限界を迎えたのか、その身を包む光芒は消失し始めていた――
「行ッけえェぇ――ッッ」
ノイシュが一気に剣を振り下ろすや、瞬く間に攻撃術が発現した。刀身から烈風とともに衝撃波が広がっていき、ノイシュは思わず腰を落として片膝をついた――
――く……ッ
それでも気を張りながらノイシュが前方を見据えると、不可視の波動が甲高い音を立て、空を切り裂きながら敵神官へと殺到していくのが見えた。エスガルがこちらの攻撃に気づいた瞬間、赤黒い光芒が一気に主へと吸い込まれていく。敵神官がすぐさま衝撃波を避けるべく身体を引こうとする――
「があぁあぐっぁッッ……」
次の瞬間、エスガルの右腕が不自然に歪曲した。筋骨の破砕音が生々しく響き、エスガルの下腕が錫杖とともに空高く舞い上がっていく――
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