第Ⅰ章 第17話 ~殺意を向けられた少女~

~登場人物~


 ノイシュ・ルンハイト……本編の主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手



 ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手



 マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手



 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主



 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手



 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手



 エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援部隊の指揮官。男性。術士






――ッ……ミネア……ッ

 いつの間にか最後の死霊兵しりょうへいが義妹と対峙している。彼女が手にした槍斧を骸戦士むくろせんしに向け、懸命に突きを繰り返すものの相手は身を翻しながら確実に間合いを縮めていく――


「があああぁぁッ」

 次の瞬間、骸戦士が勢いよく剣を振り上げた。甲高い金属音が周囲に響き渡り、義妹の槍斧が輝きながら上空へと舞い上がっていく――


「ミッ、ミネア……ッ」

 ノイシュは眼を見開き、大きく腕を振って駆け出す。夢中で術を詠唱えいしょうしながらも前方を見据えると、そこには身体を震わせながら後退あとずさる義妹の姿があった。敵戦士が斬撃の間合いに入るのを視界にとらえる――


――やめろぉオォァオオ――ァッ

 あまりにゆっくりと光芒こうぼうが身体から放たれていくを感じながら、ノイシュは急いで剣を構えた。死霊兵が大きく武具を振り上げると、不意に歯を剥き出して笑みを浮かべる。義妹の表情に恐怖が貼り付き、膝から地面に崩れていく――


「アアァォアァ――ッッ」

 思わずノイシュは地を蹴り、義妹の長い髪をかすめながら敵前へと跳跳していく。敵戦士がこちらに気づいて視線を向けてくる。

「発現せよ……っ」

ノイシュは腕を大きく引き絞り、光芒を刀身に伝えていく。不意に死霊兵が身体を捻りつつ剣を大きく斜めに振り下ろしていくが、構わずこちらも一気に剣先を突き出していく――


「――刺突剣しとつけんッ……」

 次の瞬間ノイシュは腕に固い感触を感じるが、すぐに柔らかいそれへと変じていくのが分かった。そのまま躊躇ちゅうちょなく剣先を押し込んでいき、やがて柔らかい塊にまで達するのをとらえる。最後には刀身から臓物らしきものが強く脈打つのさえも感じた――


 直後、脇腹に衝撃がはしった。そこから熱い温度が広がり、不意に視野が激しく傾いてそのまま横倒しになる――


「ノイシュ、ノイシュッ――ッ」

 ミネアの泣き叫ぶ声を聞きながらノイシュは口元を歪めた。内蔵を強く握られた様な痛みが全身に広がり、思わずうめき声を漏らしてしまう。地面に伏した顔に生温かい液体が流れてくるのが分かった。たぶん、自分の鮮血だろう――  


「……この、くたばり損ないがっ」

 ノイシュは耳元に届く悪態へとゆっくり顔を上げた。そこには眉間みけんしわを寄せ、いかにも嫌悪する様な表情でこちらを見るエスガルの姿があった――

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