第Ⅰ章 第16話 ~たとえ撃ち合いでは、こちらが負けると分かっていても―― ~


~登場人物~


 ノイシュ・ルンハイト……本編の主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手



 ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手



 マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手



 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主



 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手



 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手



 エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援部隊の指揮官。男性。術士





「ノイシュッ、避けてっ」 

 不意にミネアの声が耳朶じだを打ち、ノイシュが急いで顔を上げると右前方から陽炎かげろうの様に揺らいだ大気が視界に入った。甲高い音を立てて下草を薙ぎ払い、灌木かんぼくを折りながら一気に距離を縮めてくる――


――敵の衝撃剣……ッ

 鼓動が強く脈打ち、慌ててノイシュは全身で脇へと飛びすさる。そのまま身体を激しく地に打ちすえた直後、不可視の波動が激しい砂利音とともに耳元を擦過していくのが分かる。ノイシュは背筋に冷たいものを感じながら去っていく攻撃を見送った。まともに直撃を受けたらきっと、全身の骨が粉砕されていただろう――


「くっ……」

 素早く立ち上がるとノイシュは視線を奥へと向ける。そこには巨剣を持つ一体の骸戦士むくろせんしがいた。既に相手は唇を滑らかに動かして詠唱えいしょうを始めている。こちらもすぐさま衝撃剣を発現させるべく術句を紡ぐが、先に光芒を浮かび上がらせたのは死霊兵の方だった。


――は、早いっ……

 ノイシュは眼を見開いた。相手の方がより激しい燐光りんこうを身にまとっている。つまり敵兵の方が強い霊力という事だ。こちらの動揺を察してか、相手の死霊兵が唇を吊上げて笑うのが分かった。そのまま対峙した骸戦士が巨重剣を上段へと振りかざしていく。


――くっ……

 ようやく術句を結ぶと、ノイシュは大剣を脇へと引き絞る。隙のない相手の動きにノイシュは眼を細めた。もう攻撃するほか無い。たとえ撃ち合いでは、こちらが負けると分かっていても――

 次の瞬間、後方から何かの音が近づいてくるのが分かった。直後に青い波動が脇をすり抜けていく。思わず顔を向けると、視線の先では光芒に包まれた義妹が手をかざしていた――


「ノイシュッ、今のうちに骸戦士を……っ」

 ノイシュが再び視線を死霊兵しりょうへいへと向けると、彼女の放った術が敵戦士に直撃していた。先程まで強く煌いていた相手の燐光が、その明度を一気に落としていく――


――そうか、ミネアが霊力を吸収して……っ

「――発現せよっ」

 ノイシュは光芒が刀身へと伝わっていくのを横目に見ながら、一気に大剣を大きくぎ払った――


「――衝撃剣っ、行ッけえぇえぇぇ――ッ」

 剣を振り切った瞬間、光芒が剣から離脱した。直後に風が巻き起こり衝撃波が発生した。陽炎の様にゆらめく破壊術が高速音を立てて死霊兵へと接近していく。対峙する敵戦士は完全に霊力を消失させていた――


 次の瞬間、放った術剣が骸戦士の頭部を捕らえるのをノイシュは視認した。太い首筋が不自然に捻れ、そのまま肢体から首級を裂き切っていく。残った胴体は首元から多量の血が噴き上げつつ、数歩たたらを踏んで崩れた――


――残る死霊兵は、あと一人……っ

「ノイシュ……ッ」

 不意に後方から少女の声が耳に届き、ノイシュは振り向くと眼を見開いた――

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