【資料】シャルルとジャン主従、シャルル・ドルレアン兄弟の母たち(イザボー王妃、オルレアン公夫人、マリエット・ダンギャン)

 隠しているつもりはないですが、作中で明言していないについて。

 洞察力の深いフォロワーさんはすでにお気づきかもしれません。


 シャルル七世の実父がシャルル六世ではなかった場合、最有力候補は王弟オルレアン公です。家系図上は叔父ですが、実は父親かもしれない。

 真相は確かめようがありませんが、もし事実なら、シャルルとジャン(デュノワ伯)主従はいとこではなく異母兄弟ということになります。


 シャルル・ドルレアンを長兄とする、異母兄弟……。


 当時から「シャルルは王の実子ではない」と噂されてましたから、当人たちも「いとこじゃなくて兄弟」の可能性に気付いていたのではないかと。


 シャルル七世とジャン主従は年齢差3ヶ月。

 兄弟たちの中で、最年少のシャルルが主君というわけです。

 当事者たちは複雑な気持ちでしょうけど、こういう葛藤を内包しているキャラクターはとても好みです。


 作中で、この件に触れるかは未定です。

 三人とも「異母兄弟の可能性」に思い至ったとしても、絶対に言葉にするタイプではないですから。


 ただし、シャルル七世は内心で引け目を感じてそう。だが、それがいい。




 ***




 いい機会なので、シャルル七世とジャン(デュノワ伯)とシャルル・ドルレアン、それぞれの母についてご紹介します。



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オルレアン公夫人ヴァランティーヌ・ヴィスコンティ

(Valentine Visconti、1366年生まれ)

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 シャルル・ドルレアンの母です。

 ミラノ公の令嬢で、王弟オルレアン公の正妻。

 結婚前の名前はヴァレンティーナ・ヴィスコンティ。


 若い頃は、王妃イザボー・ド・バヴィエールと並ぶフランス宮廷の華で、教養ある詩人でもあり、その詩才は息子シャルル・ドルレアンに引き継がれました。


 シャルル・ドルレアンの他にも何人か子を生んでますが、作中では省略しています。

 夫の不義の子であるジャン(デュノワ伯)を引き取るとき、息子に「夫の血を引く子ならば、あの子はわたくしの子供同然。あなたも実弟と思って可愛がってあげなさい」と言い含めたとか。


 オルレアン公が政敵ブルゴーニュ無怖公に暗殺されたあと、正当な裁きを求めますが、王妃イザボーに「陰謀を企てた」と疎まれてパリから離れました。夫の死から一年後、失意のうちに死去。



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(※)リュクサンブール宮殿の庭園にあるヴァランティーヌ・ヴィスコンティ像。




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マリエット・ダンギャン(Mariette d'Enghien、生没年不明)

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 デュノワ伯ジャン(オルレアンの私生児)の母です。


 近年の日本語資料では大抵マルグリットと書かれていますが、マリエットが正しいようです。

 古めの日本語資料だとマリエット表記になっており、どこかの時点で誤記されて定着したと考えられます。……違っていたらすみません。


 マルグリット名義が何人かいるので、本作『7番目のシャルル』ではマリエット説を採用します。


 当時の宮廷で、マリエット・ダンギャンはダンスの名手として知られており、王弟オルレアン公に見染められて愛人となり、男児(庶子)を産みました。

 オルレアン公と知り合う前か後かはっきりしませんが、オルレアン公の家臣と結婚しています。

 夫との間に子供はなく、ジャンが唯一の実子と思われます。


 シャルル・ドルレアンが母から詩才を引き継いだなら(史実)、ジャンはダンスの才能を受け継いだ(作者の想像)かもしれませんね。


 舞うような身軽な戦闘スタイルで、剣舞が得意……と、小説本編で使うかわからない設定が出来上がっていきます。


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(※)ドラクロワ作「愛人を披露する王弟オルレアン公」より。




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フランス王妃イザボー・ド・バヴィエール

(Isabeau de Bavière、1370年4月28日生まれ)

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 言わずと知れた、シャルル七世の母です。

 バイエルン公の令嬢で、神聖ローマ皇帝の曾孫。

 14歳のときにシャルル六世と結婚してフランス王妃に即位しました。

 結婚前のドイツ名は、エリーザベト・フォン・バイエルン。


 グラマーな肢体の小柄な美女(ロリ巨乳?)で、シャルル六世は見合いで一目惚れしたと伝わっています。

 背の低さがコンプレックスで、厚底の靴を愛用していたとか。

 贅沢志向の浪費家で、私的な蓄財にとどまらず、実家のバイエルンに大量の金貨を積んだ馬車をたびたび送りこみ、国境に近いメッスで何度か摘発されています。


 また、イングランドとトロワ条約を締結して王太子シャルルを廃嫡。フランスの王冠とカトリーヌ王女(シャルルの姉)をヘンリー五世に売り渡す見返りとして、イザボー王妃はイングランドから月々2000フランをもらう取り決めをしています。

 字句通りに、個人的なお金のために息子と娘と王冠と国を「売り渡した」といえる所業ですね。淫乱王妃の醜聞より、こっちの方がはるかに胸糞悪い……。


 子供たちと文通していたエピソードを根拠に「子供を愛する良き母だった、母を拒絶したシャルルが悪い」という説もありますが、王の快癒と王妃の贖罪を祈らせるために王女を修道院に入れたり(自分で贖罪しろー)、ルイ王太子(シャルルの兄)が母の振る舞いを嘆き、母と口論している光景がたびたび目撃されたりと、シャルル以外の子供たちとの関係も良好とは言いがたい。


 イザボー王妃は、小説でも史実でもシャルルを苦悩させる悪役ですが、実在した人を必要以上に悪者にするのは申し訳ない気がして、可能な限り調べました。

 結果、知れば知るほど、フランス史上最悪の悪女の名にふさわしいエピソードが盛りだくさん。「作者が考えた悪女」をはるかに超える悪女ぶりで、いっそ清々しくなりました。


 同情の余地があるとしたら。

 政治に興味がなく、能力もなかったのに、夫の発狂によって政治の表舞台に出ざるを得なくなった点でしょうか。


 リアルでは絶対に関わりたくないタイプですが、遠くから実害のない距離感で見ている分には……。インモラルで強烈なキャラクター性が魅力的ともいえます。


 ところで、シャルル・ドルレアンが母から詩の才能を、ジャンがダンスの才能を受け継いだなら、シャルル七世はイザボー王妃から何を受け継いでいるのでしょうね?


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(※)ベリー公の屋敷の暖炉にあるレリーフ、18歳のフランス王妃イザボー・ド・バヴィエール像。







【2024年1月20日、追記】

ミュージカル『イザボー』の影響か、閲覧数が急上昇したので改稿・追記。


 ちなみに、本作『7番目のシャルル』シリーズの主人公は、


・祖父:賢明王シャルル五世の「知性」

・父:狂王シャルル六世の「繊細さ」

・母:淫乱王妃イザボー・ド・バヴィエールの「自覚なき誘惑者」


 これらをハイブリッドしたキャラクターを想定しています。

 史実のシャルル七世は、養母で義母のヨランド・ダラゴンを「良き母上」と呼んで慕ってますが、下記エピソードで登場したは、イザボー王妃とヨランドそれぞれの性格がよく表れていると思います。


 イザボー王妃がシャルルに送った弾劾状と、ヨランドがイザボー王妃に送った書簡を翻訳したものです。


▼第八章〈殺人者シャルル〉編『8.24 悪夢の記憶(3)母の手紙』

https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614/episodes/16816927859472282568





(※)重複投稿先のアルファポリスで、三人の母親の画像3枚アップロードしています。

https://www.alphapolis.co.jp/novel/394554938/595255779/episode/4244917

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