幕間 黒頭巾の中身
〇マイア視点
ボクはマイア。
マイア・ロペス。
冒険者パーティ『グレイスウインド』で前衛のアタッカーをやっているよ。
魔法は使えないから、主に拳で戦ってるの。
そんなボクは今、ミツキ・ルナ・リーゼ、それにアイーダちゃんとウェルンさんといっしょに、冒険をしているんだ。
あ、アイーダちゃんは、竜神だよ。
すっごく大きな竜になれるの。
最初見たとき、びっくりしたよ。
もうひとりのウェルンさんは、エルフの王女様だよ。
本当は、ヴィルギニアって名前なんだけど、身分を隠すときは「ウェルン」って名乗ってるんだって。
さらにウェルンさんは、大昔に魔王を倒した英雄エルフ王の妹でもあるんだ。
ボクからすると、そんなに強くて怖いお兄さんが近くにいたら、体がいつも震え上がっちゃう、ウェルンさんは大丈夫みたい。
すごいよね。
ちなみに、ボクにもお兄ちゃんはいるけど、みんなボクよりも弱かった。
組手で一回も負けたことないんだ。
だから『お兄ちゃん』に対してあんまり怖いとか感じたことなかったんだけど、エルフ王と会って、世の中にはいろんなお兄ちゃんがいるってわかったよ。
それで、ボクたちは今、ブラギって国のイズンって街にやってきてるの。
その街は魔法都市とも言われててね、街では馬が引いていない馬車が魔法で走っていたんだよ。
他にも人が魔法で空を飛んでいたりして……こんな街があるんだーって、なんだか楽しくなってきちゃった。
だから、いろいろ見て回ろうって思ってたんだけど……街に入って早々、商人さんに声をかけられたの。
それも怪しい雰囲気の商人さん。
本当はついていきたくなかったんだけど、断るとまずいってミツキが言うんだ。
何がまずいのかまではちゃんと教えてくれなかったけど、こういうときのミツキの言葉が正しいことが多いから、ボクたちはその商人さんの宿屋に行ったんだ。
宿屋はキラキラして星の中にあるみたいだったよ。
魔法都市だから宿屋も特別なんだね。
お部屋もすごく広くて、出してもらった料理もすごくおいしかった!
アイーダちゃんもいっぱい食べて、満足して途中で寝ちゃったみたい。
それでボクが背負って部屋に戻ろうとしたら、ミツキに紙ナプキンを渡されたの。
なんだろうと思ったら、ボクたちを狙ってる人がいるって書いてあった。
ミツキは、ボクに部屋に隠れて、襲ってくる人がいたらやっつけてほしいみたい。
そういうことなら、ボクに任せて!
みんな、やってけちゃうから!!
それからボクが部屋に戻ると、みんながベッドに倒れていた。
ルナもリーゼもウェルンさん、それに……ミツキまで!?
「な──!」
何があったの!? って叫びそうになったけど、口元を抑える。
危なかった。
ここで叫んだら、襲撃者にバレてしまうかもしれない。
たぶん、ミツキはこうなるのがわかってて、ボクに頼んだんだ。
みんなが急に寝ちゃった理由は知らないけど、もしかしたら出された料理に薬が入っていたのかも。
でも、ボクはなんともなんだけど、なんでだろう?
まあいいか。
ミツキの予想通りなら、このあと薬を盛った犯人──ボクたちを襲おうって企んでいる人が来るはず。
隠れて襲撃者を待ち構えよう。
背負っていたアイーダちゃんを寝かせてから、ボクはクローゼットの中に隠れた。
すると、10分くらいして何者かが鍵を開けて部屋に入ってきた。
ミツキの予想通りだ。
数は……男が3人かな?
もう少しいるかも?
待っていれば出てくるかな……
いや、ダメだ!
男のひとりがみんなの寝ているベッドに近づいていく。
これ以上は、放っておけない!
ボクはそっとクローゼットを出ると、襲撃者の背後からその頭部を狙い、ふたりを気絶させた。
振り返った最後のひとりは、顎に拳をぶつけて昏倒させる。
……おしまいかな?
「──!」
天井に気配!
まだいる!
ボクは天井から降ってきた攻撃をかわし、反撃に右足の蹴りをお見舞いした。
その一撃は襲撃者の手に当たり、握られていたクナイが床に落ちた。
え、クナイ?
珍しい武器だ。
ボクの地元以外で持っている人、初めて見たよ。
天井から降ってきた襲撃者は、忍装束を着ていて──
って、あれ?
よく見たらこの人の着てる服も、ボクの地元でお仕事する人が着てたのと同じ服だ。
同郷の人?
まあ、もしそうだとしても、みんなを狙うなら容赦しないけどね!
ボクは襲撃者に接近し、拳を放った。
向こうは、何かに気を取られていたみたいで、動きが一瞬遅れた。
ボクの拳は襲撃者のガードした腕に直撃。
力いっぱい振り向いたから、きっと痺れて動けないはず。
もらった!!
ボクは足を振り上げて、追撃した。
脳天直撃だよ!
──と思ったら、すんでのところで、襲撃者の体が2つになった。
「え……?」
そのままボクのかかとは空を切った。
完全に当たったと思ったのに……
いや、それよりも今の避け方……ボクが地元で武道を学んでたときに、お父さんが見せてくれた技にそっくりだった……
まさか……
ボクは『構え』を作った。
左足を一歩前に踏み出し、腰は少し落として、左拳は体の前、右拳は腰の辺り……
「…………!!」
あ、襲撃者の人、動揺して半歩下がった。
ちなみにこの『構え』は、ボクの地元で教わる基本の構えなんだよね。
なんとなく、頭巾の中が誰なのか予想できたかも。
「シュッ!」
そのとき、襲撃者の人が動いた。
ボクの後方に回り込んで、拳を振りかぶっている。
そのまま振り抜かれた拳をボクは振り向きざまに左手の平で受け止めた。
拳を掴み、その手に力をこめる。
「うっ……!」ってうめき声が聞こえたけど、放すわけにはいかない。
「せぇぇぇのっ!」
ボクは思いきり左手を引っ張った。
浮かび上がる襲撃者の体。
そのお腹に全力で拳を叩き込む!!
「どっせいやっ!!!」
くの字に折れ曲がった襲撃者の体は、そのまま壁まで吹き飛んでいって激突。
「カハッ……!?」
その衝撃で壁にヒビを入る。
襲撃は背中を壁にずるずると擦りながら倒れこんでしまった。
ボクはすかさず近づいていって、黒頭巾を一気に引っ剥がした。
「で、こんなとこで何してるの、リュウ兄?」
リュウ兄──3人いるボクのお兄ちゃんの中で一番年下のお兄ちゃんだ。
…………
あれ、返事がない?
おかしいな、昔はこのくらいじゃ気を失ったりしなかったのに。
さては修行サボってたな?
そのとき、ガサッと音がしたので振り返ると、ミツキが部屋のところに立っていた。
ミツキの背中の越しには、ボクたちに宿を紹介した商人が縛られている。
ボクが戦ってる間に、捕まえちゃったみたい!
さすがミツキだね。
「ミツキ、終わったよー」
ボクはミツキに報告して、これでこの襲撃は終わった。
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