第355話、黄金城の天守閣
黄金城を歩かせている巨大スライムの化け物。スライムっていうか、足があってノシノシと歩いているのは、もうスライムでない気もする。しかしその体の感じはスライムっぽいのだから仕方がない。
すでに半壊状態の領主町を飛び出してしまいそうではあるが、俺の真魔剣、神聖剣のタブルブラストがほとんど通用しなかった。
「スライムってのは基本、火に弱いものなんだけれど」
アウラは言った。
「ゴムのようなサタンアーマースライムは神聖属性に弱い。でもヴィゴは、火と神聖属性の同時攻撃だった。最低でもどっちが引っかかると思ったんだけどね……」
「他の属性も確かめますか?」
ルカが氷竜剣ラヴィーナを握る。しかしアウラは首を横に振る。
「試したいところだけど、ルカの場合は相手に近づかなくちゃいけないから、ちょっと危険なのよね。相手が大きすぎるわ」
それならば、アウラやニニヤの大魔法で試すほうがまだ安全だ。ただ、メインアタッカーのニニヤは、別動隊なのでここにはいない。
「ラウネたちは大丈夫かしら?」
別動隊は、領主町で水晶柱の浄化作業をやっていた。町の水晶柱があらかた浄化空間となっているので、うまくやったのだろうが。
「ヴィゴ様」
「どうしたイラ?」
「城の天守閣……誰かいます」
長銃のスコープを覗いて、カパルビヨ城を見ていたシスターは言った。
「誰か、とは?」
俺は、イラから銃を借りて、スコープを使う。長銃なんて使ったことがないから、持ち方が正しいかわからないけど……。
「揺れるな……」
俺たちが乗っている神船ではなく、化け物の上に乗っている黄金城が、だけど。そんなんだから、徐々に崩れていってるんだろうが。
そこには、例の帝国からきた奴らか……。俺たちのウルラート王国を無茶苦茶にしようとした諸悪の根源。
「!」
いた! いたんだけど、ペルドル?
「ペルドル・ホルバか?」
ルースの兄、ペルドルがいた。馬鹿な!
「ペルドル・ホルバ!」
セラータが苛立ちの声を上げた。彼女を人間から、アラクネにした張本人。当然、怒りがこみ上げてきてもおかしくはない。
シィラが目を剥く。
「ペルドルって、そいつは奴の屋敷ごと吹き飛んで死んだんじゃなかったのか!?」
「倒したはずのルースが生きていたんだ。あいつも生きていたんだろう」
自爆したと見せかけて、実は逃げたのだろう。俺も脱出に手一杯で、あの人の死亡を確認したわけじゃないからな。
天守閣の窓にいるペルドルと視線が合った。俺が見ているのに気づいたか、手まで振ってる。なんて、呑気な……。
「……こうなってくると、城を動かす化け物スライムもどきも、ペルドルが作ったのかもしれないな」
俺は、神船の船橋で操舵輪を握っているハクを見た。
「ハク、城に寄せてくれ。上陸する!」
「んな、無茶な!」
ハクが声を上げた。
「あの城は段々崩れてるんだよ? わざわざ乗り込まなくても、そのうち勝手にやられるよ?」
「ペルドル・ホルバの身柄を押さえる」
俺はきっぱりと告げた。
「あの化け物を倒す方法がわかるかもしれない!」
黄金城が崩れて、それに巻き込まれてペルドル・ホルバが死んだとしても、化け物スライムもどきは健在。かといってそれを放置もできない。
「それに、セラータのこともあるしな」
「ヴィゴ様……」
セラータが息を呑む。彼女を元の人間に戻す手がかりが掴めるかもしれない。改造したのだから治せると、それで万事解決なんだけど。
「ハク!」
「あー、もう! オレは知らないよ!」
神船は、黄金城の天守閣へ近づく。下の化け物が一歩を踏み出すたびに、パラパラと城を構成している建材やらが落下する。
「あまりくっついてもいられないよ?」
「俺が降りたら、離れてくれていい」
むしろ離れていろ。
「ヴィゴが行くなら、あたしたちも行くぞ!」
シィラがウィンクした。ルカ、ヴィオ、アウラも頷いた。
「いつ天守閣が崩れるかわからないんだ。あまり余裕はないぞ」
「わかっているよ、ヴィゴ」
「だからこそ、速攻で片付けないとね」
アウラが笑った。一気に行って、一気に終わらせる。
天守閣のテラスが近づく。俺たちの神船の接近を警戒したか、ペルドルは室内に引っ込んだ。……おかげで、降りる場所はできたな。
しかし、黄金城が歩行のたびに揺れるので、テラスと神船を平行の高さに、っていうのは無理だな。
持ち上がる、踏み締めに下がった瞬間、俺は甲板を蹴って、カパルビヨ城の天守閣テラスへ飛んだ。
先陣きって着地! 後続が降りやすいように、場所を開ける。そのままテラスから室内へ入る。
豪華な応接室だ。しかし内装については、度重なる歩行の振動で揺れるせいか、壺などが落ちて割れていた。
「やあ、来たね、ヴィゴ君」
「ペルドル・ホルバ!」
長身の錬金術師は、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「君は本当にどこにでも現れるんだね。いや、まずは、汚染精霊樹の始末、お疲れさま。大したものだよ」
「ペルドル!」
セラータが怒号を発した。仲間たちも、武器を構える。
「おや、アクラネか。ルースのお友達だった子だね。また生きて会えるとは思わなかったよ」
したり顔になるベルドルである。
「さて、外から攻撃すれば私を倒せただろうに、わざわざここまで踏み込んできた理由を聞いてもいいかな、ヴィゴ君?」
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