第351話、光よ届け


 完全なる力を得て、魔王として復活する――ウルラは、そのつもりで、力の源のような何かを食べた。


 だが直後に、黄金宮にいるはずのマニモンの声が天から降ってきた。


『ウルラ、私があげた力について、だーいじなことを言ってなかったんだけどね……』


 いやに真面目ぶっている大悪魔の声。


『連れの騎士にも力を与えて、って、迷惑料代わりに要求されたからお薬であげたじゃない? それなんだけどさぁ……』

『まさか、嘘をついた……?』


 本当は力を与えていなかった? 困惑するウルラだが、マニモンは否定する。


『いいえ、ちゃんと力は入っているわよぉ。もう、アナタにあげた魔王と同等の力をね。今度こそ難癖つけられないようにって……』


 クスクス、とマニモンは笑った。


『でもね、私ぃ、聞かれなかったから言わなかったんだけど、お供の騎士君――えぇ、とハイブリッドの彼なんだけど、魔王の力を取り込むと、たぶん負荷に耐えられなくなって、壊れちゃうわよ、アッハッハ!』


 とうとう大笑いをするマニモン。ウルラは青ざめる。


『え……?』

『その場で与えたら、アナタの目の前でバラバラ四散しちゃうから、お薬であげたのよ。本当に必要になったら使いなさいって。ちゃーんと言いつけを守ってくれてうれしいわ、ウルラ』


 マニモンの高笑いは止まらない。


『本当は、愛しい彼が、アナタの前でぶっ飛ぶのを目の当たりにして、アナタがどんな顔をするのか楽しみにしていたんだけどぉ。……なーんか、アナタ、今、その騎士君の体を使っているのね。だから、教・え・てあげたのー』


 そこで大悪魔の声が低くなった。


『私をコケにして、ただで済むわけがないでしょ、クソガキが』

「……!」

『さあー、派手にぶっ飛んで果てなさーい! アッハハハハハッ!』

『そんな……ボクが、こんな、ところ――で――』


 ウルラ――ルースの体が肥大化していく。


『マニモン! お前ェェー!』

『私は、騙していないし、アナタの願いを叶えたわ。調子に乗って欲深くなった自分を呪うのね、ウルラ。……アディオス!』


 その瞬間、ルースの体共々、ウルラが爆発した。


 あっという間だった。見守っていた俺も、拍子抜けするくらいの結末。魔王の娘の最期だった。


「ヴィゴ、これは……」


 ヴィオが何と言っていいかわからないという顔をしている。……気持ちはわかる。俺にもマニモンの声が聞こえたから、たぶんここにいる皆が聞いていた。


『欲をかくと、身を滅ぼすという典型じゃな』


 神聖剣が言った。鞘の真魔剣からダイ様がひょっこり顔を出す。


「まあ、マニモンは大悪魔だからな。1000年前の魔王よりも古株だ。それと比べたら、ウルラなぞ小娘だ」

「マニモンと、ウルラは裏で繋がっていた?」

「だろうな。ほれ、町に攻め込む前に、ニエント山の見張り台と洞窟入り口が襲われたって話があっただろう?」


 ダイ様の言葉に、俺は、マルテディ侯爵が進攻前に言っていたのを思い出す。結局、敵の正体はわからなかったが。


「あれが、ウルラだったと?」

「それとルースもおっただろうな。で、マニモンの話から察するに、我々が攻め込む前に、何か対抗できる武器なり力なりを得ようとして、あやつの黄金宮に行ったのだろう」


 で、そこでウルラは、マニモンの怒りに触れるような要求をしたのだろう。マニモンは協力するフリをして、仕込んでいたと。


「……大悪魔、怖い」

「うまい話には裏があるということだろ」


 ダイ様は鼻を鳴らした。なるほどね……。


 ドォン、と轟音と振動がして、俺は振り返る。


 見れば、スキュラとヒドラを合わせた化け物のようになっている汚染精霊と、アウラやルカたちが戦っていた。


 ウルラに邪魔されたけど、あっちはまだ戦いが続いていた。


「ヴィオ、まだやれるな?」

「もちろんだよ!」


 ボーイッシュな聖騎士は元気だった。俺が駆けると、彼女もついてきた。さて――


「ダイ様、修復のほうは?」

「うむ、奪われたエクリクシスとダープルの能力の一部はどうにもならんが、取りあえず、46シー、インフェルノブラストなどの技は、どれも使用可能だ」

「威力が落ちているのか?」

「いや、爆発系の技が使えなくなって、ダープルの魔力吸収効率が若干落ちた程度だ。問題ない」

「そいつは結構!」


 俺は鞘から真魔剣を抜くと、二刀流の構えで突っ込む。


「遅いわよ、ヴィゴ!」


 アウラに怒られた。繰り出される汚染精霊の攻撃で、さしもの彼女もかすり傷が目立つ。


「すまん!」


 あれだけの強敵をよく留めてくれた。他にルカ、シィラ、イラ、セラータ、ネムが戦っていた。


 カイジン師匠は、ベスティアボディが破壊されたため行動不能。ディーは、カバーンの治療をしていた。……獣人で男の子だから回復を最後に回されたな。


 治療中の場に攻撃が来ないように、ゴムが体を大きくして壁を形成している。一種の安全地帯だな。


 よし、残っているメンツの攻撃を総動員して、汚染精霊を今度こそ仕留める。


「それじゃ、行くわよ! フラッシュ・レイ!」


 アウラが光の魔法を雨の如く、敵に浴びせた。手から伸びている無数の蔦が、光に撃ち抜かれて、千切れて落ちる。


「気をつけて。すぐに蔦は復活するわ!」

「次、私が行きます!」


 セラータがジャンプした。炎竜の槍を振り回し、ファイアブレスもかくやの炎を飛ばす。汚染精霊は、邪甲獣装甲を展開した。


「砕けっ!」


 セラータが思い切り槍を投擲した。炎竜の槍は装甲板に突き刺さり、そして砕いた。これで一枚。


「凍れ……絶対凍土の底に!」


 ルカのラヴィーナが強烈な冷気の一撃を放つ。吹雪もかくやの冷たい風と氷に飛来に、複数の邪甲獣装甲が現れて阻む。装甲はたちまち芯まで凍りつく。


「風撃! 貫け、タルナード!」


 シィラの風竜槍が一点に集中したソニックブームを放った。それは凍りついた装甲を砕き、バラバラに吹き飛ばした。三枚――残り五枚!


「スカーレットハート!」


 ヴィオが聖剣に光の力を込めて、そして斬撃を飛ばした。邪甲獣装甲を一枚、いや二枚をそのまま蒸発させた。


「残り三枚! ダイ様!」

『インフェルノブラストぉおおぉ!』


 暗黒地獄剣の咆哮。地獄竜の溶岩ブレスが、一直線に飛んで邪甲獣の装甲をドロドロに溶かした。三枚の分厚い壁が溶けていく。


 だが、本体には届かない。すぐそこまで迫り、しかし炎は届かない。


「こいつで、トドメだ! オラクルセイバー!!」


 神聖剣が輝く。ディバインブラスト――神聖竜の光がインフェルノブラストを裂いて、汚染精霊の本体を直撃した。

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