第341話、過去の因縁
ぶつかる剣と剣。俺とルースは互いを狙い、躱し、そして弾く。
こいつの剣を俺はよく知っている。幼き頃、カイジン師匠で基本を学んだ同門。もっとも、カイジン流剣術の技は、その頃教えてもらえなかったから、ルースは知らない。
冒険者になって同じパーティーにいた頃も、ルースの剣は知っていた。だが俺がパーティーを離れ、しばらく。こいつもまた別の剣を学んだらしい。
だが、お前も知らないだろう。カイジン流剣術はもちろん、俺が二刀流で戦うなんてさぁ!
小刻みよく響く金属音。普通の斬り合い、突き合いでは、埒が明かないか。
二つの剣を同時に突き出して、まずは真魔剣のインフェルノブレス! 地獄竜の火炎放射! ルースはマントを盾のように払いつつ、後退。あの炎で溶けないとか、いいマントしているな!
「セブンソード!」
距離が離れたところで、神聖剣の乱撃を放つ。七つの攻撃、防げるか!?
「分身剣!」
ルースの持つ魔剣が六つに増えた。飛ばした神聖剣の攻撃――光、火、水、氷、岩、雷、風――瞬きの間にすべて弾く! やっるぅ!
「行けっ!」
ルースの分裂魔剣が逆に俺に襲いかかる。
こちらは、そのまま神聖剣を振る、振る、振る! 光の刃、見切れるか!?
魔剣を瞬く間に撃ち落とし、そのまま光の刃がルースを襲う。まともに食らえば、四肢もバラバラになる連続斬り。ルースは巧みに魔剣を動かして、こちらの十を超える連続攻撃を弾き、逸らしていく。
俺の知らない間に、ルースもまた強くなった。それは認める。
また一段と距離が開いたところで、溜めていた左――真魔剣からインフェルノブラスト!
それを躱されても、後ろには魔王の娘と汚染精霊だ。どうする?
ルースが左手を正面に向けた。今さら何をしようってんだ?
攻撃はルースを飲み込み、その後ろの――!?
『妙だ』
真魔剣から声が漏れる。ああ、何かおかしい。
インフェルノブラストを撃ち終わる。眩しいくらいの地獄の炎が消えた後には、左手を突き出したまま、立っているルースの姿があった。当然、後ろのウルラと精霊も無傷だ。
『飲まれた?』
ルースの左の手のひらにぽっかりと穴が開いていた。おいおい、インフェルノブラストを食ったっていうのか? あの手が?
「返すぞ」
淡々とルースが言った。奴の左手からインフェルノブラストが返される! 今度はこっちが近くや後ろで戦っている仲間たちがいて動けないパターン。
『ダープル!』
『展開するのだわ』
ダイ様――真魔剣から三つの小魔剣が現れ、俺の前で三角形を形成しながら浮遊する。
飛来したインフェルノブラストが、その三角形の間を通過――せずに、そのエネルギーが吸収された。
「助かったぜ、ダープル」
『礼には及ばないのだわ、マスター』
小魔剣は真魔剣に戻る。
ともかく、振り出しか。
ルースの左手……こっちの攻撃を吸収して、それを吐き出す力があるのか。俺は持てるスキルがあるけど、あいつはあいつで、妙な能力でも授かったのかね。
・ ・ ・
ルカ、アウラたちリベルタクランは、黒ゴーレムと人型精霊と戦っていた。
それにもう一人。
「私の相手もしてくれよ、なあアルマァ!」
女黒騎士――ハイブリッドと化したかつでの同僚冒険者ナウラが襲いかかる。セラータは炎竜の槍で防ぐ。
「その名前で呼ぶな! 私はセラータだ!」
「あ? 何だってェ!?」
ナウラは魔剣を繰り出す。その素早い剣は、剣術馬鹿だったかつてのナウラらしく、セラータにとっては太刀打ちできなかった。
だから後退するのだが――
「おいおい、距離取り過ぎだっての! 前よりさらにビビりになってないか、クモ女!」
アラクネの後方跳躍で稼げる距離は長い。だから必要以上に下がったように見えるのだ。
「お前は騎士になりたいとか口にしていたが、何もかも中途半端だったもんなァ! 剣じゃあ私に一度だって勝てなかっただろう!?」
ナウラは煽る。
「闇の斬撃……行けっ!」
ナウラの魔剣から、闇の波動が放たれる。黒き刃が迫り、セラータはジャンプして躱す。
「馬鹿め! 迂闊に飛ぶと、着地を狙われるってわかるだろうがよ!」
魔剣を構え、ナウラはセラータの着地予想地点に向けて、闇の波動を先に放つ。
だが、その着地予想地点には、黒ゴーレムがいた。ナウラの攻撃を食らって、黒きモノゴーレムの胴体が三つに分断された。
そしてセラータは、その分断される寸前の黒ゴーレムの肩を足場に、再度ジャンプした。
「なっ……!?」
飛び込んでくるセラータ。ナウラは魔剣を垂直に構え、そのまま両断しようと反応するが――。
アラクネの下半身から、白い何かが飛んできた。ナウラは剣を構えたまま、飛来してきたそれを防ぐが、べちゃりと粘着性の物体が散った。
「なんだこれっ!?」
予想外のものが目の前に広がり、鎧の肩などに当たった。一瞬、巨大魔獣がクシャミした時に飛んだ飛沫とか鼻水を想像した。昔、一度やられたことがあったのだ。
「きったねぇ!」
鼻水、涎と想像してそんな声が出たが、ナウラが驚いたのは、魔剣から肩についたそれが粘り気を帯びてくっついたこと。
「蜘蛛の糸か……っ!」
気づいた時には、セラータが背後に回り込んでいた。
「さようなら、ナウラ」
炎竜の槍が、黒騎士ナウラの鎧と胴を貫いた。
「ぐっ……! ああああぁぁ!」
炎が踊る。ハイブリッド化したその体を炎の竜が暴れ回り、焦がし、燃やし尽くした。
かつての同僚だったものを見下ろし、セラータは呟いた。
「これが、今の私です」
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