第328話、攻撃の種明かし
結界石の破壊を巡って、クラン『リベルタ』とハイブリッドの戦いが繰り広げられている。
「ちょこまかとっ!」
シィラは風竜槍で怒濤の突き攻撃を放つ。対するボディースーツ女、タントは体を柔軟にくねらせて避ける、避ける。避ける!
「シュっ!」
タントの手から鋭い手刀が伸びる。槍を持っている相手に、そう簡単に踏み込めない位置で使う攻撃だが、タントは身も軽く、相手の側面や後ろへ回り込むと、至近距離から攻撃してきた。
気持ちの悪い距離の詰め方だった。シィラも素早く身を引いたり、槍を薙ぎ払って、何とかタントと距離を取ろうとするのだが、人間とは思えない柔らかさで、掻い潜ってくる。
「気持ちの悪い奴!」
「よく言われるわ」
「!?」
タントの顔が、シィラの眼前にあった。ねっとりと囁くような声。何故、こんなに詰められているのか、シィラには理解できなかった。
あり得ない!
するりと、眼前からタントが消えた。後に回られた――そう思った時、槍を持った手が持ち上げられ、同時に体に何かが巻き付いた。
「っ!?」
「あはぁ、つぅか、まえたっ」
シィラの耳元でタントが息を吹きかけた。槍を軸に、さながら大蛇に巻き付かれたようにシィラは身動きできなくなった。
「何だ、これは!?」
「言ったでしょう? 私はこの体が武器だって」
槍を持ったまま締め付けられ、動けない。足は地面についているが、蹴り上げることもできない。完全に立ったまま拘束されている。
「あらあら、元気な子。でも大人しくしないと……」
「ぐぐっ!」
全身を締め上げられた。大蛇ではない。だが大蛇が獲物を締め上げるそれに似ている。これは骨ごと砕かれる――シィラは悟ったが、抵抗する術がなかった。
体に何が巻き付いているのか。視線を動かせば灰色の何かが見えた。蛇のように鱗はないが、そこそこに太い。
すると拘束されたまま、タントの吐息が耳元から離れた。
「いいざまね。力自慢なようだけど、身動きできないなんて滑稽だわ。小娘がイキがるからこうなるのよ」
タントが正面に回り込んだ。
「……お前、少し縮んでないか?」
「そりゃ私の体の一部があなたを拘束しているんですもの。縮みもするわ」
タントはニッコリ微笑む。周りにいた討伐軍の兵士が動いた。シィラを助けようと突撃するが。
「邪魔よ!」
タントの手から、灰色の塊が飛んだ。それは兵士たちの顔や体に取り付くと、貪り始めた。
「まさか!? お前の体は――」
「あら、気づいた? そう、私の体は特殊なスライムでできているの」
挑んだ兵士たちが、たちまち灰色の塊――スライムに食われた。大きくなったスライムは、タントの体に戻ると、シィラを拘束する前の彼女の大きさに戻した。
「さあて、一番強そうなのは捕まえたし、周りの雑魚どもがウザいから始末してしまおうかしらねぇ」
タントは妖艶に微笑んだ。
「あなたには、私を『おばさん』呼ばわりしたことを謝ってもらわないとね? それまで生かしておいてあげるから、たっぷり反省なさい」
・ ・ ・
「おかしいな……」
オンクルは自身の胸に開いた穴を見やり、首を傾げた。
「俺には絶対無敵の障壁があるはずなのに……。何で貫通しているわけ?」
「さあて、どうしてかしら、ね!」
アウラはその手から光弾の魔法を放つ。それはオンクルの障壁に当たり、そして障壁の向こうのオンクルの体を貫いた。
「何で……どうして?」
オンクルが困惑する。障壁は確かにアウラの魔法を阻止している。にも関わらず、その攻撃が抜けてくる。
わからない……。何がどうなっているのか。
オンクルは混乱する。
その間にもアウラの投射魔法が次々に炸裂し、オンクルを撃ち抜いていく。そしてついに、ハイブリッドの戦士は膝をついた。
「……君って、意地悪って……言われない?」
「よく言われるわ」
「だろうな。……なんで、こんなチマチマとした攻撃で、オレをいたぶるのか、理解できないなぁ」
「別にいたぶっているつもりはないんだけど」
障壁の裏から、光弾がオンクルの体を貫き、その体を倒した。
「……いま、障壁の裏から?」
「そうよ」
アウラは近づいて、倒れたオンクルを見下ろした。
「わかった?」
「……最初からオレの障壁は、抜かれていなかった。……そうだな?」
「ご名答」
ニコリとアウラが笑う。
オンクルは仰向けのまま天を――黄金に生い茂る精霊樹を見上げた。
「なるほど。……外から攻撃したのは、俺を欺くフェイク……。トリックを見破られないように、……敢えて、障壁に攻撃をぶつけて、貫通した演技に見せたわけだ……」
攻撃魔法を、障壁の内側で発生させたのだ。自分の手元から放てば、障壁に防がれるが、発射地点が障壁の中であれば、遮るものは何もない。
ただし障壁の内側にある魔力を魔法に変換するという都合上、チマチマした攻撃魔法しか発動できなかった。
だから、アウラとしては、オンクルをいたぶっていたわけではなく、攻撃の手がバレないようにそれしか使えなかっただけである。
「お見事、だ……」
「アナタは強かったけれど、ごめんなさいね。ワタシはこう見えて、前世ではSランクの魔術師だったのよ」
経験が違う。伝説の魔術師の名はお飾りではないのだ。
周りで見守っていた兵士たちが、アウラの勝利に喝采をあげる。そのアウラは、オンクルが守っていた結界石を破壊した。
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