第251話、汚染対策


 ラーメ領の領主町一帯は、魔の領域と化していた。


 偵察からセッテの町に戻った俺たちは、すぐに今後の対策会議を開いた。リベルタメンバー全員に、状況とこれからどうするのかを確認する。


「――対策なしに入ると、魔物か黄金になってしまう」


 俺は、ダイ様に言って収納庫から、あるものを出してもらう。


「ちょっと、領域入ってみて、黒き魔物に出くわしたから、戦ってみたんだが――」


 俺が受け取ったのは、黄金の兜。


「倒したら、黒い瘴気が抜けて、スケルトンになった。そのスケルトンが被っていたのがこれなんだけど」

「それ、騎士団の……」


 ヴィオが言いかけ、口を噤んでしまったので、俺が後を引き取った。


「前回の討伐軍にいた騎士だと思う。汚染精霊樹の瘴気にやられて、黒きモノになってしまったようなんだが、倒した後、彼の装備品が黄金化していた」


 皆、驚きを露わにする。気持ちはわかる。俺も倒した途端、骸骨まで黄金化していくのを目の当たりにしたのだから。さすがに黄金になった人骨を回収する気にはなれなかった。


 沈痛な空気が漂う。聞いただけではいまいち実感がわかないというか、不安を煽っているだけのような気がする。


 そこへ、ラウネが口を開いた。


「その兜、本物の金? それとも見た目は金に見える別の何か?」

「確認したところ、本物の金だよ」


 俺が机に黄金兜を置くと、ラウネが早速手に持った。


「重っ。……ヴィゴの話が本当なら、本当に領主町一帯は黄金都市になっているわね」

「いくら金だらけでも、自分も金になったり、化け物になるのは願い下げよ」


 アウラが口を尖らすと、何人かが同意とばかりに頷いた。俺は肩をすくめる。


「それは同感だけど、かといって何もしないわけにもいかない。少しずつだが、黄金領域は広がっているらしい。最終的にどこまで広くなるか、見当もつかない」


 ラーメ領全体、王国東部、果ては国そのものが黄金領域に覆われてしまうかもしれない。つまり、何とかしないといけないということだ。


 俺は、この領域に入るために必要な対策案を説明した。神聖系の保護魔法や、魔を阻む結界、神聖剣や聖剣による光の加護――


「神聖系の結界や保護魔法でしたら、私は使えます」


 メントゥレ神官長が手を挙げた。ニニヤも、母モニヤさんから教わっているので使えると言った。ファウナが言う。


「……結界は効果範囲がありますから、個人はともかく集団での行動には制限がつくかと」

「んー、だよな。……そこのところ、どうなんだ、ハク?」


 俺が意見を求めると、白獄死書ことハクは、手近な椅子に座り腕を組んだ。


「まあ、そうなんだよね。制限時間なり効果範囲が気になって、注意が疎かになるというのもわからない話じゃない。特に結界の使い手などと離れてしまった場合、心細いよねぇ」


 何人かがブンブンと首を縦に振った。俺だって、手元に神聖剣がなかったら、瘴気から無防備ってことだから不安だ……。全員が結界や保護魔法が使えるわけじゃないし。


「オレが提案できるとすれば、お守りを用意するとか、魔法薬を飲むとか、かな」

「お守り、ですか」


 メントゥレが思い当たることがあるような顔になった。


「護符ですね。それなら個人で携帯できれば、結界範囲を気にしなくて済みますね」

「キミに作れるかい?」

「ええ、材料が些か必要ですが……」

「まあ、その辺りは相談しよう。いい手があるかもしれない」


 ハクが言った。アウラは、隣のラウネを肩でつついた。


「魔法薬って、アンタの専門になるけど、何か思い当たることはある?」

「うーん、解毒ポーションに聖水でも混ぜる?」

「割とマジメに聞いてるんだけど?」


 ラウネの回答を冗談と感じたか、アウラは眉をひそめる。


「言っても、ワタシが薬学や錬金術に手を出したのは、つい最近よ。そう簡単にホイホイ浮かびますかってーの! ……まあ、調べるけどさ」


 ラウネは答えた。討伐軍がラーメ領に到着してからの行動にも関わることだ。せっかく人数集めたのに、突っ込めるのは俺たちだけ、ってなっても困るので、何らかの有効な対策が欲しいところである。


 そこでディーが挙手した。


「ヴィゴさん。黄金領域……でしたか、そこに黒きモノがいるとなると、対抗できるのが、ヴィゴさんとヴィオさんの聖剣しかないんですけど、そちらのほうは――」


 黄金領域対策以前に、有効武器がないのは大問題。が、これについてもハクさんに答えがあるようで。


「ハク」

「そっちも神聖系の魔法で対応可能だよ。武器に神聖属性を付与すれば、ある程度の武器でも黒きモノを倒すことができる――」

「おおっ、そんなことが!」


 ゴッドフリーら騎士たちが驚いた。聖剣しか対抗できない化け物でも、聖剣なしで戦えるってなれば、そりゃそうなるよな。


「ま、そっちはオレのほうで、恒久的に神聖属性を与えることができるから、言ってくれれば相談に乗るよ」

「それは凄い! まるで聖剣のようですな!」

「いやいや、実際に聖剣を作るより簡単だよ」

「まるで聖剣を作ったことがあるみたいな口ぶりだな」


 俺が思ったことを口にすれば、ハクは首を引っ込め苦い顔になった。


「まあ、一応、伝説級には及ばないけど、これは『聖剣だ!』なんて言われたものを作ったことはあるよ」


 黒きモノを倒せる武器なら、聖剣と思われてしまう――と、ハクは解説した。これには神聖剣さんが鼻で笑う。


「なるほど、もどき、というやつじゃな!」

「オラクルちゃん、たとえそうだとしても、何気にへこむからやめて」


 ハクが、さらに顔をクシャクシャにした。どうやら昔、それ絡みで苦い思い出があるようだ。


 マルモが、キラキラした目でハクを見ている。もどきでも、属性付与に興味があるんだろうな。


 俺は苦笑しつつ、一同を見回した。


「――とまあ、俺たちが目的としている領主町は、ヤバい場所になっている。だが瘴気対策も武器もある。ただ、それでもやっぱり危険な場所であることは変わりない。もし、付き合えないというなら、無理強いするつもりはない。ここで降りてもいい。どうする?」

「行きます」


 ルカが即答した。シィラも「当然だ」と腕を組んで頷いた。ユーニやカバーン、ヴィオ付きの騎士など新参の者たちは、近くにいる者を見回したが、古参メンバーたちは迷わなかった。


 ヴィオやセラータも躊躇いなく決め、終わってみれば全員、参加が決まった。


 よし、それじゃあ、準備にかかろう!

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