第177話、リベルタの出番


 俺とアウラ、そしてロンキドさんは、王城へ向かった。


 シンセロ大臣とさっそく面会。そのまま、ラーメ領騒動についての話し合いに突入した。


「討伐軍は壊滅。セイム騎士団もまた全滅しただろうと思われる」


 報告した伝令曰く、領主町の攻略で戦力の大半を喪失した討伐軍は、セッテの町で防衛線を張ったらしいが、おそらく壊滅しただろうとのことだった。


「……なにぶんセッテの町の残存兵力は、伝令を送り出す時間稼ぎにしかならないほどの戦力差だったようだ」


 つまり、討伐軍が出かける前の状況に戻ってしまったらしい。


「第二次討伐軍を編成すべく、前回より多くの貴族たちに招集をかけた。が、前回に比べて遠方の軍も多く、王都に集結して軍を編成するまで、しばらく時間がかかるだろう」


 シンセロ大臣の言葉に、ロンキドさんは言った。


「それまでは、魔物勢力がそれ以上の侵攻に出ないことを祈るしかないということですな」

「うむ。ラーメ領の外側に、防衛隊が配備されているが、もし攻撃を受けたなら、どこまで防げるかわからない」


 何とも頼りない話である。討伐軍に兵力が動員されたから、仕方のないことなんだけど。

 俺は挙手した。


「そうなると、次の討伐軍が到着するまで、偵察しつつ、少しずつ敵の戦力を削っていくということでよろしいでしょうか?」


 俺たちリベルタは、ダイ様のダークバードで飛行できるから、地上を行くよりも断然早く王都からセッテの町や領主町を往復できる。


 こちらの進言に、シンセロ大臣は考え込む。


「うーむ、そうだな。ただ待つだけという形で時間を浪費するのも、敵に力をつけさせるだけやもしれぬ。……お願いできるだろうか、ヴィゴ殿?」

「承知しました」


 元々、ラーメ領の件では最初から、遅かれ早かれ行くだろうって思ってはいた。神聖騎士であるからには、こういう時、働かないとね。


 ロンキドさんが頷いた。


「冒険者ギルドとしても、リベルタには可能な限りの支援はさせてもらう。人員については……すまん。ここ最近の人手不足でこちらからは何も言えんが、志願する冒険者がいれば、そちらに回す」

「王国もだ」


 シンセロ大臣が机に手をついた。


「ヴィゴ殿。王国も貴殿らに支援をする。必要なものは言ってくれ。全て手配しよう」

「人員以外は、ですね?」

「10名程度なら即刻出す。練度を問わぬなら20人は最低でも用意しよう」


 討伐軍が再編できれば、もっと人数を出せるとシンセロ大臣は言った。必要なものは手配するという言葉に嘘偽りはないようだ。


「まあ、少数ですからある程度、能力がないと困りますが……お気持ちは理解いたしました。ありがとうございます」

「うむ、しかし腕がいいのが欲しいなら、ヴィゴ殿が部下を持つという方法があるぞ」

「部下、ですか……?」


 意外な言葉に、俺は耳を疑った。そうだ、とシンセロ大臣。


「冒険者パーティーにおける仲間と違い、給料を払う必要があるが、貴殿は神聖騎士なのだから、専属の部下を持つことが可能だ」


 そうか、そうだよな。俺、一応、騎士でもあるわけだから、従者とかいてもおかしくないわけだ。これまで冒険者としてやってきたから、パーティーメンバーやクランメンバーは部下って意識がなく、仲間だったんだよな。


「神聖騎士の部下なら、声を掛ければ王国の騎士や兵たちも志願してきそうだな」


 ロンキドさんがそんなことを言った。アウラも不敵な笑みを浮かべる。


「そこから腕のいいのを引き抜くわけね。確かに、王都の守備隊は動かせないけど、神聖騎士様の引き抜きなら、文句は言えないわね」

「……う、うむ」


 シンセロ大臣がどこかばつの悪そうな表情を浮かべた。そのつもりで口にしただろうが、アウラにあかさまに言われると、ちょっと、と思うところがあったのだろう。


「どうする? 一応、声を掛けておくかね?」

「あー、いや、それについてはまだいいです」


 リベルタのメンバーがいるのに、突然部下とか増えてもな。今でもちょっとした人数になっているのに。リベルタとその俺専属の部下の扱い方を同時に考えないといけないのは、面倒だなと思ったのが、一番の理由だったりする。



  ・  ・  ・



 王城より、リベルタのホームへ帰還。さっそく、今後の話を全員に――と思ったら、複数人が外出していたため、すぐに今後のお話というわけにはいかなかった。


「へぇ……買い物?」

「はい」


 答えたのはファウナだった。そして珍しいのは、彼女がキッチンに立っていたことだ。


「料理できるの?」

「はい」


 相変わらず淡々としているというか、言葉少ななエルフの姫巫女様である。料理作るのが好きなルカがいないのも珍しいが、それはつまり食材の調達だろう。買い物も必要だ。


「えーと、出かけたのは?」

「イラさん、ルカさん、シィラさん、ネムさん、リーリエさんです」


 マルモはゴムと装備メンテ。ニニヤはアウラの課した魔法トレーニングの消化。ディーは妖精の籠内で、アルマに付き添っているという。カイジン師匠は、現在ベスティア2号から出てお休み中。1号であるベスティアは玄関でガーゴイルよろしく見張りだったのは見ている。


「……」

「買い物にしては、ちょっと不思議な人選ね」


 アウラが俺も感じていた違和感を口にした。


「ルカとシィラが揃って出かけていることだろ?」


 不仲とは言わないが、あまり親しいとも言えない微妙な関係のふたりである。一緒に買い出しに行きましょって柄じゃないが。


「ネムが出かけたいって言って、それの付き添いかも」

「あー、それあるかも」


 そもそも全員が一緒に行動しているとは限らないし。ルカとシィラは別々のところに行っているかもしれないし。


「とりあえず、皆に今後の話をする前に、ヴィオ・マルテディには先に話しておくか」


 あいつ、すぐにでもラーメ領へ聖剣を取り戻しに行きたいって言っていたし。


「そうね。きっと首を長くして待っていると思うわ」


 ということで、俺とアウラは、妖精の籠にいるヴィオ・マルテディに会いに行った。喜べ、お望みどおり、ラーメ領へ行けるぞ。

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