第159話、ミノタウロスの姿を求めて


 俺たちリベルタは、ミノタウロスのいる洞窟の前に到着した。


「……とは言うものの、この洞窟はそれほど大きくないんだ」


 ガキの頃、遊びで洞窟に何度か入ったことがある。村から近いし、隠れ家だって遊んでいたら、大人たちから怒られた。


 時々、モンスターが現れるから、洞窟内にも入り込むかもしれない。だから近づくな、って。


「というわけで、大人数で言っても身動きできなくなるだけだから、突入組と待機組に分けようと思う」

「それが妥当ね」


 アウラが同意した。


 いざ遭遇しても、前衛が壁になって後衛組が攻撃に参加できないだろうし、その前衛すら全員が戦えるほどのスペースはない。


 メンバーを選ぶ。盾持ちである俺が先頭として、前衛組は――


「シィラ、突入組。ルカは待機組のリーダーな」

「了解!」

「……わかりました」


 ルカは少々ガッカリしたような顔をしたが、すぐに頷いた。ベスティアも待機組で、カイジン師匠も残ってもらおう。


「道中、射線はほぼ通らないから、銃が武器のイラ、マルモは待機組。ディー、お前は突入組な。耳と鼻、頼りにしているぞ」

「はいはーい、ヴィゴ兄さーん! あたしも、行きます!」


 ネムが手を挙げた。彼女も、取り回しがいいとはいえ短弓とスリングという飛び道具メインだが……。


「あたし、暗いところでも見えます!」


 ……あぁ、ゴブリンだから、洞窟内でも比較的視界が確保できるんだっけ。


「わかった。じゃあネムも同行で」


 ぶっちゃけ、中のことは俺が知っているから、そこまで必要じゃないんだけど、一番経験が浅そうだから、学びの機会と考えよう。


 魔法組は、アウラを突入組に指名。ニニヤとファウナは外で待機。


「リーリエは……一緒に来い」


 フェアリーちゃんは、ネムの帽子の上に乗っていた。待機組と連絡が必要になった時に伝令役として連れていこう。ゴムも分裂体を一体同行させる。


「じゃあ、出発だ」

「お気をつけて」


 ルカや、待機組の面々が俺たちを見送った。俺は超装甲盾とオラクルセイバーを手に先頭を進んだ。



  ・  ・  ・



 神聖剣の淡い光が洞窟内を照らす。中はガキの頃と、ほとんど変わらないな。


 結構深く感じたものだが、一本道なので、迷子になるということはない。しかし、ミノタウロスはこの洞窟に住み着くのはいいけど、どこから来たのかね。


「ディー、どうだ?」

「とても静かです」


 白狼族の治癒術士は、狼耳をピクリと動かした。


「獣と血のニオイは、かすかに残っています。何かがいるのは間違いないと思うのですが……」

「物音がしないの?」


 アウラが問うた。ディーは首を傾げる。


「不思議です。奥から物音もしない」

「眠っているんじゃないのか?」


 シィラが冗談めかせば、ディーは肩をすくめた。


「イビキも聞こえてきません」

「ははっ」


 ネムとリーリエが笑った。アウラが「しぃー」と静かに、と仕草をする。


 そして奥に到着した。案外、すぐ到着してしまった。大人になったせいかな。こんなに道中短かったっけ、って思う。


「……聞こえないはずだ」


 俺は、ガキの頃と違う行き止まりになる最深部、その地面を見下ろした。


「こんなところに穴なんかなかった」


 ミノタウロスの姿はなかった。終着点であるはずの洞窟に、さらに地下へ下る道ができていた。


 シィラがため息をつく。


「ミノタウロスはこの下か?」

「たぶんな」


 俺は、斜面に従い、下へ降りた。何だこりゃあ。


「遺跡……ひょっとしてダンジョン?」


 石材の壁、床、天井。これらは地下遺跡を思わす造りとなっていた。アウラが苦笑する。


「さながら地下迷宮ね。そういえば、ミノタウロスはラビリンスの守護者って伝説があるけど、案外、今回のミノタウロス、ここから出てきたのかも」

「洞窟の地下に、こんなところがあるなんて……」


 地元勢である俺も、これは新発見だ。


 さて、困った。見たところ、今いるのは通路みたいだが、ここがどういう建造物で、どれくらいの広さなのか、まったく情報がない。


 壁に等間隔で松明が燃えていて、薄暗くはあるがある程度の視界は確保されている。すぐ行き止まりでそこにミノタウロスがいれば、今のメンツでも問題ないが、アウラが言ったようにここが迷宮だったりした場合、話は変わってくる。


「リーリエ、ちょっと待機組を呼んできてくれ」

「わかった!」


 フェアリーがネムから離れて、来た道を引き返す。


 もし迷宮だった場合、帰ってくるのが遅いとルカたちを心配させてしまうからな。連絡は欠かさず、思った時に行動するのが正しい。


 中途半端な察するだろう、大丈夫だろうが、災厄を招くこともあるのだ。


 待っている間、俺はアウラと今後を相談する。退治に来ている以上、ミノタウロスを見つけないといけない。


「迷宮なら、どれだけ長くても一本道。だけど迷路だと分岐が多くて迷子になる可能性がある」


 アウラは指摘した。


「まあ、ダンジョンだって言うなら、分岐も罠もあるでしょうけどね」

「ゾロゾロ人数を連れていくには通路は狭いし、迷路になっているようなら、グループ分けすると、合流とか面倒になるか?」

「下手したら、お互いを探して迷子になるかも」


 そうこうしているうちに、ルカたち待機組がやってきた。


「ミノタウロスはさらに奥にいるらしい。これから奥を探索する。ルカとファウナは突入組に加わってくれ。カイジン師匠、ここの確保と待機組の護衛をお願いできますか?」

『心得た。気を付けるのだぞ、ヴィゴよ』


 カイジン師匠、ベスティア、イラ、ニニヤ、マルモとゴムの分裂体に見送られ、俺たちは地下ダンジョンへと踏み出した。

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