第148話、Sランク冒険者


 王城を出て、リベルタのホームへ帰宅。いやあ、久しぶりだ。


 例の名無しさんのこともあるので、ロンキドさんも一緒である。リーリエとファウナは、初めてだが、ここが俺たちの家だ!


「ただいまー!」

「お帰りなさい、ヴィゴさん」


 エプロン姿のルカが迎えてくれた。そうしていると、若奥様だね。こんな奥様が欲しいなあ。


「どうも、ロンキドさん」

「やあ、ルカ。あの娘を引き取りにきた。……やはり名前がわからないと不便だな」


 ロンキドさんも首を捻っている。


 やがて、例のゴブリンの巣にいた少女っぽい顔の女性がルカとシィラに連れられてやってきた。


 ロンキドさんの家でお世話になるんだよ、と話したら、いまいちわからないという顔をされた。そのロンキドさんが手を差しだしたら、名無しさんは、ピタとシィラに抱きついた。


 これは……ひょっとして。


 この場にいた全員が察した。外に行きたくない、ここにいる――という子供がよく見せるサインだ。


 5人の子持ちであるロンキドさんにとって、その態度は誰よりも覚えがあったらしく、苦笑していた。


「参ったなこれは」


 懐かれているなあ、って予感はあったんだよ。うちのメンバー、優しいから。


「ヴィゴ……」


 シィラが困り顔ながら、何か言いたげな視線を向けてきた。名無しさんを引き離さず、説得する素振りもないのは、シィラもこの娘と離れたくないって考えているのかな……?


 名無しさんも俺を見る。うまく喋れないけれど、ここの決定権を俺が持っているのを本能的に察したのだろうか。


 ルカとアウラは何も言わずに見守っている。こういう時、『あなたは、ロンキドさんの家に行くのよ』とか言い聞かせたりするものだと思うんだけど、言わないってことは、『リベルタ』で面倒を見てもいいって解釈でよろしいか?


「ルカ、全員をここに呼んでくれ」

「全員ですか?」

「ベスティアとゴム以外」

「わかりました」


 ルカが玄関から奥に戻った。待っている間、俺はロンキドさんやアウラに言った。


「まあ、いいんじゃないですか。うちで引き取っても」


 名無しさんは相変わらずシィラにベッタリで、シィラもまた名無しさんの髪を撫でて落ち着かせている。


 やがて、ニニヤやディーたちが集まった。


「名無しさんが、ここに残りたいという意思表示を示している。誰か反対の者はいるか?」


 イラやマルモが周囲を見回す。誰も反対を口にしなかった。


「なら決まりだ。この名無しさんは、当面俺たちリベルタで面倒を見る。皆、集まってくれてありがとう。部屋に戻っていいよ」


 俺が解散を告げると、それぞれの作業なり部屋なりに戻った。俺はシィラに名無しさんを連れていってと、ジェスチャーを送った。


 部屋に戻るとなって、ようやく名無しさんはシィラから体を離してついていった。


 俺は、ロンキドさんと顔を見合わせる。


「彼女はうちで面倒を見ます」

「すまないな。面倒をかける」

「なに、ひとり増えたところで大したことは。……懐かれてしまったみたいですし」


 本人がそうしたいというなら、そうしてあげよう。身寄りについて、手掛かりがないし、彼女が頼れるものが他になさそうだし。


 ということで、名無しさんが、リベルタのホームに住むことになった。



  ・  ・  ・



 王都カルムに戻って3日後、俺は正式にSランク冒険者になった。


 王城前広場にて、国王陛下出席の式典が行われ、俺のSランク昇格と、神聖騎士の称号を授与された。


 ダンジョンスタンピードに立ち向かい撃退に貢献、さらにノルドチッタ救援、ドローレダンジョンの攻略の功績を讃えるためだ。


 ここ最近暗い話が多かった王都の民は、新たな英雄の誕生を歓迎した……と、自分で英雄とか言うのはムズムズするな。


 他にも、リベルタメンバーや戦果目覚ましい活躍をした冒険者や騎士たちも表彰されたが、メインはやはり神聖剣オラクルセイバーを持つ俺だった。国王陛下の演説の後、神聖剣を王都民の前で掲げてみせるというポーズは、俺個人としては二度とやらねえぞ、と思った。


 式典の後、冒険者ギルドに場所を移して、改めてギルドフロアで俺の冒険者ランク昇格の儀式をやった。


「ヴィゴ・コンタ・ディーノ。お前を王都カルム冒険者ギルドと、ウルラート国王陛下の名において、Sランク冒険者とする。……おめでとう」

「ありがとうございます!」


 ロンキドさんの手から、Sランク冒険者の証であるミスリルと金の冒険者票を受け取る。これが……Sランクの。憧れだったそれが俺の手にある。ネックレスになっているので、さっそくつける。……やったぜ!


「おめでとうございますー!」

「おめでとう!」


 ルカ、シィラが声をあげれば、ディーやマルモ、イラが拍手しながら『おめでとうございます』コール。


「おめでとう、ヴィゴォ!」


 クレイら顔なじみなどの集まった冒険者たちから盛大な拍手をもらった。ギルドの職員たち、受付嬢たちも俺の昇格を祝福してくれた。


 冒険者になったからには一度は憧れるSランク冒険者に、俺はついになったのだ! 持てるスキルに魔剣。その後、色々あって、ついには聖剣を手に入れ、試練を受けてそれを乗り越えた。本当、少し前までの俺では考えられない。


 ……それにしても、ギルドフロアにいる冒険者の数が、全体的に寂しい。普段はもっと人がいて、猥雑で、賑やかなのだが……。


 邪甲獣騒動や、今回のドローレダンジョン調査などで、冒険者の死傷者がそれなりに出た。東のラーメ侯爵領にかなりの人数出ているからか、いまじゃ昨日今日冒険者になった新人も多い印象を受ける。


 ロンキドさんが言った。


「今後は新人たちに助言したり、場合によっては指導する立場になる。Sランク冒険者はそれも仕事のうちだ」


 もちろん、本業の冒険者業が優先ではある。だが後進の育成にも時々お手伝いすることになるらしい。大事だよな、そういうのも。


 ささやかな昇格の儀式の後、クレイら馴染みの連中から酒に誘われ、その場は大いに祝った。新人冒険者が、俺に顔を覚えてもらおうと声を掛けてきたりした。


 先輩冒険者たちが絡んでくるので、挨拶くらいしかできなかったみたいだけど、俺がSランク冒険者だからか、やたらと目をキラキラさせて握手を求めてきたりした。……ついこの間まで、俺もロンキドさんに一対一で会ったらそんな目をしていたんじゃないかと思って、ちょっとこそばやくなった。


「おおーい、小僧っ子ばかりじゃなくて、女の子も来ていいんだぞォ!」


 酔っているのか、クレイが、先ほどから俺に寄ってくる冒険者が男ばかりなのに気を使うような絡みをした。すると馴染みの冒険者が言う。


「相変わらず、女にはモテないな、ヴィゴ」

「いんや、こいつのクランは美女揃いだからな。……お前、楽しんでるんだろ?」

「おい、お前ら――」


 そんな楽しんでなんて――


「いいよなぁ! ――我らがヴィゴ様に乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 こいつらノリと勢いでウザ絡みして流しやがった。とりあえず、俺も飲んだ。いっぱい飲んだ。

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