第147話、神聖剣の勇者


 シンセロ大臣との会談では、まずドローレダンジョンのゴブリンキングの撃破が報告された。


 そしてそのキングが保有していた魔剣を討ち、ダイ様が新たな力を得たことを説明する。


「見よ! これが新しい我だ!」


 ダイ様が部屋の一角を往復してみせた。しかし、シンセロ大臣には、服装の色以外に変化がわからず、首を傾げられてしまった。


「自力で移動できるようになったのだ! わかるだろうに!」


 以前も人型形態を、大臣の前で現したダイ様。その時も一応、周囲には歩いたり何かをしているように見えていたから、パッと見で違いがわからないのは無理もない。剣の姿で浮遊してみせれば一発だったのにな。


 魔剣のパワーアップの次は、神聖剣オラクルセイバーの話。俺が聖剣使いになることだ――という風に前回の会談ではなっていたが、マルテディ家のラパス老人から聖剣の試練を受け、物にしたことを報告した。


 ただ、聖剣が、神聖剣となってしまったが。


「初めまして、わらわはオラクルセイバー。剣神ラーマの加護を受けし、神聖剣じゃ」

「神聖剣……っ!?」


 予想通りというべきか、シンセロ大臣は思わず椅子をずらすほどの衝撃を受けたようだった。


「それは伝説の勇者の持つ剣――!? ヴィゴ殿は、勇者だった!?」


 勇者って……。おいおい、大臣。話が大き過ぎやしませんか? 勇者ってあれでしょ。聖剣を携えて、魔王とか、世界を滅ぼす邪竜を倒したとかいう……。


「……ヴィゴ様は、神聖剣を持つ世界の守護者様にございます」


 ずっと黙っていたファウナが唐突に口を開いた。エルフの姫巫女が語るところは、世界に混沌に陥れようとする敵を祓う、神の加護を持った戦士が世界の守護者なのだという。……大雑把な感想、勇者とさほど変わらない気がするけど。


「神託の剣を携えているのは間違いないのぅ」


 オラクルはニンマリしながら言うのだ。シンセロ大臣は驚喜した。


「これは、国王陛下にご報告せねば! 我らのウルラート王国に勇者が現れた!」


 神聖剣が凄いのは認めるけど、俺は俺だ。勇者とか守護者とか言われても、いまいちピンとこない。持てるスキルのおかげってのは大部分が占めているし、そもそも俺自身それ以外で何か変わったわけでもない。


 ただまあ、剣の神様から御神託をいただいてしまっているので、世界に混沌をもたらすような敵とは戦うことになるとは思う。


「今のところ、そういう混沌と言えるのは――東のラーメ侯爵領の問題ですかね」


 俺が言えば、シンセロ大臣は頷いた。


「うむ。今頃、討伐軍も現地に着いて戦っておるだろう。聖剣使いもいるのだ。我々としては魔物が滅ぶのを祈るだけ。吉報を待っているが、もしものことがあれば、ヴィゴ殿――」


 東領の敵を排除してほしい、ということでしょう? 最後まで言わなくてもわかるので、頷いておく。


 その後、ダンジョンスタンピードの撃退と、ドローレダンジョンの制圧、それとノルドチッタ救援の報酬が王国から支払われることが告げられ、ロンキドさんがその打ち合わせをした。


 この辺りは俺たちいなくてもいいんじゃないかな、と思いつつ、クランメンバーへの報酬もあるのでそこはしっかり聞いた。


「――それで、ロンキド殿。ヴィゴ殿の件だが、陛下にもご報告するが、おそらく彼をSランク冒険者へ昇格させようという話になると思うが」

「至極、妥当な話です」


 きっぱりとロンキドさんが認めた。……え、聞き違いか? Sランクって言った? 俺がSランク冒険者に? マジで!?


「彼はここまで国の危機を救い、多くの人命を救いました。貢献度を考えても、冒険者でなければ聖騎士の称号を与えても遜色のない働きを見せています。冒険者ギルドとしましても、ヴィゴのSランクへの昇格は賛同いたします」


 Sランク……俺が? 夢じゃないか? 


「おめでとう、ヴィゴ!」


 アウラが肘で、俺を小突いた。ファウナも静かに頭を下げる。


「おめでとうございます、守護者様」

「なんか、よくわかんないけど、おめでとー」


 どこにいたのか、リーリエが唐突に現れて俺の肩に乗った。


「いや……あー、うん。ありがとう……」


 何というか、凄く照れくさいというか。Sランク冒険者を目指して頑張ってきたけど、まさか本当にそうなる日がこうも早く来るとは思わなくて……困っちゃうな。


「なんだ、お主、照れておるのか?」

「主様は初々しいのぅ」


 魔剣と神聖剣がニヤニヤしながら言った。うるせいやい、慣れてねえんだよ、こういうのはさ!



  ・  ・  ・



 シンセロ大臣が国王に報告する間、待てと言われた。


 俺は大臣の執務室でしばし、ロンキドさんお話。Sランク冒険者になったら云々、ロンキドさんの娘であるニニヤの成長について云々、魔剣と神聖剣について云々……。


 それと新しい仲間である、リーリエとファウナの件についても。特にエルフの姫巫女については、ロンキドさんも興味津々だった。


「美人だな」

「ええ」


 エルフは美男美女ばかりでしたよ。 


 やがて大臣が戻ってきた。だが何とウルラート国王陛下まで一緒にきた! 


 って、ええーっ!? 本当なら、こっちから行かなければいけない立場なのに、きちゃったよ、王様。


 儀礼も儀式も不要、と国王陛下は言った。


「正式に呼びつけてしまうと、話もできぬからな。ヴィゴ君、今回の君の働きには、国王として礼を言わせてくれ。本当にありがとう」


 い、いえ、こちらこそ――シンセロ大臣以外の臣下がいないせいか、陛下は俺のような冒険者風情にもお礼を言うのに遠慮しなかった。これが何らかの式の場だったら、周囲からどよめきが上がったことだろう。


 正直、俺もアウラも面食らったけどね。その後、神聖剣をご覧になりたいというので、披露した。ウルラート陛下も興味深く神託の剣をその目で確認されていた。


「ありがとう、ヴィゴ君。この目で神聖剣を見ることができようとは……。それと、君のSランク冒険者昇格の件は、私も賛成だ。それと、君も聖剣使い、いや神聖剣使いなのだから、聖騎士……神聖騎士の称号になるのかな。その称号を授与しようと思う」


 おめでとう、と言うウルラート国王。


「あ、ありがとうございます……」


 神聖騎士の称号。これはもちろん、名誉なことだろう。聖騎士は、国から色々と優遇される。それだけの資格や功績があればこそであるが、俺もこの国から認められる存在になったということだ。


 こんな日がくるなんて、本当思ってなかった……!

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