第138話、小妖精の知恵


 妖精の籠の中から仲間たちの救助をするという目的も果たされているので、エルフの集落を出たら、領主町ラゴーラまで戻る。


 まさか、エルフとフェアリーが増えるとは思わなかった。


 森を抜けたら、領主町までダイ様の闇鳥に乗って帰ろうと思ったけど、出せるのは最大7羽。フェアリーは小さいので気にならないが、他は相乗りしても結構きついものがある。

 ただ、それは意外な形で解決した。


 妖精の籠である。この魔道具の中に、何人か入ればダークバードを使う人を減らせるわけだ。最悪、クランの誰かひとりが闇鳥で移動。残りは魔道具の中でのんびり、ということもできる。


 フェアリーのリーリエが出口を設置してくれたおかげで、出入りは自由にできるようになった。 


「この妖精の籠の中に、第二のホームを作るわ!」


 アウラがそんなことを言い出した。


 彼女はダイ様の収納庫で運んでもらっていた本体、ドリアードの木を、妖精の籠の中に移動させた。


 妖精の籠は携帯性に優れ、その大きさもベルトから下げる小物くらいにまで小さくできる。俺しか動かせない魔剣に比べれば、アウラの移動範囲は格段に上がるのだ。


「遠征に出た時に野営とかで場所とかテントとか手間がかかるけど、この妖精の籠なら家ごと移動できるようなものだし!」


 前々から野営用の組み立て式建物を作ろうとしていたアウラである。そのメリットについて俺たちも承知しているから反対はなかった。


 かくて、俺とダイ様、ルカ、ベスティアがそれぞれ闇鳥でラゴーラに移動している間、アウラはマルモや残りメンバーと妖精の籠の中で、魔道具内の土地の有効活用を模索した。


 なお、その間、好奇心が疼くのか、リーリエが魔道具の外と中を行ったり来たりしていた。


 飛んでいる最中にフッと出てくるのは危なくないか?


「気をつけないと飛ばされちまうぞ?」

「だーいじょうぶ! あーしは、ヴィゴに定着の魔法を描いたから、飛ばされてもすぐ戻ってこれるわよ」


 リーリエは俺の肩にしがみつく。


「定着……? 俺に描いた?」


 いつの間に――。なお定着の魔法とは、一瞬の転移魔法で、リーリエが移動したいと思った瞬間、どこにいても定着の魔法を刻んだ場所へ瞬間移動できるという。


「あれ? でもそういうことができるなら、フェアリーって捕まることはないのでは……?」

「誰でもできるわけじゃないんだな、これが」


 フフン、と腕組みしながらリーリエは得意げになる。


「妖精狩りに捕まった時に自力で脱出できるよう、あれこれ試行錯誤を繰り返してようやく完成させたオリジナルなのよ! どう? 凄いっしょ!?」

「ああ、凄いな」


 俺が素直に認めたら、さらにリーリエが得意満面になる。


 人間の町や王都へ行ったら悪党なんかに狙われるんじゃないかって、心配していたんだけど、たとえ捕まっても、瞬時に俺のもとに戻れるなら、まずは一安心かな。


 こういう自分の身を守る対策を編み出しているんだから、森の外に出たい、っていうのも行き当たりばったりではなく、入念に準備していたのかもしれないな。


 フェアリーはお子様なんてアウラは言っていたけど、これで割と強かなんじゃないかな。


 ともあれ、俺たちはマルテディ領の領主町ラゴーラに到着するのだった。



  ・  ・  ・



 ヴォロンタ城に着いた俺は、マルテディ侯爵と面会した。


 クーラの森で、妖精と接触し、仲間たちを魔道具から出すことができたこと、妖精狩りの連中を討伐したこと、そしてエルフたちから神聖剣の守護者などと言われたことなどを諸々報告した。


「神聖剣の守護者……」


 マルテディ侯爵は意外な顔をした。


「聖剣使いの中でも特に優れた者は、聖剣の勇者などと言われることもあるが……。エルフたちは、神聖剣の使い手を守護者と呼ぶのか。興味深い」

「……」

「神託の剣……。ヴィゴ殿は、神に選ばれた戦士なのかもしれない」


 そんな大げさな……。大したことをするつもりもないですけど。


「それで、妖精狩りの件ですが……」

「コルヴォだったな。前々から粗暴な行動が通報されていた連中だ。フェアリー狩りに加え、エルフ集落まで襲ったとなれば放置するわけにはいかない。連中のホームに踏み込み、マルテディの名に掛けて残っている者すべてを捕らえ裁きにかけよう」

「よろしくお願いいたします」


 それで何ですがね……、ひとつ相談があるんですが。


「マルテディ侯爵領では、妖精狩りは罪に問われると聞いていますが、妖精の方からついてきた場合は問題ないでしょうか?」

「ん? 妖精が自分からついてきた場合とな?」


 侯爵は、わずかに眉をひそめた。俺の後ろから、ひょっこりリーリエが顔を覗かせる。


「おお、フェアリーか」

「森の外に出たいと、俺たちについてきたんです。どれくらい一緒にいるかはわからないですが、彼女が望むならクランにも加えようかな、と」


 そうすることで、余所から連れ去りやトラブルの可能性を減らせるかな、と思って。クラン所属メンバーに手を出したら、そのクランから報復されても文句言えないからな。保護の観点からもそうできれば理想だけど。


「双方合意のもとで、一緒にいるのなら、我々は口出ししないよ、ヴィゴ殿。むろん罪に問われない。もちろん誘拐したのでなければ……。それはなさそうだな、貴殿に限って」


 リーリエが俺の頭の上にあぐらをかいた。……自由過ぎない?


「ただ、フェアリーはイタズラ好きと聞く。周りに被害が出ないように、しっかり管理しておいてくれ」


 マルテディ侯爵は注意はした。


 その後、エルフ集落の様子やクーラの森のことを少々雑談した後、侯爵は言った。


「悪党退治、ご苦労だった。その分の報酬はきちんと出させてもらうよ。……それで、貴殿らはこれからどうする? しばらく、ラゴーラにいるのかね?」

「いえ、王都へ戻ります。シンセロ大臣に、聖剣の試練の件を報告しないといけませんし」


 昨今の魔王の力などの脅威が増大した結果、俺の聖剣使いの熟練度合いなどは、国防の意味でも関心が高いだろう。国王陛下も、そのあたり気にされているかもしれない。


「そうか、そうだな。魔王が再び復活などあってはならないことだ。その下で蠢く者どもにも注意を払わねばなるまい」


 マルテディ侯爵は頷いた。


「名残惜しいが、まあ元気で。貴殿の今後の活躍、期待しているよ」

「ありがとうございます、侯爵閣下」


 俺とマルテディ侯爵は握手を交わした。リーリエが真似して手を差し出したら、さすがの侯爵も困り顔になりつつも、人差し指を差し出してフェアリーと握手していた。……何で、ドヤ顔してるのリーリエ。


 やってやったぜ、って顔をする小妖精さんだった。

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