第103話、獣という名の黒騎士


「――ドワーフ古文によると、これは『ベスティア』というらしいです!」


 マルモが発見された書物を手に、漆黒の鎧を見た。


『獣』と名付けられた黒騎士。


「中は、ゴーレムのコアを元に組み上げられた人工魂を搭載したマシンドール――マシンドールっ!? これが伝説のっ? すごいっ!」


 何やらドワーフ娘が興奮していらっしゃる。何か凄いものらしい。俺はアウラを見た。


「マシンドールって知ってる?」

「何でワタシに聞くのよ?」

「アウラさんは物知りだから」

「ドールというからには、人形なのでしょう? マルモに聞きなさいよ」

「マシンドールっていうのはぁっ!」


 マルモのテンションが高い。


「古代ドワーフの伝説にある、人体を模した精巧な自動人形のことです! 金属やら魔法素材やらをぶちこんで、人工的な、人型機械ですね」

「自動で動く人形か」


 それって――ニニヤが手を挙げた。


「ゴーレムとは違うのですか?」

「ゴーレムとは違います!」


 きっぱりとマルモは言った。


「ゴーレムは主の命令に従いますが、基本的には単純作業、単純労働しかこなせません。それに対して自動人形は、主の要求する高度な命令にも従える知能があるんです!」


 つまり!――漆黒の鎧の前でマルモは謎ポーズを取った。


「金属ではできていますが、人間と同様のことができる人工人間なのです!」

「究極のゴーレムみたいなものかしらね」


 アウラが言うと、マルモは眉をひそめる。


「ゴーレムじゃありませんって!」

「やろうとしていることは同じよ。やり方や形が違うだけで、ゴーレム使いたちも、究極的には人間の相棒にできるくらいの思考力を持たせたいと思っているし」


 ふうん……。俺は漆黒の鎧こと黒騎士、ベスティアを見た。


「そういうことらしいが、そうなのか? えーと、ベスティア?」

『記録しました』


 ……記録って何を?


『ご命令を、我が主』

「……マルモ」

「ヴィゴさんのことを、主と認定していますね。おめでとうございます」

「何が?」

「このベスティアは、主であるヴィゴさんの忠実な部下となったんです! どんな命令も確実に実行します!」

「どんな命令でも?」


 はい!――とマルモは力強く頷いた。


「自害しろ、と命令すれば、一切の躊躇いなく自分を破壊します――と、こちらに書いてあります」


 昔のドワーフが残した書物を差しながらマルモは言う。


「基本、命令は絶対なので軽はずみな命令は避けるべし、と注意書きがあります。要するにですね……」


 よくわからないという顔をしているシィラやルカたちを見ながら。


「冗談がまったく通じないタイプということです。たとえば、とある偉い人に腹がたち、ぶん殴りたいと思ったとします――」


 ベスティアが『殴ってきましょうか?』と言った時、冗談で『お、そうだな』なんて言った最後、ベスティアはそれが王様だろうが、魔王だろうが、あなたの恋人だろうが子供だろうが殴りにいく。


「普通なら冗談だとわかるだろう、ということがわかりません。察しろ的なものや、その場の空気が読めないんです。口頭での命令、言葉がすべてなんです。お分かりいただけましたか?」

「高度な知能とはいったい……」


 アウラが苦笑する。


「でもまあ、俺は何となくわかったよ」


 昔いたな。そういう察する力がなさ過ぎて無神経なこと言ったり、行動したりするやつ。まあ、今でも探せばそういうのいると思う。


「ベスティアはどうしようか。目覚めてしまった以上、ここにこのままってわけにもいかないんじゃないか?」

「必ずしも連れ帰る必要はないんじゃないかしら?」


 アウラは腕を組む。


「あなたが面倒なら、ベスティアに『ここで眠っていろ』と命じれば、ここでずっと眠っているわよ」


 それはそうかもしれない。でもなあ、置いてくのも何だかなあ……。


 せっかく手に入れたのなら、有効活用したいと思う。こいつは邪甲ゴーレムの戦いを助けてくれたし、戦闘力もありそうだ。


 何やらきな臭いここ最近の世の中を見ていると、きっとこいつが活躍する日が来る予感がするんだ。


「マルモ、ベスティアを外に出して問題はあるか?」

「資料を見たところ、命令に注意する以外とくに注意書きはないですね。危険な有害物質をまき散らすとか、魔物を引き寄せるとかそういうのはなさそうです」


 ペラペラと書物のページをめくるマルモ。


「これを作った古代ドワーフたちによれば、復活した魔王の護衛に使うつもりだったみたいです」

「じゃあ、決まりだ。連れていこう。何より、こいつは格好いいからな」


 男心をくすぐるというか、気に入った。



  ・  ・  ・



 マシンドール『ベスティア』を手に入れた。神殿最深部を調査した結果、ベスティアは試作の第一号らしく、組み上げ途中で放棄された二号を発見。さらに三号以降のものかわからないが予備のパーツも回収した。


 戦闘した邪甲ゴーレムの残骸も、ダイ様の収納庫にしまい、宝物庫にため込まれているものも集めた。


 これは魔王復活という悪事を働いたドワーフの神殿だったわけだが、テリトリー的にはドワーフだから、ペルセランデのドワーフたちにここの扱いも含めて戦利品の相談をしよう。


 探索ののち、俺たちは神殿地下から上へ戻り、アンジャ神殿を脱出した。


 そのままペルセランデに戻ったら、深夜ということもあって、とってあった宿に泊まる。

 寝そびれていたから、ベッドに入ったらあっという間に眠れた。

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