第91話、ペルセランデ名物、温泉


 ブラッド・グレイは、ここ数日、ペルセランデのドワーフたちを騒がしていたジャイアントだったそうだ。


 本来は、洞窟前の野営地にはドワーフの戦士が警備についていたのだが、あの灰色髪のジャイアントが野営地を襲い、ドワーフと取引のあった商人一行と警備のドワーフを殺害したらしい。


 行方不明者がいたため、数名のドワーフ戦士が、血染めの灰色髪のジャイアント――ブラッド・グレイと名付けたそれを追跡したが、返り討ちにあったという。


 村長曰く。


「あのまま、あの辺りをうろつかれると、王都方面との交易が滞ることになっておったじゃろう。よく倒してくださった!」


 遅かれ早かれ、王都の冒険者ギルドに、ブラッド・グレイの討伐依頼が出ただろうな。まあ、早期に問題が取り除かれたのだ。よかった、としておこう。


 フェッロの言うとおり、ブラッド・グレイ討伐の臨時報酬を受け取った俺たちだが、さてどうしようか。


 せっかく、腕利きの職人が多いドワーフの集落にきたのだ。店で武具やアクセサリーなどを見たり、少々観光してもいいだろう。


「それなら、ペルセランデ名物の温泉は如何ですかな?」


 ペルセランデの村長は、そのふさふさのアゴヒゲを撫でながら言った。


「ここに立ち寄ったなら、一度は入らねば損というもの。外からの商人や旅人も利用しておりましてな、初めての方も安心ですじゃ。ぜひに」


 現地の方よりお勧めを受けた。疲労が取れて、肌や健康にもいいらしい。温泉……要するに風呂だよな。


「皆はどう思う?」

「いいですね、温泉!」


 ルカがノリノリで答えれば、シィラも腰に手を当てた。


「温泉か。……ああ、悪くない」

「いいと思います」


 イラも同意した。反対意見は出なかったので、村長に教えてもらった温泉宿へと向かった。



  ・  ・  ・



 温泉は村の入り口からトンネル潜った先にあるので、ペルセランデにやってきた時は見えなかった。


 だが、ひとつ潜れば、現地建物近くから湯気が立ちのぼっていた。かすかに熱気を感じるね。


 温泉のついでに宿に一泊する。無骨な岩の建物だ。こいつ悪いスライムじゃないけど、大丈夫? 宿のドワーフからは、室内のもの溶かしたり、無闇に触れなければよし、と許可が出た。


 よかった。駄目だったら、温泉だけ入って寝泊まりは別のところになるとこだった。アウラが部屋を3部屋取ったが、さて、どんな部屋割りになるのか?

 男は俺だけだから、ゴムは俺んところに来るだろう。あとの6人で2部屋か?


「よろしくお願いします」

「……おう」


 何故か、ディーが俺の部屋と同室になった。あとはルカとシィラで1部屋、アウラ、イラ、ニニヤで1部屋となった。


「あたしは、ヴィゴと同じ部屋でもいいぞ」

「ダメですぅ」


 シィラが俺と同じ部屋を狙うような素振りを見せたが、お姉ちゃんは許しませんとばかりにきっちりガードしていた。


 細かいことは気にしないシィラと、きっちりしているルカ、というところか。


 さて、荷物を置いて、いざ温泉に向かうが――


「なあ、ディー。女湯はそっちみたいだぞ」

「……ボク、男の子なんですけど」


 ディーが少々拗ねたように言った。……は? はあっ!?


「男……!? 男っ……?」

「……」


 俺、ずっとディーのこと、女の子だって思ってたんだけど! 体つきは華奢だし、胸は平坦だなーとは思っていた。でも顔つきは女の子っぽかったし、声も……。


「そうだったのか……。すまん」


 誤解していた。そのころは詫びる。申し訳ない。……しかし、ここまで可憐な男の子がいるのか? いやいない。


 脱衣所に移動する。ディーは迷うことなく、男性用脱衣所へ入った。本人が男というから、これは問題ないはずなのだが……。


「あの……あまり見ないでくれます?」

「あ、ああ、すまない」


 俺は適当なカゴに向き直り、ディーに背を向けた。いやいや、男同士なら、別に目を逸らすことはないのでは? でも本人が見られるのを嫌がっているなら、そこは尊重するものだろう。


 まさか男の子と思い込んでいるだけで本当は女の子だって可能性も……。


 あれだ、右腕に呪いがあるから、それをあまり晒したくないかもしれないじゃないか! 人に見せたくない傷とかって話はよく聞くし。……そういえば、あの腕で温泉入っても大丈夫なのかな?


 それはそれとして、俺も服を脱ぐか。えーと、カゴに何か入ってるな。壁にも注意書きがある。


 なになに、温泉は裸で入るもの。ただし肌を晒すことに抵抗のある人種は、水着があるので、そちらをどうぞ? ……なお、着用の場合は専用の湯のほうへどうぞ。


 確かに、王都カルムの公衆浴場は、下着ありが普通だからな。俺ら人間が丸裸で入るのは家の風呂くらいで、こういう場は基本着衣ありだ。


 ドワーフってのは、公衆の場でも風呂はスッポンポンなんだな。俺は水着パンツだけ着けて、いざ温泉浴場へ。


「……ガッツリ、ガードしてんな」

「なんです?」


 ディーは胸もお腹も一体になっている水着でガード。腕も黒スライム袋でカバーしている。露出面を減らすことで、腕のカバーを目立たない配慮だろうか。


 しかし、これでは男か女かわから……いや、それ以上はよくない。


 ということで、着衣あり風呂の方。ここ数日、外からの旅人が来ていないということで、温泉は貸し切りのような感じになっていた。


 なお、隣の完全裸用の温泉のほうでは、ドワーフ男たちの野太い笑い声が聞こえてきた。あっちはお湯だけじゃなく、別の意味で暑苦しそうだ。


「ヴィゴさん、あっちで体流してから入るみたいですよ!」


 ディーのテンションが少し高いのは気のせいかな? こっちはこっちで落ち着かないな。水着のせいもあるけど、女の子と一緒にいるみたいな気持ちになってくる。


 ……とりあえず、白狼族だから当たり前なんだけど、尻尾、あるんだな。ふりふりお尻の上で揺れてる。


 というかその支給の水着、背中んところ開いてるのな。獣人用、なのか?

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