第54話、王都カルム炎上


 突然の爆発音。それが複数連続で起きた。家にいた俺は、どこで爆発があったのか見るために三階に上がった。


「うわ……」


 複数カ所で煙が上がっている。ひとつだけなら、何かの事故の線もあったが、同時複数となれば、明らかに人為的なものだ。


「奴らが動きだしたか!?」

「あの、白狼族を襲った敵ですか?」


 俺と同じく三階にきたルカが言った。


 白狼の魂――魔王の欠片を狙って暗躍する謎の敵。確証はない。だが――


「周囲の目を引きつける囮かもしれない。敵が来るかもしれないから、準備しろ!」


 俺は魔剣と防具をとり、ルカ、イラもそれぞれ装備を身につける。見ればヴァレさんとモニヤさん、ニニヤも戦う準備をしている。


 魔法で瞬時に装備を変えられるアウラは、俺たちが準備する間も王都の様子を眺める。


「敵だとして、来るのはロンキドのいる冒険者ギルド? それともこっちかしら?」

「敵が情報を知っているとして、普通に考えれば王城だろうけど」

「城に忍び込むにしては、騒ぎが大き過ぎないかしら? でも守備隊を引っ張り出すには、まだ弱いような……」

「ねえ、あれって――」


 モニヤさんが窓から、王都のとある一角を指さした。


「あの煙、冒険者ギルドじゃない?」

「嘘!?」


 ヴァレさんも窓へと移動する。


「もしかして、あの人が狙われた!?」

「ピンポイントで狙うなら、冒険者ギルドの他で爆発は起きないわよ」


 アウラが突っ込んだ。


「ギルドがやられたとしたら冒険者の足止めでしょうね。まだ敵は何かやろうとしているわよ」


 冒険者の行動を制限するために、ギルド本部を攻撃する。これを見たら、冒険者たちはまずギルドがどうなったか確認しようと集まるはず。


 これから王都で何か起きても、冒険者たちの初動は遅れるだろう。どうする? これが陽動で、敵が動くとしたら王城の可能性が高いが……。


「――大丈夫よ、ディー」


 後ろでルカの声がしたので振り返れば、彼女は膝をついて、ディーの頭を撫でていた。敵と聞いて、ディーが仲間を失った記憶を思い出してしまったのかもしれない。


「どうします、ルシエール師匠?」


 ヴァレさんが、アウラを見た。


「ギルドへ様子を見に行きますか?」


 ご夫人方は旦那であるロンキドさんが心配なのだろう。……ん?


 玄関で音がしたので見下ろせば、ニニヤが飛び出すのが見えた。


「ニニヤ!?」

「あのコ!?」


 モニヤさんとヴァレさんは驚く。


「まさかギルドと聞いて……」


 父親の安否を確認しようと思ったのか。……しょうがない!


「俺が追いかける。ついでにギルドの様子を見てくる。皆はここで待機してくれ」


 俺は魔剣を手に、窓枠を蹴って外に飛び出した。マリーさんからもらったばかりのダッシュブーツの威力の見せどころだ。……って、勢いこんで出てきたけど、これ着地大丈夫!?


 三階から飛び降りて着地! ……おおっ、衝撃ほとんどなし。勢いで飛び出してきたけど、これ俺もニニヤのこと言えないな。


 そのニニヤを追って俺は走る。ええっと、つま先に力を入れて踏み出す――っと、加速の魔法が掛かったように、前方へダッシュした。こりゃ走るより速いわ。


 あっという間に、ニニヤに追いついた。


「ニニヤ!」

「……ヴィゴさん!?」

「掴まれ」


 俺は追いつきざまに、左手でニニヤを掴んで持った。


「このままギルドまで行くぞ!」


 ダッシュブーツでさらにダッシュ! だが、正面の通りから住民が飛び出し、俺の加速は中断を余儀なくされる。


 住民の後ろから、黒い毛並みの狼が複数現れる。


「ブラッディウルフ!? なんで、王都に!?」


 確かにCランク相当の魔獣だ。人肉も喰らう危険な魔獣だが、王都の中にいるようなものではない。


 ニニヤを置いて、俺は魔剣を抜く。


「下がっていろ、ニニヤ!」


 こいつらは思ったより動きが速い。俺のほうへ3頭が迫る。牙を光らせ、赤い目をした大柄の黒狼。


 真っ直ぐ突っ込んできたブラッディウルフを、まずは魔剣で一太刀。まるで紙を切るように1頭を血祭り。一撃で倒せるのはありがたい。さすが魔剣。


 続いて右に回り込んだ黒狼を返す一閃で切りつける。とっさに刃を察して回避しようとしたブラッディウルフだが、避けきれずその両目あたりを切りつけた。


 のたうつブラッディウルフだが、それよりもニニヤの悲鳴に俺は振り返る。もう1頭が彼女に迫ったのだ。


 初めて目にした魔獣に、きっと頭の中は真っ白になってしまったのだろう。呆然と立ちすくむニニヤ。


 その時、アウラが飛んできてブラッディウルフの額に飛び蹴りをぶちかました。足裏が尖っていたのか、黒狼は額から血を撒き散らながら吹っ飛んだ。


「やっと追いついた。……大丈夫? ニニヤちゃん」

「あ、アウラ、さん……?」


 呆然とするニニヤ。それは俺も同じだ。


「なんで、ここにアウラが?」

「忘れたの? あなたの魔剣にワタシの本体があるから、貴方から一定範囲、離れられないの!」


 そうだった。今は魔剣が俺の手にあるから、当然アウラもセットになる。


「すまん、失念していた」

「いいのよ。それより、王都内に魔獣なんて、ただ事じゃないわね」

「ああ、連中が動き出したのかもしれない」


 だが、まさか王都住民を無差別に攻撃するとは……。


 至るところから、悲鳴や怒号、魔獣の咆哮が響いてくる。


「これは……かなりの数みたいだな」

「だとすると、事態の鎮圧のために、王城の警備隊も駆り出されるかもしれない」


 そして警備が少なくなったところを、敵が王城を襲撃する――面白くない事態だ。

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