第53話、家にいてもスキルアップはできる


 3日間、何事もなく過ぎた。


 ロンキドさんは冒険者ギルドに出勤をしていたが、そちらでも例の敵による攻撃などはなかった。……まあ、冒険者が多くいるギルドを襲うのはさすがに難しいだろう。


 俺たちは、家にいて、ロンキドさんのご夫人方や子供たちの警護をしつつ、訓練などで時間を使った。


 邪甲獣退治の報酬があるから、当面稼がなくても余裕で食べていけるから、まだまだ全然大丈夫なんだが、さすがに敵さんの攻撃がないということは、もうこっちは大丈夫なんじゃないかと思う。


 油断してはいけないんだろうけど、白狼の魂を狙っている敵は、こっちではなく王城を狙っているんじゃないか?


 さて、それはそれとして、いま俺たちの家では、経験豊富な熟練者が多く、その知識や経験を学ぶ環境として非常に整っていた。


 俺は、モニヤさんから、治癒魔法を教わり初歩的ながらヒールを習得した。


 また、他人の使った治癒魔法を『持って』それを別の誰かに届けるという技も身につけた。


 これはヒールや解毒魔法であるキュアなど、術者の手から魔力を光に変えて、治療したい相手に当てるという特性上、持てるスキルでその光を持つことが可能という、俺のユニーク能力がなせる技となる。


 ……まあ、正直、あまり使い勝手はよくないけどな。普通に術者が直接使ってかけた方が早いし。


 なお、俺の治癒魔法の練習には、イラが協力してくれた。きっかけは、モニヤさんの発言。


「実際に怪我していると、ちゃんと治癒しているかわかりやすいのだけれど……」

「あ、それでしたら、わたし、怪我人やりまーす!」


 そこでイラが自らナイフで自傷した時はビビったけどな。『お前、何してんの!?』ってなったもん。


 最初は俺も慌てながらヒールを使うことになった。そんなことをやっていると、ニニヤに魔法指導していたアウラが乗っかってきた。


「ワタシも試したいことあるから、標的役、お願いできる?」


 イラが自らの肌にナイフで切りつけなくてもよくなったとはいえ、それはそれで酷い。


「アウラさんって、こういうところがあるから。私も過去、何度実験の的にされたヴァレを治療したことか……」


 モニヤさんが青い顔をしつつも諦めたような顔になる。モニヤさんは教会の元プリーステスだ。……なるほど、ヴァレさんがアウラを見てぶっ倒れるわけだ。弟子を何だと思っているのだ、この師匠は!


 でもよくよく考えたら、そのヴァレさんも、俺相手にテストと称して魔法ぶつけてきたよな……。そういうところは弟子も受け継いでいたらしい。


 それはさておき、酷いといえば酷いが、アウラは苦痛を与えるのが目的でないのは見ていればわかったので、イラも了承したのなら俺も言わなかった。


 治癒魔法のスペシャリストであるモニヤさんや、治癒術士であるディーも控えていたので、サポートはむしろ完備されていた。


 そうそう、ディーも、俺たちの訓練ではサポート要員として待機していた。練習中の怪我を見ると、すぐに駆けつける。白狼族って、狼の獣人なんだけど、犬みたいだった。彼女なりに周りに馴染もうとしているのかもしれない。前向きになれたのならいいんだけどな。


 ルカは、アウラの作った木のゴーレムを相手に、武器の訓練をしていた。弓を使った的当てから、剣を使った打撃などなど。


 最初はゴーレムがルカのパワーに耐えられずすぐにスクラップになった。


「すみません! また壊してしまいました!」

「いいのいいの。耐久テストにもなるから、ドンドン壊して」


 アウラは、むしろ喜んでいた。


 耐久性が増した人型木製ゴーレムや動物型木製ゴーレムを作っては、ルカに提供していた。


 そのアウラは、優れた魔術師になりたいというニニヤのコーチをしていた。


 ニニヤは、ヴァレさんから攻撃と補助魔法、実の母であるモニヤさんから治癒魔法と光属性魔法を教わった。操れる魔法の数は非常に多く、15歳ながら将来有望と思わせる逸材である。


 あと足りないのは実戦経験か。ヴァレさんの師匠であるアウラと一緒にいるうちに、自分の力を向上させようと熱心に訓練に取り組んでいた。


 だが、アウラは、魔法について教えはするものの、自身は別の方向に技を伸ばしていた。


 先のゴーレム作りもそうだが、東方に伝わる影の戦士であるシノビなるものを目指しているようだった。


『前世で、魔術師の高みに登ったからね。今度は戦士系もいいかなって』


 というのがアウラの弁である。


 彼女はドリアードとしての木や植物を操る力と、前世の魔法を組み合わせた新たな技の開発を行っていた。


 俺は、東方の国伝来のシノビとかいうのは、噂ほどしか知らないが、アウラは多少知識があるらしく、その戦い方は、なかなかユニークだった。


 しかしそうなると、後衛の魔術師枠がなぁ。


「魔術師は後ろにいるのは定番だけど、前で戦えるなら、それはそれでいいんじゃない?」


 アウラは言うのだ。


「そもそも、何で魔術師が後衛なのかわかる? 呪文の詠唱や、魔法の発動までに隙ができるから、それをカバーしてもらうために前衛が必要なの。でも、ワタシのように無詠唱や短詠唱で魔法が発動できるなら、仲間に時間稼ぎをお願いする必要はないでしょう?」

「確かに」


 彼女の言うことはもっともだ。欠点をカバーするためにパーティーを組むのであり、欠点が存在しないなら、定番とされるやり方に拘ることはない。


「どうしても後衛の魔術師が欲しいなら、ニニヤを加えればいいわ。ねえ、ニニヤちゃん!」


 そう言って、アウラはニニヤを抱きしめるのである。15歳の少女魔術師は照れてしまう。


「お、お師匠さまっ」


 その光景には、母モニヤさんも何とも言えない顔になる。


「評価してくれているのはわかるけれど、娘が心配だわ……」


 そして、残るイラであるが、俺の回復魔法トレーニングの被検体になってくれる以外には、ディーのように周りのサポートをしていた。


 また、マリーさんやウィルと、武器開発を行っていた。


 イラは前のパーティーにいた頃、擲弾筒てきだんとうという、爆発物を発射する援護武器を使っていたのだが、俺への借金返しに手放していた。


 で、それでは困るだろうということで、ロンキドさんの家に行ったところ、試作の擲弾筒をもらったのだった。元から小型軽量だが、持ちやすさと装填機構を改良した型らしい。


 基本は回復担当だが、敵の数が多い時など、擲弾筒で援護もできる攻撃型後衛である。


 などと、それぞれが自身の能力アップに時間を使った3日目の夕方。それは起きた。


 王都の各所で起きた謎の爆発と、それと同時に発生した魔獣の出現。


 王都カルムは、混乱に陥った。

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