第33話、俺のファンだったらいいな


 木を片付けたことで、リビングルームが広くなった。木が生えていた部分がぽっかり穴が空いているが、この下は地下室ではなかったか。


 そう思い、穴のほうの土を少し掘ったら石材にぶつかった。おそらく地下室の天井だろう。それなら、この穴は埋め直して床を貼り直さないといけないな。


 俺とダイ様が木を処理している間に、ルカとウィル、ヴァレさんは1階南東のテラス部屋とリビングに隣接する台所周りを改装して、調理用魔道具を設置していた。


「ヴィルさん、キッチンをだいぶ使いやすくしましたよ!」


 ウィルが声を弾ませた。


「うちと同じようにやったので、たぶん慣れないかもしれないですが、断然こっちのほうがいいですよ」


 魔石式のコンロに、水生成タンク、冷蔵庫、照明などが設置され、それらが動くようになっていた。


 ヴァレさんが、早速キッチンに立った。


「私とルカちゃんでランチを作ってあげるから、ヴィゴ君とウィルは他の部屋をお願いね」


 魔女さんはアイテム袋だろうそこから、食材と愛用の包丁や調理板を取り出す。


「ルカちゃん、手伝ってくれる? コンロの使い方とか教えるから」

「ありがとうございます!」


 それ、俺も覚えないといけないやつじゃ……。ルカがここに住むわけじゃないし。まあ確かルカも魔石式コンロをもらっていたし、いいか。


 俺はウィルと他の部屋を回る。俺の部屋をまず決めないとな。2階に上がる。南側の部屋はベランダになっていて、寝室には不向き。では北側だが、北東側は風呂部屋にすることにした。


 というか、風呂だったんだろうなって内装だったんだもん。バスタブがあったし。しかし排水口はあるが、どこから水を持ってきたのか見当がつかない。水が出る仕掛けは見当たらず。


「水の魔法じゃないですか?」

「なるほど。そういえば、ここの持ち主って魔術師だったもんな」


 ヴァレさんのお師匠だったというルシエールという人。そっか、水関係は魔法で作ればいいんだ。俺も少しは水魔法が使えるから、飲み水出したり、風呂の水を出すとかできるかもしれない。


 残る北西部屋は倉庫っぽいので、寝室としてはパス。3階へ移動する。角の四つの部屋は寝室などによさそうだった。南側の部屋は窓を開ければ庭と敷地を囲む壁と門がよく見えた。


「ここを俺の部屋にしよう」


 南東側の部屋を使うことにする。ベッドや椅子、クローゼットなどを買って、部屋を装飾して行こう。俺だけの部屋! わくわくすんなぁ。



  ・  ・  ・



 ルカとヴァレさんが、ラム肉のステーキに肉と豆のスープを作ってご馳走してくれた。


「うまい……!」

「ラム肉もいいですよ」

「その肉、ルカちゃんが焼いたのよ。見てたけど、この子焼き加減が凄く上手なのよ。勉強になったわ」

「いえいえ。小さい頃から肉料理が多かったので」


 和やかな雰囲気で食事。やっぱいいなあこういうの。俺も早く彼女を作って、家族とかもって……。


 ルカはどうだろうか? パーティー組んでいるし、俺にも凄く優しいんだよな。まあ、優しいっていえば、ロンキドさんの奥様方もだけど。


 身長差があるのが少々気になるところだが、性格は申し分ない。料理も上手い。聞いてみようかな……。今度、ふたりの時に。さすがにヴァレさんやウィルの前で聞けない。


 そういえば、とヴァレさんが言った。


「魔剣の収納は凄いのね。あんな大きな木までしまえるなんて」

「見てたんですか……って、ああ」


 リビングを見れば、そこにあった木が消えたくらいは一目瞭然である。


「あの木、どうするの? どこかに移すの?」

「どうしましょうね……。考えておきます」


 いざという時、武器代わりに放り投げる手もあるかもしれない。


 食事休憩の後は、ヴァレさんが建物に、侵入者対策の警戒魔法陣などを施していった。ルカが掃除をしてくれている中、俺とウィルは寝具などを買うために王都へ出た。


 部屋に使うベッドや椅子にテーブル、その他不足する家具を購入していく。調理用の道具もいるなあ。金はある。好きなものを買うぞ!


 移動しながら、ウィルが雑談を挟んできた。


「先日、ヴィゴさんからもらった邪甲獣の装甲ですけど、恐ろしく硬いですよ」


 今のところ、魔法も武器もまるで通用しないらしい。俺が大蛇型に魔法をぶつけた時は、金属部分ではなかったが効いている様子はなかった。元々、魔法に強いのだろうと言えば、ウィルは首を横に振った。


「あの装甲はそれ以上ですよ。あれで防具を作れたら、おそらく最強の防御性能を持つんじゃないでしょうか」


 今のところ、加工する手すらないそうだが。


「……邪甲獣と戦う時は、そこを避けて攻撃しないといけないな」

「そうですね」


 頷いたウィルだが、チラと後ろを見た。


「気づいてますか、ヴィゴさん」

「ん?」

「僕ら尾行されているかもしれないです」

「というと?」


 賑わう王都の街並み。その中に、長い緑色の髪の美女がいた。紫色のローブに魔女の三角帽子。


「綺麗な人だな」


 はっきり言って魅力的。人を惹きつける美貌を持ちながら、しかし周囲に媚びを売るでもなく、落ち着いた雰囲気をまとっている。道行く人も、自然と目で彼女を追っている。


「あの人、さっきから僕たちの後ろにいるんですよ。つかず離れずの距離で」


 ウィルは言った。


「いつから?」

「ヴィゴさんの家を出て、割とすぐだったと思います」


 そんな前から? 俺としたことがウカツ!


「別に隠れるわけじゃないですけど、僕らの行くところについてきているみたいなんですよね……。心当たりあります?」

「ない」


 あんな美人の知り合いがいたら、忘れないんだけどな。


「声、掛けます?」

「なんて?」


 俺、あんな美人に町中で声を掛ける勇気ないぜ? そもそも、本当に尾行しているのかわからないのに。偶然の一致という可能性もまだある。


「もし、家に戻るまでついてくるなら、その時は聞こう」


 少なくとも、住民たちも気になって彼女が注目されているうちはムリだ。


 しかし、もし尾行されているとしたら、それって俺なのかな? 王都を邪甲獣から守った冒険者に声を掛けたいとか? つまり、俺のファンの可能性。……ないかー。

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