第32話、実はいわく付き物件だった?


 俺はルカとウィル、ヴァレさんと、王都北西地区にある俺の新居へ向かう。道中、俺は、王国騎士のカメリアさんの名前を出せば、ヴァレさんもウィル君母子もほっこりしていた。


「あの子、凄く真面目だったでしょ? いったい誰に似たのかしらねー」

「どうだろうなー。……義姉あねは元気でした?」


 普段を知らないから何とも言えないが、具合が悪いとかはなさそうだったから――


「元気だったんじゃないかな」


 そうこうしているうちに、家に到着。するとヴァレさんが眉をひそめた。


「なーんとなくそんな予感はしていたけど、なるほどねぇ。ルシエール婆さんの家か」

「ルシエール婆……さん?」

「私のお師匠だった人よ。魔術師として、とても優れていたわ」

「上級冒険者の家だと聞いてますが」

「冒険者だったわよ。若い頃は、『閃光』なんて異名もあったらしいわ」

「閃光ですか」


 何か格好いい、なんて思ってしまったぞ。ヴァレさんは苦笑した。


「どうせ無詠唱魔法の使い手だったからじゃないのかしらね。私もあの婆さんから無詠唱魔法を教わったし」


 ルカが口を開いた。


「そのお師匠様は……」

「亡くなったわ。もう十年くらい前かしら」


 俺が門の鍵を開けて、庭へと入ればヴァレさんが言った。


「あの婆さんの家だもの。案外、結界とか警戒魔法の類いも仕掛けてあるかもしれないわね。でも、よかったわね、ヴィゴ君」

「どうしてですか?」

「たぶん、この家、妖精付きだから、コイン一枚置いておけば、建物全部掃除してもらえるわよ」

「!? マジっすか!」


 よくわからんけど、掃除を自動でやってもらえる機能があるとか、凄くない!? ぶっちゃけ広い家だから掃除どうしようかと思っていたからマジで助かるわ。


「……あ、でもお金がいるんですね」

「銅貨一枚で全部やってもらえるんだから、お手伝いさん雇うより安いわよ」


 確かに。


「……うん?」

「どうしました、ヴィゴさん?」


 ウィルが怪訝そうな声を出した。いやどうしたというか……。


「何だろう、違和感がある」


 しかし違和感の正体がわからず、とりあえず中へ。玄関から右手にリビングがあって――


「はあっ!?」


 俺は度肝どぎもを抜かれた。


 家の中央の吹き抜け部分に、木が一本立っていた。なんで! 家の中に木が立ってるの!?


「どうしました、ヴィゴさん?」


 驚く俺に、ルカが心配げな声を出した。ヴァレさんは、リビング奥の木へと歩み寄る。


「あの婆さん、家の中に木なんて置いていたのね。変な人ではあるけど」

「いやいやいや――」


 俺は木を見上げる。


「前に来た時には、こんなところに木なんて立ってなかったぞ!?」


 3階近くまで伸びている。そりゃこんなところに木があるなら吹き抜けにしないと無理だろうけど、なんで隙間を埋めるように立っているんだよ!? わけわかんねえ!


「木がなかった……?」


 ルカが小さく首を横に振る。


「いやいや、だって目の前に立ってるじゃないですか」

「結構立派な木ですよこれ」


 ウィルが屈んで根の部分を見る。フローリングだったはずなのに、いまはそこに囲いがあってしっかり土があった。


「イタズラで植えたりできるような大きさじゃないですよ?」

「いや、でもなかったぜ」

「だとしても、この大きさの木をどうやって中に持ち込むんです?」


 しっかり四方に枝が伸びて、葉が生い茂っている。確かに玄関を通って中に持ち込むなど不可能だ。


「ヴァレさんは、昔ここにきたことありますか?」

「いや、中までは入ったことないわ」


 三角魔女帽子のつばをいじりながらヴァレさんは言った。


「だから木があったかどうかは知らない。でも、あの婆さんのことだもの。収納魔法か何かで持ち込んだんじゃないの?」


 なるほど、とルカとウィルが頷いた。あのさあ――


「その魔術師の婆さんは十年くらい前に亡くなったんですよね?」

「気づかなかっただけじゃないの?」

「いや、さすがにこんなでかい木が家の中にあったら、気づくでしょ!?」

「うーん、でも魔物とか、そういう気配とかは感じないし……大丈夫なんじゃない?」


 ヴァレさんは歩き出した。


「それより、さっさと荷物出して、お引っ越し済ませてしまいましょ」

「そうですね。ヴィゴさん、魔剣の収納から魔道具を出してください。僕が設置しますんで――」


 お、おう。突っ立っていても進まないので、俺は魔剣を出して、収納庫に持ってきたものを出した。


「なあ、ダイ様」

「何だ」


 ひょっこり、ダイ様が姿を見せた。


「あんなところに木なんか、あったっけ?」

「何を言うておる。木なんぞ、あるわけないだろうが」


 だよなあ……。木なんてなかったよなあ。


「じゃあ、アレは何?」

「木だな」


 王城にいるカメリアさんを呼んで確認するか。あの真面目そうな人なら、俺が間違ってないって証言してくれるだろうし。


「どうしたものか……」

「切り倒すか?」

「こんな家の中で?」


 どこへ倒すというのか。枝葉の処理とかプロを呼んで処理をするとか?


「じゃあ、あのままか?」

「うーん……」


 邪魔と言ったら邪魔である。虫とか入ってきて、木についたりするのも嫌だし。そもそも、何故ここに木が立っているかも謎だ。というか、怖い。


「切り倒さない」


 俺は木に近づいた。随分と太く、立派に育った木である。……なーんか、この木、見覚えがある気がするんだけど、どこだっけな。


「まあ、とりあえずだ。ダイ様、この木、収納しておいてよ」


 俺は両手で木を掴んで、ちょっと力を入れて持ち上げれば、土ごと根がついたたまま木を持ち上げた。


「このままじゃ外に運べないし、一度収納すれば、外に運べるんじゃね?」

「なるほど、そうしよう」


 ダイ様が木の根っこの先に触れると、そのまま収納。木は俺の手から消えた。

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