第18話、黒い一団との戦い


 やっべぇ、ギルマス、かっけぇ……。


 俺はルカと、白狼族の子供と老人たちを守る位置にいて、廃墟の集落で戦うロンキドさんの戦いぶりを見ていた。


 さすがSランク冒険者。マジで強い。片手に剣。もう片方に盾というスタイルは聞いていた。俺の戦闘スタイルもロンキドさんの伝説を聞いて、そうしているところもある。


 しかし、あの脚力はなんだ? あの水平にジャンプするような、エグい加速で敵との距離を詰めて、盾と剣のコンビネーション。


 いやもう、脱帽だ。俺もあんな風になりてぇ。


「ヴィゴさん」


 ルカの声に、視線をやれば彼女は周囲に目を配りつつ、弓を構えかけていた。


「敵か?」


 白狼族の戦士も警戒している。獣人は人間より索敵力があるらしいが、戦闘民族ドゥエーリ出身のルカもまた鋭い。


「そこ!」


 素早く弓を構えて、矢を放つ。茂みから黒戦士が飛び出したが、ルカの放った強弓の矢で半身を貫かれた。


 笛が鳴った。他にも仲間がいたのだろう。


 黒戦士が2、3人、近くの大岩の裏から飛び出し、こちらを発見した。


 白狼族の子供が弓を放った。手甲装備の戦士も、敵へと向かっていく。黒装束の戦士もまたこちらへと迫る。


 ルカもまた弓を構えた。白狼族の子供の撃った矢が黒戦士の肩に当たったがそこで止まる。その戦士は印を結んだ。


「邪法『巨』!」


 次の瞬間、黒服が内側から破れ、人間が破裂したように見えた。だが実際はオーガ――大鬼の魔物へ変化した。


「なんだありゃ……!」


 変身のインパクトに度肝を抜かれた。飛び出した白狼族の戦士が、一人を倒し、オーガ化した敵に突っ込むが、パンチ一発で迎撃され軽く吹っ飛ばされた。


「くそが!」


 俺は魔剣片手に走る。背丈2メートル超え、筋肉ダルマよろしくマッチョなその体躯は生半可な武器では効きそうにないが、俺の魔剣の前ではねぇっ!


 ルカが矢を撃ち込んだ。しかし――


「効かない!?」


 当たったのだが、オーガは筋肉の鎧で受け止めたらしく平然としている。角鹿をも一撃で倒すルカの強弓にも耐えるのかこいつは。


 オーガは、俺の攻撃を手で受け止めようとした。お前の攻撃なんか、余裕で受け止められますってか? 馬鹿め!


「その油断がてめえの最期だ!」


 オーガは腕で魔剣を受けきれず、半身が潰され回転しながら絶命した。人を舐めるからこうなるんだよ。


「さすがです、ヴィゴさん!」


 なあにルカさん、魔剣のパワーってもんよ。しかし気を抜くことなく、他の敵を。


「むっ……!」


 黒戦士の一人が、俺たちを迂回し、白狼族の集団へと向かっている。負傷者たちの前にはローブ姿の白狼族の少女がいて、敵と目が合った。やばい、あの娘、動けない。


 俺はとっさに足元の岩の塊を左手で掴む。魔剣を落として、岩に持ち替えて投擲!


 投石も立派な凶器。横合いからの石――というには大きい岩が直撃して、黒戦士が吹っ飛んだ。明らかに石ぶつけた威力ではない。重量物の衝突に、血だらけになって黒戦士は動かなくなった。……まあ、生きてはいない。


『お主、我を落とすとか扱いが雑ではないか?』


 魔剣からダイ様の声がした。俺は剣を取る。


「悪い悪い。一瞬、ダイ様をぶん投げようかと思ったんだけど、外れたら取りに行くのが面倒かなと思ってさ」


 魔剣の重量なら当たればミンチ確定。必殺の一撃かもしれない。


 それにしても、さすがは持てるスキル。普通ならあんな岩、小石を投げるような勢いに飛ばないわ。


 魔剣投げじゃないけど、投石技に磨きをかけるのはいいかもしれない。本当の小石ではカスだが、重ければ重いほどスキルの威力が増す。


 もう敵はいないようだ。白狼族は先ほど吹っ飛ばされた手甲持ちの戦士や怪我人の様子を診ているし、ルカも周囲に気を配りつつも肩の力が抜けている。


 廃墟の集落から、ロンキドさんが急ぎ足で戻ってきた。


「そっちにも敵がいたか。無事か?」

「こっちは大丈夫です。白狼族の戦士にひとり怪我人が出たみたいですけど」

「……あの様子なら大したことはなさそうだな。ヴィゴ、ルカ、よくやった」

「いえ」


 ロンキドさんには負けますよ。集落にいた敵は、ひとりで倒しちゃったもんな。


「結局、こいつらは何者なんでしょうね?」


 倒した黒戦士の死体を見下ろす。


「白狼族から聞いた話と総合すると、集落を襲ったという連中と見て間違いない。古の魔王の力を手に入れようというしているか、何かに利用しようとしているのかもしれないな」


 ロンキドさんは白狼族たちを見る。


「ひとりくらい捕虜を取りたかったんだが、さすがに彼らを連れて移動する上で捕虜を取っている余裕はなかった」

「そうですね」

「ヴィゴ、悪いが、こいつらの死体、魔剣の収納魔法で運んでもらっていいか? ギルドに戻って所持品などを調べる」

「了解です。任せてください」


 ロンキドさんに頼られるのは光栄の一言だ。伝説のSランク冒険者と行動を共にして、多少とも役に立っている。天にも昇る気分だ。


 というわけで、謎の黒い一団の死体と装備品を回収して、俺たちは白狼族の生存者たちとその場を後にした。


 峡谷の道を戻り、王都カルムへ繋がる平原を行く。例の邪甲獣の開けた大穴ダンジョンを視界の端に捉えつつ、昼ごろには王都へと到着した。


 白狼族をゾロゾロと連れてきたので、門番と問答があったが、ロンキドさんに任せて問題はなかった。


 住民の珍しそうな視線を集めたが、無事に冒険者ギルドにたどり着いた。


「今回は悪かったね。付き合わせてしまって」


 ロンキドさんが詫びた。いえいえ何をおっしゃいます。


「仕事ですから。問題ないですよ」

「ええ」


 ルカも俺に同意した。いい子だわ、この子。


 ギルドの奥で、ダイ様の収納庫から黒い一団の死体を出して、ギルドスタッフに預ける。白狼族の生存者たちは冒険者ギルドのサブ・マスターが手続きを引き受けたことで、完全に俺たちパーティーの初依頼は終了だ!


 いやあ、マジでロンキドさんと仕事できたのは最高だった。魔王の力うんぬんと少々不安要素もあるが、それはそれ。


「なあ、お前ら、これから予定ある?」


 ロンキドさんが言った。何気に『君ら』ではなく『お前ら』に変わった。


「家でランチなんだけどね、来るか? ご馳走しよう」

「ありがとうございますっ!」


 まさしく、喜んで! 嘘だろ、ギルマスから誘われちまった。断る理由がなかった。

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