第17話、秘宝を狙う者ども


 悪い予感というのは当たるものだ。

 俺たちが、白狼族の集落についた時、そこはほぼ廃墟と化していた。


「まるで盗賊の集団に襲われた後みたいだ」

「並の盗賊なら、白狼族の敵じゃない」


 淡々とロンキドさんは言った。


 周囲を岩山が取り囲むその場所に、十数軒の家屋があったようだが、焼き打ちにあったようだった。木の部分は焼け落ち、石の部分だけが焦げて残っている。


 ルカが沈痛な顔になる。


「生存者は……」

「この先に非常時用の避難所がある。生き残りがいるなら、そちらへ逃げているだろう」

「詳しいですね、ロンキドさん」

「まあ、若い頃から交流があるからな」


 集落から少し離れた岩地に向かうと、ロンキドさんはとある岩を押す。すると大岩のひとつが動いて地下への扉が現れた。


「こんなところに!」

「秘密の避難所だからな。少し待て。様子を見てくる」


 そう言ってロンキドさんは地下へ続く石段を降りていった。警戒しながら、俺とルカは待つ。


「白狼族って会ったことある?」

「子供の時に、二、三度くらい。ヴィゴさんは?」

「王都で見かけたかもしれないが、たぶん直接会ったことはないと思う」


 狼獣人だって聞いたことがある。実際にそれらは見かけたことがあるが、体毛の白い獣人は覚えがなかった。


 階段から気配がして振り返る。ロンキドさんが戻ってきた。


「どうでした?」

「あまりよろしくないな。残っているのは老人と子供ばかり。大人は怪我人ばかりという」

「手当のほうは?」


 ルカが聞いた。ロンキドさんは事務的に答える。


「ここでできる程度のものはすでにできている。耐えられない者は死んだ」

「……」

「それで、どうします?」

「王都に連れて帰る。老人たちの許可は得た。……ヴィゴ、君の魔剣は生きている者は収納できるか?」

「ダイ様?」

『無理だ』


 魔剣は即答した。


『我が収納できるものは命なきモノだけだ』

「そうなると、徒歩で移動してもらうしかないな」


 ロンキドさん曰く、怪我人を収納できたら、早くここから離れられるのに、という意味だそうだ。


「急ぐ理由があるのですか?」

「どうも、白狼族を襲った敵が、『白狼の魂』という秘宝を狙っているようだ。村を襲った連中が、秘宝を求めて戻ってくる」

「何です、白狼の魂って?」

「魔王の力を封じた入れ物だ」

「何ですって?」


 それメッチャ大事なものじゃね? ロンキドさんは頷いた。


「祠を壊した連中が、その存在を知っているなら必ず探しに戻ってくる」


 後ろが騒がしくなる。白い毛の人間――白狼族の少年少女が出てきたのだ。手に手甲をつけた者、弓を持つ物など武装している。狼耳だが、顔は人間のそれだな。あと尻尾がある。


 武装した子供の後に老人と幼い子供たちが出てきた。


「移動する」


 ロンキドさんは立ち上がった。


「ヴィゴ、ルカ。悪いが依頼追加だ。白狼族の護衛だ。無事遂行したら報酬は3倍だ」

「了解」


 老人子供を守ってのは、俺の性分と一致するんでね。文句はありませんよ、ロンキドさん。


 集落方向へ向かい、そこから峡谷の道へ戻る。ごつごつした岩地だったものが、次第に木や茂みなどが増えてくる。


『ロンキド』


 白狼族の少年が鼻をヒクつかせた。どうやら敵のようだ。こちらがやや髙い場所にいるので、集落が見える。こちらは茂みの裏に身をひそめる。


「お前たちは隠れていろ。ヴィゴ、ルカはここで待機」

「ロンキドさんは?」

「集落にいる連中を仕留めてくる」


 眼鏡の奥の瞳が、冷徹な光を発した。いつものように淡々としているが、言い知れない圧を感じさせる。これがSランク冒険者の戦意か。


「ひとりで大丈夫ですか?」

「むろんだ。子供たちを頼む」


 そう言うと、ロンキドさんは風のように走り去った。……マジ速ぇ。もう見えなくなった。



  ・  ・  ・



 白狼族集落を捜索していたのは、黒い装備に身を包んだ一団だった。


「……戦士5、魔術師3か」


 ロンキドは焼け残っている民家の屋根から、それを見下ろした。その下で、地下室がないか探していた黒戦士は顔を上げた。


「上!?」


 シャァ――降ってきたロンキドが剣で黒戦士の頭蓋を貫いた。まず一人。


「敵襲ーっ!」


 黒魔術師が警笛を鳴らした。別の黒魔術師が杖を掲げ魔法を放った。ファイアランス――炎の槍が数本連続で叩き込まれ、建物が吹き飛ぶ。


「やったか……?」


 煙を抜けて、キラリと剣が走った。黒魔術師の首が飛んだ。


「馬鹿な!?」

「こいつ、強いぞ!」


 黒い一団はおののいた。現れるロンキド。自ら投げた剣のもとへ走る。


「捕まえた! サンダーボルトっ! 食らえ!」


 黒魔術師が頭上からの雷攻撃を連発する。魔法はロンキドを狙うが、追従しきれず地面をえぐる。


 そしてついに剣を回収した瞬間、ロンキドは魔術師めがけて飛んだ。弾丸よろしく直進。黒魔術師は慌てて魔法を切り替えるが、その瞬間、鋼鉄の盾を全身で受けて吹っ飛んだ。


 近くの石壁に激突した時には、斬撃で体を切り裂かれていた。


 黒戦士たちが固まる。彼らのもとへ、覇王の如く悠然を歩み寄る眼鏡の初老騎士。


「私はいま、大変虫の居所が悪くてね……」


 ロンキドはロングソードを構えた。


「生きて帰れるとは思うなよ……!」

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