感情の拳

裕治郎

第1話 高校入学式 その一



深夜の公園。


月明かりが照らす静かな夜に、

僅かな血の匂いを感じ取れた。


ある公園内の真ん中で、

高校生であろう多くの少年達が

匂いの発生源である血を

口や鼻から出しながら倒れている。


耳を澄ませば呻き声や泣き声。

真夜中の公園に悲痛な声だけが動き回る。



……いや、違った。


よく見ると二人ほど違う動きをしているのが

見られる。


仰向けで倒れている少年の上に乗り、

拳を振り下ろす少年。


下にいる少年は必死に抵抗するが、

如何せん体制が悪いせいで十分に力が入らない。



「……」



「ぎゃっ!?」



マウントを取っている少年の腕を掴み、

動きを止めようとするが、簡単に振り解かされ

顔面に拳を受ける。


それでも人間の本能的に何とか抗う少年。



「グゥ……く、くそがぁっ!!」



声を張り上げ体全体を持ち上げようと

腰に力を入れるも、上に乗っている少年の体重に

邪魔されて全く体が上がらない。



「……」



「っ!?」



下の少年の努力はお構いなしに、

再び振り下ろされる拳。


的確に少年の顔面に当てた拳は

返り血に染まり、ドス黒い手と化していた。



「はぁ…はぁ……わ、悪かったよ……

もう……しないから……」



「……」



「ぎゃぁっ!!!?」



戦闘意欲を無くし、負けを認めた少年には

一切の反応を見せずに、

再び無言の拳が振り下ろされた。



「……」



打ち所が悪かったのか反応を示さない少年。

その様子を確認した少年はゆっくりと

立ち上がり、空を見上げる。


はぁーっと空吐いた息は、白いモヤを漂わせ

空に浮かぶ月へと被らせる。



「……さぶっ」



身震いした少年は、

ゆっくりと足を動かしだす。


彼の背には血だらけの少年達が

十人ほど倒れていた。


……………………

………………

…………

……



三月、桜が咲き始めたこの季節。

ある中学校は卒業式をもう間近に

控えていた。


卒業を控えた生徒達は新たな学校生活に

期待を膨らませ、残りの中学校生活を

騒がしく謳歌している。


そんな生徒達のいるクラスの中で、

一人の少年は窓の外を見ながらボーッと

物思いにふけていた。


彼の名前は工藤 一誠くどう いっせい

鋭い目付きを特徴に落ち着いた雰囲気は

少し大人びてるように感じさせる。


「なーに考えてんだよ誠一?」



「……源太か」



少年に話しかけたのは

堤 源太つつみ げんた


恵まれた彼の体型は平均の十五歳より

一回り大きく威圧感を物語る体をしていた。



「いや別に……ちょっと考え事だ」



「考え事?……分かった!お前……

俺らと離れ離れになるのが寂しいんだろ?

分かる!分かるぞ誠一よ!一緒に推しメンを

毎日語る事も出来ないもんなー!」



「いや違うから。

だいたいアイドルの推しメン語ってるのは

お前だけだろ?俺はあくまで聞き役だから」



「またまたそんな隠すなよ。

何も恥ずかしがる事なんてないぞ!」



「恥ずかしがる要素どこにあんだよ……」



「ふっ…アイドルなんて所詮、二次元の

踏み台なのだよ」



「あぁ?!

アイドルが踏み台だとコラっ?!」



二人の会話に入ってきたのは、

風間 風太かざま ふうた


校内一のイケメンにして、

二次元のアニメしか興味がない残念イケメン。



「ふむ、僕は間違った事は言ってないがね。

この世界は嘘にうめつくされてるんだ。

アイドルなんて偽物は本物の二次元アイドルに勝てるはずがないのだよ。なぁ、一誠?」



「偽物はアニメの方だよ!

このアニメオタクがっ!!」



「やれやれ話の分からない奴だな。

いい加減現実を見るんだアイドルオタク」



「「ぬぬぬっ!!」」



「いちいち俺の席で喧嘩するなよお前ら…

ま、高校に行っちまえばそれもなくなるか」



「む?なんだ一誠、ずいぶん寂しそうだな?

安心しろ、お前には二次元の虜になって

もらうつもりだからな。

高校に上がっても布教は続けるぞ」



「バカっ!一誠は俺と推しメンアイドルを

極めて行くんだよ!なぁ一誠っ!」



「いや、どっちもご遠慮だから。

……まぁ、高校に上がっても集まる分は

問題ないんだがな。静かな高校生活を

過ごしたい」



「一誠の高校は確か……

成北総合高校だったな。あそこはなー……

ちょっとめんどうかもだぞ?」



「……どういう事だよ?」



「んー……一から説明してやろう。

まず、この地元の高校は全部で四つある。

一誠が行く西北総合高校。

俺が行く蒼海高校。風太が行く甲南学院。

女性だけの三橋女学院。

そこまでは知ってるな?」



「当たり前だ、地元民なめんな」



「うし、なら女学院を抜いた三つの学校は

仲が悪いのも知ってるな?」



「……」



「知らないのかよ……。

まぁ、悪いのは伝統みたいなもんだ。

初めは小さい揉め事だったんだけど、

それが積もって大事にまでなってな…。

そんで三つ巴の戦争みたいなのがあって

けっこう怪我人が出たらしい」



「……マジかよ」



「マジなんだよ。

それでこれ以上事件を起こさないために、

停戦協定みたいなのを作ったらしいんだけど、今年の三年は血の気が多い奴ばかりらしくて停戦協定を破棄してまた戦争が始まるって

もっぱらの噂だ。」



「……ちょっと待て、

別に西北、蒼海、甲南は男子校じゃないんだから普通に女子生徒もいるぞ?

そいつらも戦争に参加するのかよ?」



「んー、レディースに入ってる女もチラホラ参加してたって話は聞いたな…。

まぁ女は僅かだろ」



「いやレディースとかもあんのかよ。

選ぶ学校間違えたか……。」



「まぁ、全男子が強制参加って訳じゃないと

思うぞ、たぶん。だから悪目立ちしなければ

大丈夫だろ。知らんけど。」



「……お前、フォロー下手すぎだろ。

不安がより一層深くなったわ」



「ふっ……安心しろ一誠。

お前が助けを呼ぶ時はすぐ様駆けつける」



「お?残念イケメンの癖にカッコいい事

言いやがるな。俺も同じだ一誠っ!

いつでも助けになるぜっ!」



「風太、源太………お前ら……」



「「お前をまだ『アイドル』『二次元』の

虜にしてないからな」」



「……落ちが最悪だよ」



陽気に笑う少年二人と

先の不安を考える少年。

彼らは残りの中学生活を楽しんだ。


…………………………

……………………

………………

…………

……



初めまして、俺の名前は工藤一誠。

まだ肌寒い気温を感じると同時に

春の優しい日差しが窓とカーテンを通じて

寝ているベットに降り注ぐ。


しっかりカーテンを閉めていなかった事へ

僅かに怒りを覚えつつ、

俺は布団を顔まで被る。



「はいどーんっ!…朝だよ誠ーっ!」



騒がしく開けられたドアと同時に現れたのは

エプロン姿の女性、工藤 美咲くどう みさきさん。


年齢は十九歳で大学生。綺麗な黒髪ロングに

おっとりとした表情をしており、

優しいお姉さんの雰囲気を常に

出している。


実は俺と美咲さんは血は繋がっていない。


俺の両親は俺が小学生の時に交通事故に

よって他界した。


親戚は幼い頃から無愛想な俺を引き取る事に

拒否を露骨に表し、どうするかと

悩んでいたところ、隣に住んでいた幼馴染の工藤家が引き取ってくれるとの事で

話がついた。


そして俺は苗字が変わり工藤になる。

工藤家は俺を家族のように育ててくれた

おかげで俺はここまで育つ事が出来た。


いつかちゃんと働いたら、

精一杯恩返しをしようと考えている。


そして現在、工藤両親は海外出張中。

そのため二人で生活しているのだ。



「……おはようございます、美咲さん」



被っていた布団をゆっくり払い除け、

顔を美咲さんの方へと向け挨拶をする。


お玉を片手に持った彼女は俺の顔を見るや

すぐにニコッと優しい表情をする。



「うん、おはよう一誠。

今日から高校生でしょ?気合入れて行かないと初日から舐められちゃうよー?」



「……うっす。顔洗ってきます」



「はーい、下で待ってるねーっ!」



元気よく部屋を出て行く美咲さんを

見送ると、未だ睡眠を迎えようとする体に

鞭打って洗面所へと足を運んだ。



美咲さん特製の朝食を食べた俺は

学校指定の制服に着替え、玄関に立つ。


靴を履き、後ろを振り向くと

笑顔の美咲さんが目に映る。



「うん、カッコいいよ一誠!

忘れ物はない?ハンカチは?

ティッシュは?」



「大丈夫だよ美咲さん」



「堤君も風間君も違う学校だからね、

寂しかったら私に言うんだよ?いつでも

慰めてあげるからね!」



少しばかり過保護な美咲さん。しかし彼女は

本気らしく、冗談を言ってる雰囲気は

全く感じられない。



「そこは新しい友達でも作って、

とか言うのがセオリーでしょ美咲さん?」



「だって一誠基本ぼっちじゃん。

中学生時代から今日までの間、

友達ってあの二人だけだったし。

そんな訳で自分から友達作りなんて

しないでしょ?」



「……確かに」



「でも一人もいないのは問題だよ……、

だから努力はしないさい」



「……前向きに努力します」



美咲さんの課題に渋々返事する。


まぁあれだ……

やるだけやった的な雰囲気だしとけば

大丈夫だろ。



「よし、約束だよ?

今日は入学式だけだからお昼には

終わるんでしょ?

私は大学の講義が丸一日あるから、

お昼は自分で食べてね!」



「ん、適当に済ましておきます」



「じゃあ帰ったら初日の感想を教えてね!

行ってらっしゃい、一誠っ!」



「はい、行ってきます」



笑顔の美咲さんに見送られ、

学校へ足を運び出した。


『今日から高校、張り切って行こうっ!』

なんてやる気になる訳では無い。


俺が欲しいのは平穏で静かな生活。

源太の話を聞くと少し不安を覚えるが、

悪目立ちしなければ問題ないだろうと

意気込み、学校へと向かった。



――――――――――――――――――――



桜が彩る四月。

此処、西北総合高校で入学式を迎えていた。


家から徒歩にて到着した俺は、

案内役の教員に促されるまま体育館に

足を踏み入れた。


中に入り受験番号と同じ番号が記されている

椅子へと座り、式の始まりを待つ。


周りを見渡せば数ヶ所しか空いている椅子は無く、多くの生徒が座って待っている。


どうやら俺は遅く来た方だ。



「ッチ……遅えんだよ…………」



後方から声がしたので振り向くと金髪の男。


彼の言葉は果たして誰に放ったものなのか?

俺が来るのが遅い?式が始まるのが遅い?

もしくはまだ来てない奴の事を

言っているのか?


それは彼しか知り得ない事だが、

俺はそれより思ったことがある。



「……」



「あ?…何見てんだよテメェ?」



入学式初日に金髪って…………

周りの教員もよく注意しないな……



「……んや、悪い。

知り合いの声に似てたもんだから反応して

振り返ってしまっただけだ、他意はない」



「そうかよ…」



彼は俺の返答を聞くと興味無さ気に

そっぽを向いた。


今の反応を見る限り彼は俺に対して

不満を唱えた訳ではないようだ。





「これから君達は更なる成長をするために、

充実した学校生活を……」



長い……マジで長いこの校長……


俺が椅子に着いて、割と早く式が始まった。

教育委員や在校生代表とやらが話をして

最後に校長の話で締め括るそうだが、

その最後が異様に長い。


かれこれ十分以上話続けている校長。

加えて校長の話を聞くときは何故か

立たされるという拷問付き。


おそらく殆どの生徒は不満が

溜まってるだろう。


『長過ぎる』『早く終われよ』と。


しかしそれを止める術はない。


ある『イレギュラー』を除いて――



「チッ……長いんだよこのやろーっ!!」



はい、イレギュラーこと先程の金髪君です。



「っ!!?な、なんだね君は」



「いつまでもウダウダ話しやがって…

ずっと立たされてるこっちの身になれよ!」



…ほぅ、こいつ言い方が上手いな。

自身の身勝手な発言にも関わらず、

周りを巻き込んで答えている。


まるで生徒を代表するかのような発言に

校長は口を紡ぐ。



「っ…そ、それでは私からの話は終わります。

皆さん、座って下さい…」



「……けっ」



すっかり意気消沈した校長は話を終え、

舞台から離れる。


周りの生徒は俺の後ろにいる金髪君に、

好奇な眼差しを向けている。


だが多くの視線を気にする事なく、

金髪君は椅子に座っている。


ふぅ……まぁ、彼のお陰で長い拷問から

抜けられたのは間違いない。


感謝するぞ、金髪君。





式が終わり、またもや教員に促されるまま

着いたのは一の三と記された教室。


この学校は生徒総数約五百人。

学年六クラスずつあり、

どうやら俺は三組らしい。


机に記されている受験番号を見つけ

椅子に座ると、またもや後ろの席は金髪君。



「さて、式も終わった事だが改めて

もう一度言わせれもらいます……諸君、

入学おめでとう。担任の山崎です。」



眼鏡を掛けた山崎と名乗る男性。

いかにもインテリっぽい彼からは

大人としての余裕があり、落ち着いた雰囲気を出している。



「本日は入学式だけなので授業は

ありません。なので明日から授業や委員会などの決め事を行います。

今からは生徒諸君の好きに行って下さい。


帰宅するも良し、交流を深めるのも良し。

それでは明日からよろしくお願いします」



ペコっと頭を下げてはスタスタと教室を

出て行く山崎先生。


なんともサバサバした先生だなぁ、

と印象を受けた。


担任が教室を出た後、

俺は帰宅するため席を立つ。


教室を出ようとドアに手をかけた瞬間、

一人の声が俺の耳に入った。



「ちょっと待てやそこの二人っ!!」



「ん?」「あ?」



声の方に顔を向けると教卓の後ろに

俺より一回りデカい坊主の男性。



……ん?てか二人?

俺は横目で声に反応した奴を見ると

金髪君だった。


……お前かい。

どうやら金髪君と俺は行動が

シンクロしたようだ。



「お前らだよお前ら。

せっかく同じクラスになったんだから

仲良くしないといけねぇだろ?

交流を深めようぜ?」



俺の勝手な想像するに、

彼は今まで威張って生きてきたのだろう。


初対面の人にお前呼び。

バカにするかの様な声のトーン。

格下を見るかのような上からの目線。


恵まれた体型、あるいは恵まれた環境が

尾を引いてここまで自信家になっていると

俺は読んだ。



「……悪いな、気分が乗らないからパス」



「うるせぇデブ。俺に指図してんじゃねぇよ」



ちょ、この金髪君!

挑発する様なこと言うなよ!

ここは優しく返答しとけよ!



「っ!舐めてんのかお前らっ!」



あれ?俺も?

優しい返答したつもりなんだけど。



「舐めてんのはお前だろクソデブ。

さっさと家に帰って出荷準備でもされてろ」



「……ぷっ」



……こいつ面白いな。

少しウケたぞ。



「ぶっ殺すっ!!!」



金髪君の返答に怒った坊主は拳を振り上げ、

勢いよくこちらに走ってくる。


すると俺が手を掛けていたドアが勝手に

開いて、一人の男性が姿を表した。



「はいストーップ!」



「っ?!」



ドアから現れたのは

同じ学校の制服を着た男性。

急な彼の声によって動きを止めてしまった

坊主は鬼の形相で声の主を睨む。



「んーっ、今年の一年は豊作だねー。

元気があってよろしいよろしい」



「な、何だよお前は?!邪魔すんなよっ!」



「こらこら、僕はニ年の先輩だぞー。

まぁ、ちょっと君達には

着いてきてほしい所が有るんだよ」



「あ?いきなりなんだよ?!」



「いいからいいから、騙されたと思ってね。

後は……んー」



不満を撒き散らす坊主をあしらいつつ、

他の生徒をぐるっと見渡す先輩。



「…………他はダメだね…。

うん、それじゃあ大きい君と金髪の君。

それに目付きの悪い君ねっ!」



俺を含め三人に一人ずつ指差する先輩。


なんで俺まで………

絶対めんどくさい事なが起こりそうな

気がするんですけど。



「…おいちょっと待てよ先輩。

俺に指図してんじゃねぇよ」



お?金髪君は不満があるようだ。

よしいけ金髪!お前に決めたっ!



「……君は知ってるよね?

西北、蒼海、甲南。この三校が仲が悪い事」



「あ?それが何だよ?」



「今日は入学式。つまり蒼海と甲南も

君達みたいな目立つ子が入ってると

思うんだ。それでもし他校と揉めた時に知らないと処理が大変だからね。


今日は目立つ子をお互い顔合わせする

集まりがある日なんだよ」



確か源太の話によると停戦協定を

結んでいると言っていたな。



「けっ…それはあんたらの都合だろ?

集まりだかなんだか知らねぇが、

俺はめんどくさいから行かねないぞ」



「あはは…

それを言われると返す言葉もないなー、

うーん…………」



先輩の話も分からなくない。

大切な停戦協定を守るためにお互いの問題児を紹介し合う。


すると万が一、他校と生徒が揉めた時に

素早く事態を収拾できる事になる。


だが、そこは問題児。

金髪君は納得がいかないようで、

教室を出ようと足を動かした。


…よし、金髪君が帰ったら俺も帰ろう。

一人も二人も変わらないだろうからな。



「あー今日の集まりは新人の見せ合いと、

少しミニゲームがあるんだけどなー…」



先輩の突然な独り言に

ピタッと動きを止めた金髪君。


ん?……雲行きが怪しい予感。



「他校の問題児が自信満々で

来るんだもんなー…もしかしたら、

喧嘩の一つや二つあるかもなー」



ピクピクっと金髪君の耳が僅かに動く。



「そういえば他校の生徒が金髪男は、

基本喧嘩弱いって言ってたなー」



「…………俺も行く、案内しろや先輩」



憤怒の表情を露わにする金髪君。

それに比べ、ニヤッと悪どい笑みを見せる

先輩は満足した様に頷く。


チョロ過ぎるだろ金髪君よ……



「うんっ、それじゃあ行こうか三人とも!」



「ちっ…何なんだよいきなり……」



「……金髪をバカにした奴はぶっ潰す」



「……はぁ」



坊主は文句を言いながらも素直に付いて

行き、金髪君は先輩の口車に転がされ、

俺はというと駄々こねる前に諦めた。



学校を出た俺達は先輩の後を付いて行き、

学校の裏山を上がって行く。



「あ、そういえばまだ名乗ってなかったね。

僕の二年の千賀 和樹せんが かずき

よろしくね」



「俺の名前は轟 翔真とどろき しょうまだ」



「…伊崎 充いざき みつる



「…工藤一誠」



「うん、みんなよろしくね!

今日はちょっとした歓迎会と思って

変に気負わず楽しんで行こうーっ!」



「おー!何だよ先輩、あんたノリ良いな!」



いつのまにかテンションが上がっている轟。

元はと言えばこいつの発言が事の発端で

千賀さんに目をつけられたのに…腹立つな。



「チッ……うるせぇ」



ふむ、どうやら伊崎と俺は感性が

似ているだ。



「あー?!なんだよ金髪根暗野郎が!

どうせお前は高校デビューだろうが?」



「あ?デビューかどうか、

お前の分厚い身体に教えてやろうか?」



「ちょ、ちょい待った!

もうすぐ着くから揉めないでよ!

工藤君も止めてくれっ」



「そいつもこの金髪と同じですよ先輩。

どーせその目付きで今まで虐められてきた

根暗野郎ですよ」



「こらっ、轟君!クラスメイトにそんな事を

言ったらいけないよ!

例え真実でも隠さないといけない時は

あるんだから!」



…まぁ、ガキの頃に虐められてた事は

確かにあった。でも、中学に上がって

そういう事をする奴は徹底的に

潰したけどな。


てか、先輩のフォローが下手すぎる件。



「チッ……よく騒ぐ出荷前の豚が」



「んだとゴラァ?!」



「わわわ、ちょっとっ?!!」



道中騒がしく揉める二人の姿をぼーっと

見つめる。


やれやれ、俺は何してるんだ。


静かな学校生活を望んでいたのに、

問題児と思われる二人と道案内の先輩。

彼らと裏山に他校との集会。


平穏とはかけ離れたスタートに

俺の溜息は止まることを忘れた様だ。



だが一つ思った事がある。


源太と風太……

中学頃に彼らと共に過ごしていたような

騒がしい時間に似ている気がして、

少しばかり俺は懐かしんだ。


矛盾しているが現状、俺の中では

面倒だが足取りは思いのほか軽かった。




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