だから買って帰ってみた
西丘サキ
第1話
一緒に暮らし始めるとインドアな2人だから、家から一歩も出ない休みが増えた。ちょっと無理して都心の交通の便が良い所に住んでいるから、遊びに行こうと思えばいつだって行ける。それがかえって出歩くのを億劫にさせてしまって、今日みたいに結局2人して、一日中サブスクリプションの動画配信サイトで映画や今期のアニメを一気見しながらスマホゲームのクエストをこなしている。
ソファーベッドをソファーにして、2人並んでまだ消化していなかった今期のアニメを見ている。僕的にはありだったけど、彼女的には退屈だったようで、僕らが仲良くなったきっかけだったスマホゲームの追加ストーリーと限定ガチャをいつしか熱心に進めだしていた。一緒に暮らし始める前には全然見なかった振る舞い。ちょっとした違和感というか、目くじらは立たない程度の行き違い。たぶんお互いにそんなことを感じる場面はあるんだろう。こういうのが積み重なって、相手を許せなくなる時が来るのかな……なんて考えてしまう。
アニメは今週分まで追いついて、エンディングが始まる。そろそろ腹減ったな、と思って、僕は彼女に声をかける。
「お腹すかない? 何か食べよ」
「うん、何でもいい……けど作るのも頼むのもめんどい」
ちょっと生返事。そして予防線。別に僕だって作るし注文するし、受け取りだってするけど、自分が前に出てやるものだと思っているような口ぶりはなんでだろう。彼女の方が年上で、僕よりも社会人歴が長いせいだろうか。むしろ、僕が彼女に全部やってほしいように見えているのだろうか。
ちょっと気をつけよう。
「早く食べたいし、カップ麺にしよっか。買い置き何があったっけ?」
ソファーから立ち上がって、僕はキッチンに向かう。備え付けの棚の一画に、乾麺とかインスタント食品とかをまとめていた。そこにある品目を確認して、彼女に話しかける。
「何にする―? 赤いきつねと緑のたぬき、あと俺の塩があるー」
「俺の塩がいいー」
「はーい。じゃあ僕はきつねにしよ。お湯沸かすねー」
そして僕はお湯を沸かして、そのままキッチンで選ばれたそれぞれに注いでいく。できあがりまで待っている間に、気になっていたことを彼女に尋ねる。
「そういえば、赤いきつねも緑のたぬきも全然食べないんだね。食べてるとこ見たことない」
「んー、昔は割と食べてたけど、最近はあんまないかな」
「ふーん……あ、そういえば今度出張が入ったんだけど」
「いつ、どこ?」
「来週に大阪。どうしても行く必要あるみたいで。何かおすすめの店とかある?」
僕がそう聞くと、ちょっと考えた風の間が空いて彼女が答えた。
「大阪は知らないなあ。てか、西日本でひとくくりにしてない? 私島根だし、ぜんぜん違うから」
「いや、そういうわけじゃないから」
「まったく、これだから東京人はー」
冗談めかして笑いながらこっちを見つめてくる彼女は、年齢なんて気にならないくらいかわいい。つられて少し笑ってしまいながら、僕はできあがったカップ焼きそばのお湯を捨てた。
大阪でやってみたいことが、ひとつ思いついていた。
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